スポーツクラブ支店長の「管理監督者」性が否定された事例(コナミスポーツクラブ事件)

「名ばかり管理職」という言葉が話題になってからしばらく経ちますが、巷間では「管理監督者」と指定さえすれば残業代を一切支払わなくて良いとの誤解が未だあるように思います。

「管理監督者」該当性を巡っては、著名な日本マクドナルド事件(平成20年1月28日東京地裁判決)はじめ多数の裁判例が集積しているところ、東京高裁平成30年11月22日判決は勤務状況を詳細に検討した上で、スタッフの採用等支店の運営に関して一定の裁量を認められていた店長相当職従業員の「管理監督者」性を否定しており、労務管理の在り方を考える上で参考になります。

同判決は、①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任権限を付与されているか、②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきと、従前の裁判例と同様の判断基準を示しています。その上で、本件原告が支店長として様々な裁量を与えられていたとしても、人事や広告、提供するサービス内容などについて上司の決裁が必要で勤務時間の自由度も高くないこと等から、「実質的に経営者と一体的な立場にある」とは言えないとして「管理監督者」該当性を否定しました。この判決につき、柳澤武名城大学教授は「近年のチェーン店舗についての裁判例からも、多店舗展開する施設の店長は、原則として管理監督者に該当しないと断言してよいだろう」と評されています 。

他方、京都地裁平成24年4月17日判決はスポーツクラブ店長であった原告の「管理監督者」性を肯定していますが、こちらの原告は6つの店舗を統括するエリアディレクターも兼ねており、人事や労務管理、予算等につき相当広範な裁量を与えられていた上、基本給も副店長に比べて「大幅に高額」と認定されています。にもかかわらず、この事件では被告企業に対し、1千万円を超える支払いが命じられました。たとえ「管理監督者」(労働基準法41条2号)に該当し、通常の残業に対する割増賃金の支払は免れることが出来たとしても、深夜手当の支払義務までは免除されないからです。

経営者としては相当程度の裁量を与えているつもりでも、取締役でもない従業員に「実質的に経営者と一体的な立場にある」と言えるほどの権限を与えていることは希でしょう。従業員のフレキシブルな働き方を認めつつ人件費を適正にコントロールするには、「管理監督者」制度はあまり使い勝手の良い制度ではないように思います。私自身も複数経験していますが、近時は就業規則その他労働条件の適切な設定を怠ったがために高額な未払賃金請求を求められるケースも珍しくありません。また本件事案のように民事訴訟を起こされ賃金の未払が認定されてしまうと、未払賃金額の同額を上限とする付加金(労基法114条)を加算して支払うよう命じられることもあります。東京高裁は約310万円の未払賃金に加え90万円の付加金支払いを命じましたが(合計約400万円)、裁判所の判断次第では約310万円の付加金の支払いを命じることもありえる事案でした。さらに2023年4月以降は、中小企業も月60時間を超える残業に対する割増賃金率が原稿の25%から50%に引き上げられます 。給与設定や就業規則などの労務管理を業態や働き方の変化に合わせ適正に設定することが、企業の維持発展に不可欠な時代が到来しているのではないでしょうか。

弁護士國本依伸


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?