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平面構成からインスピレーションを得た立体構成作品の制作

論文集に投稿しました

2022年6月に制作した立体造形について、制作プロセスと技法について論述し、学会誌「基礎造形031」に投稿しました。

制作の背景

昨年から、1年次授業「基礎デザイン演習」を担当しています。
この授業は「アナログ」(手作業)の作品制作が中心です。そのため、学生たちに指導するにあたっては、自ら作品制作の体験を通して、造形の捉え方と発展方法を見出すことを期待し試作を繰り返しており、造形手法を授
業課題へと発展させたいと考えています。
今回は、「平面構成」における「漸変構成」から感じ取られたイリュージョンを元に立体構成を制作することにしました。

Square2022
Square2022

ギャラリー展示

完成した作品は、2022年8月27日-28日で開催された、日本基礎造形学会 第33回福岡大会「SDGsと基礎造形-ツナガルデザイン-」の作品展に出品しました。

日本基礎造形学会 第33回福岡大会 @九州産業大学美術館

紙の材料としての魅力

ヨゼフ・アルバースはバウハウスで予備過程を担当し、材料研究に力を入れた授業を展開していました。その中でよく知られる課題に紙を扱う演習があります。加工法を「切る・折る・曲げる」に限定し、紙の材料としての新たな可能性を試行錯誤させるものでした。敗戦直後の物資の不足の中でも楽に手に入り、何よりも特別な工具なしで加工が可能という特性により紙が採用されたと知られています。
パンデミックにより学習環境に制限が生じる今日、いつでもどこでも、特殊な工具なしに扱える素材として「紙」の新たな価値を見出すことができます。

バウハウス予備過程の作品 https://www.museum.or.jp/report/99018

平面の漸変構成と三次元的知覚

平面に描かれた直交格子に一部方向を変えると凹凸の感じを生じ、三次元的に見えることはよく知られています。格子の一部を斜線化したり、曲線化することにより立体感の表現ができます。

インスピレーションの元になった平面作品

Slice form

立体構成作品の技法は、紙を組んで制作する「Sliceform」という技法を採用した。「Sliceform」は板材の構成技法として知られており、切れ目を入れ格子状に組む構造である。19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてロンドンで教
鞭をとったドイツ人数学者のOlaus Henrici(オラウス・ヘンリチ)が、数学的概念を教えるためのモデルとして考案したのが始まりです。ロンドン科学博物館など多くの美術館が「Sliceform」のコレクションを所蔵しています。(下図)
現在では「Sliceform」や「Sliceform kirigami」と称され、ペーパーアートなどの観賞用として利用される他、梱包の緩衝材として商業用パッケージとしても活用されています。

引用 http://ds0n.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~hirosawa/toybox/ko-saku-club/2013-04/index.html

平面の漸変構成と三次元的知覚の特性を生かした立体造形の試作について、その技法と制作過程についてまとめました。平面構成でイリュージョンとして感じていた三次元的知覚を、立体造形を制作する上でのインスピレーションとして活用できることが確認できました。「Sliceform」はスライスと呼ばれる板材を組むことで立体を構成するため、実際には量感を感じさせない構造であるにも関わらず板材の切り口の連なりによって構成された表層面により立体感を感じる効果があります。「面が移動して立体になる」という基礎造形における点・線・面の関係を理解する教材として、今後も試作を重ね発展させていきたいです。

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