善意とは?
善意というのは分かっていた。
でも頼むからお願い、そっとしてほしかった。
私は疲れていた。この土日はフルタイムの仕事で体力を使い果たし、絶え間なくお店に来るお客さんの接客で憔悴していた。休憩時間にはライターの仕事もして、休む暇もなかった。
私は本当に本当に疲れていた。
いつもはパソコンを開いて仕事をする仕事帰りの電車で、珍しく昨日の私は死んだように眠った。
何度も言う。本当に疲れていたのだ。
電車は終点に着いた。行き先は反対方面に切り替わり、新たな乗客がぞろぞろと電車に乗り込んだ。
私は電車から降りなかった。
いや、正確に言うと降りれなかったのだ。
体が重すぎて、眠すぎて、体を起こすことができなかった。電車が反対方面に行こうが、そんなのどうでもよかった。
私は、まだあの電車の中で休んでいたかった。
でも、そんな私の事情は誰にも分からない。
とある中年の女性が私の鞄をトントンと叩いた。
「もう着きましたよ」
「ありがとうございます」
精一杯の力を振り絞ってその女性にお礼を言った。
それが限界だった。私は再び目を閉じ、そのまま眠り続けようとした。
すると、その女性は周りに聞こえるようにはっきりと大きな声でこう言った。
「え?あなた降りないの??」
私にははっきりと分かった。その声には嫌味が込められていると。起こしてあげたのに電車を降りない可笑しな子がここにいるよ、と言わんばかりの大きな声だった。
語弊を恐れずに言おう。
不快だ。
起こしてくれたことは問題ない。むしろ、善意がある行動だろう。でも、それに応じなかったからといって、電車を降りなかった私を好奇の目にさらす必要はなかったはずだ。
善意とはなんだ。難しい。
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