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413. クィアスタディーズとはなんですか?

「クィアスタディーズ」(Queer Studies)は、性的指向、ジェンダーアイデンティティ(性自認)、性別表現などが社会、文化、歴史の中でどのように形作られ、理解されてきたかを研究する学際的な(専門分野をまたいだ形の)学問分野です。

クィアスタディーズは、LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア、その他)の経験や視点を中心に据えています。

クィアスタディーズの主な特徴や焦点は以下の通りです:

  1. 非規範性: 411の記事で書いたように「クィア」という言葉自体が、性的規範やジェンダーの規範から逸脱するもの、またはそれを問い直すものを指すため、クィアスタディーズは社会的に「正常」とされるものや「規範」となっているものに対して批判的な視点を持っています。これまでにも記事の中で触れてきましたが、世の中は「異性愛+シスジェンダー」の人がおよそ90%を占めています。そしてその人たちを中心に世の中のあらゆる事柄が決められ、私たちはそれに従わなければならないのです(これが「規範」です)。それにそぐわない同性愛は「ホモ」「オカマ」で「気持ち悪い」とされる。「異性婚」は認められるけれども「同性婚」は裁判で争わなければ認めてもらえない。一体何が「正しくて」何が「ルール」なのか、なぜそのようなルールが存在するのか、そして私たちはなぜそれに当てはめられて生きていかねばならないのか。それを改めて問い直すということです。

  2. 構築主義: ジェンダーや性的指向は生物学的に固定されたものではなく、社会的・文化的な構築物(作られたもの)であるという考え方を取り入れています。最近は科学的にも生物の性はグラデーションであるという考え方が見られるようになってきました。男は男らしく、女は女らしく、そして好きになる対象は男は女、女は男。それ以外は認めないというものは、人類の歴史で(あらかじめ)決められたものではなく、ある社会では例えば同性同士の恋愛も認められていたということがあります(日本でもそうでした)。ですから、現在の「法律」という形で異性婚が認められているというのは、単に社会のルールとして「とりあえず」決められたものであって、それは単なる約束事に過ぎず、時代や地域・社会が変わればそのルールも変わりうるわけです。これを「社会や文化が作り上げたもの」という意味で「構築」という言葉が使われています。

  3. 相互作用: ジェンダー、性的指向、人種、階級、宗教などのさまざまなアイデンティティや経験がどのように相互作用するかを考察します。これはしばしば「交差性」として知られる概念と関連しています。日本ではというか日本人はあまり意識しないことだと思いますが、アメリカでは人種(黒人か白人かスパニッシュかアジア系か)ということとジェンダー(男性か女性かトランスジェンダーか)、そして性的指向(同性愛・異性愛・両性愛・無性愛)が複雑に絡み合っています。黒人女性であり、かつレズビアンであるということは、「黒人」「女性」「レズビアン」という3つの意味で抑圧の対象になる可能性が(白人男性異性愛者よりも)高いということがあります。

  4. 歴史的・文化的文脈: LGBTQ+の歴史や文化、社会的な動き、文学、芸術などを研究することで、性的マイノリティのアイデンティティや経験が時間や場所によってどのように変化してきたかを理解します。例えば、古代ギリシャの都市国家、特にアテネでは、男性同士の愛情や関係が一般的であり、社会的に受け入れられていました。これは、プラトンの『饗宴』などの文学作品にも反映されています。社会的な動きとしては、1980年代と1990年代初頭、エイズが世界的な危機となりました。この病気は特にゲイコミュニティに大きな影響を与え、多くの命が失われました。しかし、この危機は、LGBTQ+コミュニティが健康や医療に関する問題に取り組むきっかけともなりました。(大切なことなので付け加えておきますが、現在でもまだ「HIV感染=死」と思っている方はいらっしゃいませんか?もうそれは古い考え方なのです。感染者でもきちんと治療を受けていれば、血中ウイルス量が検出限界値以下であれば他人に移すことはないとされています。これを「U=U」と表記します)

クィアスタディーズは、社会学、文学、歴史学、人類学、心理学、映画学など、多くの学問分野と関連があります。この分野は、性やジェンダーに関する固定的な考え方やステレオタイプに挑戦し、多様性を尊重し、理解するための新しい視点や方法論を提供しています。

参考資料

画像:UnsplashPriscilla Du Preezが撮影した写真