お座敷通勤列車のこと

ある日、仕事帰りに奮発して臨時の特急電車に乗ると、それはお座敷列車だった。

そんな馬鹿なことが、本当にあった。

普段は車通勤の私だが、その日は事情があって電車で通勤した。

帰りは普通電車の乗り継ぎが悪く、駅で随分待たなければならないところ、臨時の特急電車がくるという。

疲れてもいたので、時間を数百円で買うつもりで一駅分の特急券を買うことにした。

その特急は全席指定だという。自由席がないことに違和感を感じたが、指定席を発券され列車の到着を待つと、やってきたそれは、行楽用のお座敷列車だった。

うろたえつつ、乗車する。お座敷列車なので、当然固定座席はなく、テーブルに座いすと座布団が置いてある。

先客の乗客たちが心なしか所在なさげに、ぽつりぽつりと席についている。

どこに座れというのだろうと、戸惑いつつ、ちゃぶ台程度の小さなテーブルを見ると、まさかの座席番号がはってある。

私が座るよう指示された席の同じテーブルの斜め向かいには、すでに若い女性が座っている。

いくらなんでも、はす向かいに臭い靴下をはいたおじさんが座るのは気まずすぎる。

私は、自分の指定席ではないが、一番周囲の乗客と距離がある席に座ることにした。

列車が動き出す。床に座って眺める車窓の風景はいつもと全く違って見える。

これが、気心知れた仲間との旅行で、ビールを飲みながらだったりすると、確かに楽しいんだろうなと思う。

しかし、何とも気まずい雰囲気が漂う列車の空気には慣れないまま、私の通勤小旅行は終わった。

笑い話のネタができたとは思ったが、お座敷列車を通勤時間帯の臨時の特急列車にしてしまう鉄道会社のセンスは賞賛すべきか、批判すべきか、私にはよくわからない。