沖縄に来た本当の理由⑧

メリーさんは座り込んでいて、私は気がつくと瞬間移動したかのように、メリーさんの隣に居た。
可哀想なメリーさん。その思いしかなく、必死に脇に手を入れ、ふんぬと立ち上がらせた。

「はっさびよーなーなー(あらららら)
あれ、ほれこれさ、痛いね、あら。」

私はメリーさんの服についた泥を手で払う。

その瞬間見上げると、右に左にサーっと雲が移動して光が差した。そして、ウグイスが鳴いた。

「はっさ。良かったね。来て良かったね。」
メリーさんは空を見上げて、そう言った。

そんな言葉がこのタイミングで出るとは思わなかったので、「え?!どうしてですか?」と問う。

「沖縄ではウグイスが鳴いたら願いが叶ってね〜ってことだわけ、雨もサーっと引いたさ。すごいね。」
とびっきりの笑顔でこちらを見る。メリーさんは満面の笑みの時、若い頃が想像出来るような顔をしてる。

そんなこんなで、少しお尻を打ってしまったメリーさんを支えながら階段を登る。

「あなた、覚えてるわけ?」

「何をですか?」

前世のことを聞かれると思ったが違った。
「さっきさ。私がいくら大声出して止めても止まらずにさ、ね、呼ばれてたね。覚えてないでしょ」

……..

覚えてない。目に映ったものもボカシがかかっているようで、岩しか覚えてない。
そして、行かなければという思いしか思い出せない。

「良かったさーひとりで来なくて。」

その言葉の続きを聞くのが怖かったので、下を向いて自分たちが踏む落ち葉と枝が折れる音を聞きながら歩いた。

メリーさんを乗せて、普天間の自宅へと送る。
お礼を言ったり、色んな話をしたのだが、何も覚えていない。
ふわふわとして、夢の中のような曖昧な世界を運転して帰ったように思う。

「あぁ、私はいつか沖縄に来るんだな。」

メリーさんを送ったあと、それは自発的なのか分からないけど、そう思った。
でもそんな事は叶うわけもない。
私には岡山に旦那もいて、息子もいる。
家族もいる。家は岡山だ。

絶対に有り得ないけど、そんな気がした。
どうしてもそんな気がした。



そして、8年後、私は沖縄に移住した。

別に沖縄にいる相手を狙い打ちした訳でもなかったし、自然と、というか何か強制的な力も感じながら、気がついたら沖縄に住んでいた。

糸満にはその後近づかなかった。糸満に行くとどうも、耳鳴りと頭痛がするからだ。

メリーさんとはその後、連絡がとれなくなった。
会って3年後くらいに、電話番号が使われてないとのアナウンスが流れ、その1年後には、関係のない男性が電話口に出た。

ただ、きっとまだこの旅は終わっていない。
全てが旅の途中だと、
また誰かが私の脳に直接話しかけてくるからだ。



私はまだ、旅の途中。
そして、これが沖縄に来た本当の理由。



〜完〜


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