ワンオペ3人育児のとくべつな夜
家族にとって「今日はとくべつ」という日がある。先週の金曜日は、まさにそんな夜だった。
今年の初めに次男が産まれ、子どもが3人の生活に突入して早4ヶ月。
この毎日を例えるなら、全速力でマラソンを走っているような日々。
でも、まあ。最近はそんなハイペースにも慣れ、夫婦で交代で息抜きしつつ、なんとか生活が回りはじめた今日この頃。
ついに、恐れていた時がやってきた。
そう。「ワンオペ3人育児」夜の部。
* * *
「どうしても、行きたい飲み会があって…」
夫が突然そう切り出した。
いや、夫なりに、私の負担を想像して悩んだ末の言葉だとは思うけれど。
やはり突然とも思える「夜、ひとりで子どもたちをみてほしい」という申し出に、頭のなかは、え!!?お風呂は?寝かしつけは?赤ちゃん泣いた時点で詰むんじゃ…??、と大混乱。
とはいえ、ここ数か月(数年?)もの間、夜のお誘いのほとんどを泣く泣く断ってきた夫が言う「どうしても」のときくらい、その気持ちに答えてあげたい。
「わかった」と絞り出すように答え、私はこの日から数日間、ずーんと気持ちが沈んだまま、ついに決戦の金曜日をむかえたのだった。
関東が梅雨入りした、この日。
保育園から4歳、2歳を引き取って、私の、初めてのワンオペ3人育児の夜がはじまった。
まずは「家まで無事に帰る」が第一関門。
水たまりをバシャバシャしては三歩進んで二歩さがる子どもたちに対して「家の!まえの!自販機でジュース買お!!」と、モノで釣りつつ家路へ急ぐ。
自販機でミックスジュースを2本買う。
オレンジジュースやリンゴジュースもあるけれど、ここで大事なポイントは「同じ種類を姉弟に買い与える」ことだ(「違う」と必ずケンカする)。
「お家に帰ったら、お風呂でジュース飲みながら、ママと遊ぼう」と提案すると、ふたりとも「わぁい」と声をあげた。
帰宅後は、すぐに第二関門の「お風呂」。
いつもは夕飯後にお風呂だけど、今日は雨でずぶ濡れだし、ワンオペ育児最大の難関であるお風呂(当社比)さえ終われば、私の気もすこしは休まるから。
赤ちゃんはベビーベッドへ一旦置き、4歳、2歳に服を脱ぐよう促す。
が。しかしと言うか、やはりと言うか、ふたりともふざけあってなかなか服を脱がない。
でも、ここで「早くしなさい」と急かしたい気持ちはぐっと抑える。私のイライラが子どもに伝わった瞬間、上手くいくものもいかなくなるのだ。
「ほらほら、お風呂にジュースがあるよ」
のん気な声がけを意識しつつ、またもやジュースで釣りつつ、ふたりを裸にすることにやっと成功。
よし、君たちはそのまま脱衣所に待機だ。ママは、赤ちゃんを連れてくるよー。
上の子がお風呂の間、赤ちゃんはバウンサーで脱衣所に。そう算段をたててベビーベッドに近寄ると、待ちくたびれたのかすっかりスヤスヤと寝息をたてる0歳児。
むむむ。むしろこれってチャンス?今のうちに上の子たちのお風呂を終わらせちゃう?
とりあえず赤ちゃんは寝せたまま、4歳、2歳と一緒にお風呂に入ることにした。
ふたりを湯船にいれ、先に私が体を洗う。
シャワーで目をつむるときは、子どもに話しかけながら耳で安全を確かめる。
ただ、最近のふたりは静かにしている方が珍しく、姉弟のふざけあう声が浴室に響きわたる。うん、こっちのふたりは大丈夫。
寧ろ、シャワーの音に紛れて、遠くから赤ちゃんの泣き声が聞こえた気がし、部屋にいる0歳児の様子が気がかりだ。
急いで、4歳2歳の体を洗い、ふたたび湯船につからせる。
「パプリカ、大声で歌って待っていて」
そう、子どもたちに言って、私は赤ちゃんの様子を見にいくと。
なんだ、まだ寝ているじゃないか。どうやら泣き声は空耳だったみたい。
寝ている0歳児もお風呂に連れていき、ささっと体を洗い、最後は4人で湯船にドボン。
さあさあ、順番にあがるよ。
子どもの体をふき、保湿の薬をぬって、パジャマに着替えさせる。そのあとは0歳児にミルクをあげて、寝かしつけ。
30分かけてトントンゆらゆらでやっと寝た。よし、とりあえず1人終了。
そうしている間にも、時刻は夜7時をまわった。そろそろ第三関門の「夕ごはん」を準備しなくては。
でも。
今日は食事づくりまで頑張れない…。
ドラえもんを観ながら、子どもとレトルトカレーを食べる。いつもは、食事中のテレビはダメだけど、ワンオペの今日はもろもろゆるい。
カレーを食べても、まだなお「なにか食べたい」とごねる姉弟に、ええい明日の朝ごはんだけど、まあいいかと、バナナとグラノーラもだす。
子どもの食事がやっと終わり(1時間かかった)、食洗器、洗濯乾燥機をまわし、ふたりの歯磨きもすんだ夜8時半。
ようやく、寝かしつけのゴールテープがみえてきた。
照明を消して子どもたちと一緒にゴロンと布団に寝ころぶと、張り詰めていた気がゆるみ、すぐに睡魔が襲ってきた。
* * *
「ふ、ふぎゃぁぁぁ」
暗闇に0歳児の泣き声が響き、はっと目を覚ます。時計をみると夜の11時をまわったところ。今日もまた寝落ちしてしまったよう。
赤ちゃんのミルクを準備するため、起きあがる。台所には夫が帰ってきた形跡がない。
ふとスマホに目をやると。
「いま帰っている。お土産はなにが良い?」
暗い画面にポンと、夫からのメッセージが浮かびあがった。
え。やったぁ。なにがいいだろう。そう思ったらなんだか急にお腹が空いてきた。
「お寿司!」
強気な返信をすると、数秒後に「了解」のLINEスタンプ。
30分後。約束通りお土産のお寿司を手に夫が帰ってきて、私ひとりで過ごす夜が幕を閉じたのだった。
「今日は大変だったよね?ありがとう」
そう言う夫に対して、うん、大変だから、今日はお風呂でジュースを飲んで、アニメを見ながらレトルトカレー食べて、最後はグラノーラを袋ごとあげちゃった。今日はみんな好き放題だった、と答えると。
「まあ、今日は『とくべつ』だからね。いいよいいよ~」と、夫が笑った。
* * *
私の周りには、さまざまな事情のなか、日常的にワンオペ育児を担う母親(なかには父親もいるだろうけど、圧倒的に母親)が、本当に多い。
そして、核家族のわが家にとっても「ワンオペ育児」は、いともカンタンに日常となりうること。
だからこそ。
こんな夜だけは、私は子どもを甘やかし、夫はお寿司を買ってくる。
ワンオペ育児が家族にとって、「いつも」ではなく「とくべつ」だと、そういう事にしておくために。
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