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わかりやすく話す(2)

わかりやすく話す方法の前に、話は相手に伝えなければ意味がありません。

当たり前のことですが、現実問題として、これがないがしろにされているケースをたくさん目撃してきました(笑)。

わたくしにとって最悪のそれは、わたくしが二十代前半のときのことです。

その日、わたくしはある製本工場にアルバイトに行きました。

20人以上が立って待機しているところで、何やら説明のような話が始まりました。

ところが、工場はすでに稼働していて騒音がいっぱい。その上、話している若者は、下のほうを向いて、小さな声で、早口でブツブツといった感じで口を動かしているだけで、目も上げないのでした。

何を言っているのかまったく分からないので、人をかき分けるようにして前の方に行って聞こうとしましたが、結局、全然わかりませんでした。

それから仕事が始まり、わたくしは年配の人と組みました。

その人がヒョイとベルトコンベアーを跳び越えましたので、わたくしもそれを追って跳び越えようとしました。

ジャンプ力には自信がありましたので、思い切り高く跳びました。

その時、ガン!という鈍い強い音がしました。
ベルトコンベアーの上の低い所に、鉄の横柱があったのでした。

眉のあたりに手を当てて離してみると、ドロッとした血が手のひらに乗っていました。深い所から出てきた血だというのがすぐにわかりました。

眉間に7針を縫う怪我でした。

病院のベッドに横になっていると、会社の担当者が二人来ました。

いろいろな手続きのことを話されたのですが、それまで何も言わないでいたもう一人は、騒々しい中でブツブツと喋っていたあの男でした。

その男が最後に吐き捨てるように言いました。

「あれだけ言ってもわかんないヤツがいるんだよな」

それを横になって聞いて、わたくしは「ここまで無能な人間が存在しえるのか!……」と思ったものでした。

あんな騒々しい所で、メモも渡さず、下を向いて小さな声でブツブツ喋ってるだけで伝わるわけがないだろうに! 呆れて怒りすら出て来ませんでした(笑)。

まさか、「ベルトコンベアーは絶対跳び越えないように」とかと言ってたのでしょうか(笑)。

「俺はちゃんと言った。聞かないほうが悪い」
こういう台詞を何百回となく聞いたように思いますが、これはアウトです。

伝わらなかったことに責任を持とうともしない。
では、いったい誰の何の為に言ったのでしょうか?

コミュニケーションの技術以前の問題ですが、コミュニケーションを考える上でとても重要なことですね。

「カウンセラーは、「何を言ったか」(発言内容)はもちろんのこと、「何がどう伝わったか」にまで責任を持つものである。相手に伝わるように伝えるというのは、話の基本である。しかし、これは実は非常に難しいことである。まして職業リハビリテーションの場面では、相手の興味や関心も知識も情報操作能力もまちまちである。カウンセラーは、それらをも考慮して臨まなければならない。」

これは、『わかりやすい話し方の原則』に書いた文章です。(極意塾投稿No.396)

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