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集う人の想いとご縁を紡ぐ、町のお針箱

加藤弘美さん 1963年生まれ 大阪府出身
アトリエRIKA 店主

25年前に寄居町へ移住し、服飾デザイン・制作・補正・修理・オーダーメイドなどを手がけるアトリエRIKAを創業し、4年目を迎える。


とにかくすべてが驚き。自分にとっては異世界

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- どんなことがきっかけで、寄居町へ移住したのですか?

主人が山や川が好きで、住む場所を探していた時にたまたま出会ったのが寄居だったんです。今となっては、自然の多いところに住む理由も理解できるんですが、当時は若かったのでどちらかというと横浜とか豊洲とか、もっと都心に近いオシャレなところに住みたくて。

東京寄りに住むという選択もできたんですが、最終的に土地が安定しているというか、自然があって地盤も強い寄居に住むことを決めました。正直なところ、当時は横浜とかの方がかっこよくていいな〜とは思ってたんですけどね。(笑)

- 最初に寄居に来た時の印象はどうでしたか?

25年くらい前に越してきたんですけど、私は大阪の繁華街で生まれ育ったので、とにかくすべてが驚きでした。埼玉は東京に近いと思いきや、今まで自分の人生では見たことのない景色で、何もないという前に「何がない」ということがわからないくらい、自分にとっては異世界だった印象があります。

人と人が直接つながれるお店があったら

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- 寄居に来た時から、お店をやろうと思われていたのですか?

寄居へは、子育てをしようと思って来たところがあったので、全然でしたね。もともと服のパタンナーをしていたんですが、子どもができた時に仕事も辞めていたので。寄居に来てからは、子育てを中心に、両立できる範囲で服飾や裁縫のお教室などは小さく続けていましたが、特にお店を開こうとは考えていなかったです。

というのも、服飾の専門学校時代に、欧米帰りでファッションビジネスの先端を行くような先生に、「将来、店舗を持つという夢はあきらめなさい。これからはいわゆる無店舗・EC(インターネット販売)の時代だから、実店舗の時代ではなくなることを肝に命じるように」と言われたことがすごく印象に残っていて、なんとなく、"服飾の道=お店の家賃を支払って経営していく洋服屋さん"という考え方は、これから先は難しいんだろうな〜と思ってました。

- なぜ、そこからお店を開こうと思われたのですか?

町の色んな方とつながる中で、今の店舗のオーナーさんとお会いして、ずっとお付き合いはあったんです。そしたら、5年くらい前にちょうど子育てが落ち着いたタイミングで、そのオーナーさんや自分のこれまでの活動を知っていた方から、お店をやらないか?とお声がけをいただいて。商工会のサポートもあって、皆さんに背中を押していただく形で始めました。

最初はやるつもりはなかったですけど、時代がネット販売やファストファッションに向かっているからこそ、反対に、ここで私がお店をやる意味はあるかもしれないって思ったんです。学生の時からずっと、「こういう時代が来る」と言われ続けて、自分でお店をやるのはナンセンスだって思ってたけど、次第に、だからこそ人と人が直接つながれるお店があったら、と思うようになって。やれるんじゃないか、やりたいという気持ちが大きくなっていきました。

色んな人が、色んなストーリーを、洋服と一緒に

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- お店をはじめてから、印象に残っているエピソードはありますか?

ここには、色んな人が、色んなストーリーを、洋服と一緒に持ってこられるので、本当に日々びっくりするくらい沢山のことがあって。

この前は、ご年配の方で、「姉が危篤状態になってしまって。親が嫁入りの時に作ってくれた喪服をこのまま一度も着ずに終わるのは申し訳ないので、足が悪くてもなんとか着れるように、もんぺみたいなズボンの喪服に直してほしい」というお客さんがいらして。

そういうのって普通、絶対売ってないじゃないですか。必死で間に合うように仕立ててご連絡したら翌日に取りに来られて、何日か前にお電話をいただいたんですけど、実は取りに来たその日にお姉さんが亡くなられたと聞いて。おかげで最後にその喪服を着て、無事に見送ることができましたとすごく感謝していただいたんです。みんなにも素敵な喪服と褒められたって、喜んでくださいました。

- その方が生きてきた背景や想いも一緒に紡ぐって、素敵なお仕事ですね。

それから、今でも印象に残っていることがあって。
毎回、お店に来る度に大きなため息をつくお客さんがいて、気になっていたんです。ある日、事情を聞いてみたら、お子さんの介護をされていて、アトリエリカは施設への送迎の通り道だったそうで。周りに迷惑もかけられないと、日々一人で葛藤しながらほっとする時間もなく暮らしていて、どこかに出かけたりすることもできなかったそうなんです。

