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自己破産免責尋問(16人目のAさん)

Aさんは70歳。一人暮らしの女性。
軽い認知症があります。
夫とは30年前に死別し、女手一つで二人の子どもを育ててきました。
しかし親子関係はうまくいかず、二人の子どもは家を離れほとんど顔を見せませんでした。
今回当院には脳梗塞で入院。
入院当初から経済的に大変といっていました。
車いすで移動介助。
排泄は紙おむつ。
これでは自宅で在宅生活はかなり困難。
Aさんもどこか施設を探してほしいと希望していました。
さて施設を探すのはいいのですが、問題はお金のこと。
入所した場合の費用を考えると、Aさんの年金ではぎりぎりでした。
ギリギリでも入所できるからいいかと思っていたのですが、実は借金があり、毎月返済していることがわかりました。
借金残額を聞くと年金の約2年分。
子ども達にはとても言えません。
毎月の返済をすると残った年金で施設の支払いは絶対無理。
しかし在宅生活は難しい。
Aさんと相談し自己破産手続きすることにしました。
早速法テラスに電話。
法律扶助を受けるための書類を送り、その後弁護士事務所から連絡を受けました。
よく自己破産すると借金は払わなくてよくなると言いますが、厳密には異なります。
自己破産手続きは、「自己破産の申し立て」と「免責の申し立て」を行います。
収入と支出を考えた場合、生活はすでに破綻していると、裁判所が認める、これが「自己破産の決定」です。
これだけでは借金を払わなくてよくなるわけではありません。
「免責の申し立て」が認められて借金の返済が免責されるのです。
また「免責の申し立て」の最後に「免責尋問」があり、本人が裁判所に行かなければならないのです。
これは自己破産についてきちんと制度を理解しているのか、反省しているのか、免責になって生活をやり直そうと思っているのか等々、裁判官が確認する場です。
借金の内容については既に申立書類に詳しく書いているので、改めてその内容について聞かれることはありません。

Aさんは車いすで介助が必要。一人では行くことができません。
ということで免責尋問当日は、私と担当ケアマネがついて行くことにしました。
Aさんには申し訳ないですが、ちょっとうれしい。
初めての裁判所、広い部屋の前には、若い裁判官と書記官。
その前に向かい合ってAさんと弁護士。
私とケアマネは後ろの方でやりとりを見守りました。
あらかじめ弁護士先生に聞くと、自己破産の免責尋問は通常は広い部屋で何人もまとめて行うのだそうです。
Aさんは車いすで介助も必要ということなので、特別に一人で行うことになりました。

裁判所に行く前に弁護士事務所に寄り、弁護士の先生からは質問と回答例を教えてもらいました。
申立書は誰がつくりましたか、と聞かれたら「弁護士の先生です」。
自己破産の決定をうけても免責にならないのはどういう場合ですか、と聞かれたら「博打などで借金をつくった場合」と答えるように、などなど。
わかりましたかと聞かれ、「はい」と自信たっぷりのAさん。
事務所から裁判所に移動中、私とケアマネジャーでリハーサル。
「申立書は誰がつくりましたか?」
「さあ?誰かしら?」
「・・・・・・」
何度か繰り返し、いくつかの質問には答えられるようになりました。
子どもの受験面接を見守るような心持ちで、後から尋問を見守りました。
本番には強いのか、年の功なのか、はたまた認知症で緊張感を感じないのか、余裕で終わりました。
終了後弁護士の先生が、1ヶ月以内に決定がおりるでしょう。
まあ大丈夫ですよ、と言ってくれました。
言葉通り、免責の決定がおり、借金については返済義務がなくなりました。
Aさんが施設に入所できたのは、お金を貸したけど回収できなかった人がいるからだよ、とちくりと一言。
わかってるよ、と少し反省した表情のAさんでした。

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