といれ

故郷について古今東西の人の文や詩歌を集めて書きます

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祖国 その惨憺として輝けることば、熱湯にしづむわがシャツ 塚本邦雄 日本に住み、/日本の国のことばもて言ふは危ふし、/わが思ふ事。土岐善麿 この二人の景色は似ている、と思った。簡単に掲揚し賞賛できなくなってしまった自分の祖国をどうやって愛したり眺めたり、いたわったり考えたり心配したりしたらいいか、まずその姿勢の置き方から悩んでいる。 祖国を愛す前に、その愛し方、愛すときの自分の姿勢とか態度とか身の置き方というものを悩んでいると思う。 だから自分が何か考えるときに、日本

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      アイ・ウェイウェイのドキュメンタリーを見た。彼はフィルムの中で、何度も祖国のことを罵っていた。ふぁっきんまざーかんとりー。 彼が祖国を罵れば罵るほど、彼が祖国を愛してるのがわかった。当局に捕まっても、亡命したり移住したりしないで国にとどまりたい。祖国にとどまりたい。祖国の未来がどうにかいまより良くなってほしい。どんなに憎んでいても祖国に絶望していても留まる。 彼ほどの有名人ならどこでだって生きていけるだろう。 彼が fucking mother countryと歌うとき

      • 英語話者のために少しずつ英訳を入れていくことにした

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          坂口安吾というひとによると、突き放されなければ文学ははじまらないのだという。 Ango Sakaguchi says that literature starts from where we are abandoned. 文学来自我们被遗弃的地方 モラルも救いもなにもない、ただひどく突き放された状態が、文学の出発点になるのだという。 『文学のふるさと』では3つのストーリーが紹介される。その中の一つに、芥川龍之介のところに農民が自分の書いた原稿を持ってくる話がある。親が

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          床前明月光,疑是地上霜。举头望明月,低头思故乡。 chuang qian ming yue guang, yi shi di shang shuang. ju tou wang ming yue, di tou si gu xiang. ベッドに横たわって、夢うつつになってたら白い光がみえた。あれは何だ? 地面の霜がきらきら光ってるのか? 頭をあげてよく見てみたら、それは月ではないか。遠くの大切なあのひとたちも、あの月を見てるのかと思う。今はただ頭を垂れて、故郷のこと考え

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          「わたしの覚えている故郷は、まるでこんなふうではなかった。」 「わたしの故郷は、もっとずっとよかった」 当然のことだけど、記憶は変容される。記憶は脳味噌のなかで加工される。つらい出来事がさらに脚色されてもっと嫌な思い出になったり、反対になんでもないことがさらに美化されて保存されたりする。 実際、過去は既に生き延びることができた思い出なんだから、これから死ぬかもしれない今や未来に比べたら、動物にとっては無条件にポジティブな意味を持っているかもしれない。 それに加えて、子

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          たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん猫ちゃんがとつぜん失踪してしまったときのおまじないとして有名な古今集の歌(巻8・離別365・在原行平朝臣)。「待ってると聞いたら、すぐ帰るから」って言ってるわけだけど、実際に誰に言ってるかというと、まあ普通は都に置いてきた恋人と解釈されそうだ。 ユニコーンの「大迷惑」にも似てる。 でも、私はここで「待ってると聞いたら秒速で帰るぜベイビー」のベイビーは、ホーム・スイート・ホームのことなんではないかと思う

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          そもそも故郷についてのなにか確かな概念を与えてくれたのは加藤周一の『小さな花』の中の文章だった。それを読んだことで、当時19才くらいだった自分に、なにか決定的な種のようなものがまかれたという気がする。 だけどnoteでいろんなひとの故郷を集めようと思いたったのは、やっぱり魯迅の『故郷』を写したかったから。日本の中学3年生の期末試験に必ずでるやつ。するめかあたりめかって思うくらい噛めば噛むほど味がある。美味しくはない。 魯迅はアジアの近代化を願いながらというか実際にそれを手

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          ひきつづき、フランツ・カフカ。 『判決』から「故郷」にまつわるところを引用。異国へ去り、うらぶれてしまった友達について同情しながら語る主人公。でも、後半から主人公の正体というか裏の部分がじんわりと現れてきて、なんだか変な方向にいってしまう物語。 商売も成功し、金持ちと婚約間際で、順風な人生を生きている主人公が、どうして異郷のおちぶれた友人に執着して手紙を書き続けるのか。誰かを必要以上に憐れんでいるとき、案外自分のほうが不幸せなのかもしれない。 誰もが「此処を離れたからと

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          フランツ・カフカ『夢・アフォリズム・詩』平凡社ライブラリーから、故郷を集めてみた。カフカの故郷の概念にはちょっと恰好良いものが含まれていた。持ち運び可能な故郷。家を運ぶ。実際どこの国に行っても自分の部屋は自分だけの世界、家ごと運んでいるような感覚だ。自分の部屋だけ故郷の匂いがする。色彩、壁の絵葉書、自分好みのタオル、お菓子、故郷特有の食べ物、といったものが増えていくとモバイル故郷ができあがる。 ムーバブルタイプコキョウ。自分の過去を持ち出す。月の故郷の件が難しいが、書くこと

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          岩城けい『さようなら、オレンジ』より故郷を拾ってみた。寺山修司は日本にいながらにして祖国喪失について歌ったけど、此の本は実際に物理的に祖国を離れた女のひとたちの物語。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「自分の国がどこにあるのかわからないサリマには、それが隣国なのか、それとも海の向こうなのかもよくわからなかった。」 「職場には同じように国を離れた仲間が同じように働き、」 「このあたりじゃ、農家が多いから家に帰ればたいていシープ・ドッグがおなかをすか

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          Background、そのひとの背景、Home、ホームタウン、おうち。故郷ってなんなのよなんなのよなんなのよいったい。 たとえば、両親は中国で生まれて、親戚家族はみんなベトナムに移住して、だけどベトナム戦争があってメルボルンに亡命した。両親の母語は中国語。自分はメルボルンで生まれたから母語は英語か中国語かわからない。家では家族と中国語を話す。だけど学校であったこと、英語じゃなくちゃ説明できないこともある。英語は周りのオージーよりちょっと苦手、かといって中国語も完璧じゃないし