見出し画像

寺山修司 「ロング・グッドバイ」を読んで

ロング・グッドバイ 寺山修司詩歌選 (講談社文芸文庫)

「なみだは、にんげんの作る一ばん小さな海です」
この言葉を寺山修司の詩集「ロング・グッドバイ」で初めて読んだときは、なんてお洒落な表現なのだろうと一瞬、息をのんだ。それから他の詩集も読みあさった。

「ピアニストを撃て」という詩の一節にこんな文章がある。
 
一人の彫刻家が 壁に
「この七つの文字」とかいた
少女が数えると 字の数が丁度七つでした
それから少女は
「この八つの文字」とかいた
こんどは数えると一時足りなかった
その
足りない一字だけが
少女のかなしみを知っているのだった
 
この彫刻家とは、高松次郎のことだろう。「密室から市街へ」という本で対談もしている。
この文章を読むと、小さい頃自分の背丈に合わない難解な、なぞなぞを解くのにムキになっていた事を思い出す。もしくは、純粋に頭のいい人に感心して真似をしたら、自分は失敗してしまったときの事。

言葉の音と文字がもつ矛盾をロマンティックに表現するところに彼の文学の魅力を感じた。言葉遊びのユーモアがあって面白い。

冒頭の「なみだは、にんげんの作る一ばん小さな海です」という表現は、実はアンデルセンの童話「人魚姫」に書かれている文章で、寺山修司の創作ではないらしい。それを知ったときは、すこし残念だったが、「仮面画報」に代表される彼の芸術の独特の世界観は、空想することの楽しさを思い出させてくれる。

寺山修司が亡くなる前、最後にあげた言葉は、ウィリアム・サローヤンの
「あらゆる男は、命をもらった死である。もらった命に名誉を与えること。それだけが、男にとって宿命と名づけられる。」だったそうだ。
彼の数ある著作の中で、初期の代表作から晩年の絶筆までをたどることができる「ロング・グッドバイ」が私は一番気に入っている。


英語塾を開校し、授業の傍ら、英検や受験問題の分析や学習方法を研究しています。皆さまの学習に何か役に立つ事があれば幸いです。https://highgate-school.com/