その方が、「ここに来ると、本とか雑誌で見るような自分の行きたかったお店に、行けたような気がするから嬉しい」と言ってくれて。「毎回ほんの10分の間だけどここに来れるから、遠くまで行けない私にとってはこの通り道にあったアトリエリカに本当に感謝している」と。その時に、この土地にお店を構えて本当に良かったな、と心から思いましたね。

この店で、沢山の人のご縁がつながる

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- こうしてお話を聞いていると、アトリエリカはまさに、お客さんの想いを大切にされる加藤さんそのものですね。

この店で、沢山の人のご縁がつながるんですよ。なぜか来た時にスッて、たまたまそこにいた人同士が出会って、就職が決まった人とか、30年ぶりに再会した先生と生徒さんとか。

ある時は、このお店のコンセプトを知って、「関係ないかもしれないけど」と履かない下駄をいくつも持ってきてくれた人がいて。せっかくなので預かったんですけど、どうしようか決めかねていた時に、本当にたまたま町の若い人が、下駄が好きな友人を連れてきて一緒にもらってくれて。と同時に、イベントの衣装用に着物を貸していた地元の子が、衣装に合う靴を探しにやってきて下駄を履いていってくれて。

その日に彼らがたまたま集まって、たまたま下駄がここにあって、衣装がないという問題が解決して、となんでこんなに色んなことが重なるのか、本当に不思議でした。しかも、偶然彼らが踊り手と音楽家で、急遽お店で踊ってくれて、感動的な交流が生まれたりなんかもして。

- 本当に偶然というか、これだけいっぱいご縁を結んでいるのは、やっぱりアトリエリカが寄居町の、この場所にある意義のような気がしますよね。

寄居にお店を出す時に、もっと人がいっぱい来る熊谷とか川越のほうがいいんじゃない?って色んな人に言われたんですけど、そこでやってたら私の意味はなかったな、と。自分は寄居に住んでるし、寄居でやりたかったから。

寄居の中でも、もっと山の方の広い土地で駐車場も構えてやったら?とも言われましたけど、それには全然魅力を感じなくて。あえてこの町の商店街でやることに意味があると思ったんですよ。今こんなにミラクルが沢山あるのは、ここでやったからかなって。

あと、このお家自体も、もともとが素敵だったので、変にリノベーションされたら嫌だな〜と思っていて、私は私のやり方で残しつつ、あまり今どきのオシャレになりすぎない形で自分らしく残したいと思ったんです。

暮らしの中に、人と人のつながり。 小さい喜びが日々ある。

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- 加藤さんから見て、寄居の人や町のどんなところが魅力ですか?

なんでしょうね、寄居の人はミーハーじゃないというか、きちんと周りの人の様子も見つつ、思慮深く考えて行動するところがありますね。プライドもあると思っていて、今までこの町が変わらずにやってこれたのもそういうところなのかな、と。そこが、すごく私は好きです。

あとは、ゆっくり子育てをして、落ち着いたタイミングで自分の好きなことにチャレンジできる。そういう生き方ができる場所かなと思っています。東京だとなかなか難しいだろうけど、寄居では「自分らしく生きる」ということがしやすいかな、と思っています。暮らしの中に、人と人のつながりが密に感じられるような出会いもあるし、小さい喜びが日々あるのはここの町ならではかなと思います。

- 寄居町で創業したいと考えている人に対して、なにかメッセージはありますか?

お店をやるのは、ぜひおすすめしたいです。自分がお店を開いた時に、地元の人で「よくぞやってくれた!ありがとう」と言ってくれた人が何人もいました。こういうのいいな、やりたいなと思っててもやれない人もいる中で、町にほしかったものを作ってくれてありがとう!という想いもあるのかもしれませんね。意外と、そういうお店に行きたいけどなくて困っていたりするので、チャレンジする人は大歓迎だと思います。

「町のお針箱」的な存在になりたい

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- 最後に、町の人にとって、アトリエリカはどういう存在でありたいですか?

まず、私は「町のお針箱」的な存在になりたいと思ってますね。大繁盛店になるというよりは、昔おばあちゃんが直してくれてたけど今はやってくれる人がいないことを私が代わりにするとか、破れたところを繕ったりする簡単なお直しもできたらいいな、と。いい服を買ったから裾上げとかじゃなくて、破れちゃって直してほしいんだよね、みたいな方が私は好きなので、そういうことができる町のお針箱でありたいですね。

一方で、海外に着物の良さを伝えたいという気持ちもあって、実は今、スウェーデンの人ともお仕事を始めさせていただいてるんですよ。そんなこともあって、みんなの励みと言ったらおこがましいんですけど、「小さい町の洋服屋さんだけど、海外にも発信してるんだよ」というのを町の自負にしていけたらいいな、と思います。


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