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412. クィア理論とは?

クィア理論(Queer Theory)は理論的枠組み(研究者が物事を考えるときの土台のようなもの、視点)の1つです。

この理論は、1990年代初頭にアメリカで登場し、フェミニズム、ポスト構造主義、ポストコロニアル理論などの思考を背景に発展してきました。

クィア理論の主な特徴や考え方を以下にまとめます:

性別やセクシュアリティの固定的なカテゴリーを問い直す:クィア理論は、男性/女性、ゲイ/ストレートなどの二項的なカテゴリーが社会的・文化的に構築されたもの(はじめから決まったものではなく、作り上げられたもの)であると捉え、それらのカテゴリーが自然で固定的であるという考え方を批判します。ですから、「世の中には男と女しかいない」という意見に反論しますし、そうではないと考えるのです。

ノーマティビティの批判:「正常」とされる性のあり方や性的指向、性別の表現に対する期待や規範(ノーマティビティ normativity)を批判的に検討します。1つ前の「クィア」の記事でも見ましたが、一般的にこの世の中は性的マジョリティ(異性愛であり、性自認が生まれた時に与えられた性と一致している)を中心に作られています。それ以外は「異常」や「変だ」「不道徳だ」などと考えられてきました。しかし、この「異性愛+シスジェンダー」という物差しで測ることだけで世の中が全てわかるわけではありません。この物差しで測れない人たちの存在を忘れてはいけないと考えるのです。

アイデンティティの流動性:クィア理論は、性別やセクシュアリティが固定的なものではなく、流動的で変わりうるものであると捉えます。異性愛の男性であっても他の男性に抱きしめられたいという願望があったり、他の男性と実際に性的な行為をすることがあります。女性もそうです。しかし、だからといってその人が異常なわけではありません。人はモノではありません。1つのカテゴリー(箱)の中に入れて仕舞えば一生その中に入っているというわけではないのです。fluidity(流動性)を認めることは重要な要素だと言えます。

テキストや文化の再読:クィアの視点から、文学、映画、歴史などのテキストや文化的表現を再解釈することで、隠された性的な意味や性別の役割を明らかにしようとします。これまでは男性/女性という視点でしか分析されてこなかったものを、もう一度クィアな視点から見ることで今まで見逃していた点が見えるようになるということがあります。

政治的な活動:クィア理論は学問的なアプローチだけでなく、LGBTQ+コミュニティの権利や社会的受容を求める政治的な活動とも関連しています。例えば、これまで「婚姻」という社会制度は男性と女性のカップルしか利用が認められませんでした。しかし、同性同士のカップルでも「婚姻」が認められるようにしようというのもクィア理論が下地になっていると考えることができます。また、日本ではさまざまな議論の末に2023年6月にLGBT理解増進法が施行されましたが、これもこれまで嘲笑の対象・いじめの対象であった性的マイノリティの人権を尊重しようという動きの1つと考えられます。

このように、クィア理論は性別やセクシュアリティに関する社会的・文化的な構築を批判的に分析する(従来の考え方やカテゴリーを根本から問い直す)学問的アプローチの一つとなっています。

参考資料

ウィキペディア 「クィア理論

画像:UnsplashGabriella Clare Marinoが撮影した写真