2019104沖縄旅-6066-2

平成最後の沖縄旅ー①何もしない贅沢

その日は、淀みない快晴だった。

朝7時の中部国際空港は、ゴールデンウィークが間近なのかいつも以上に人で溢れていた。

自動チェックイン機で搭乗券をつまみ上げ、その足でカードラウンジに立ち寄る。人混みから少し離れて、コーヒーをすすり、これからの旅路を思い描く。

今回のデスティネーションは、沖縄本島。一足早くGWを楽しもうと、行き先を探していたところ、かなりお得なチケットがあり、思わずそのまま予約してしまった。


沖縄・那覇空港に向かうスカイマーク551便は、定刻通り2番スポットを離れ、春の空へと飛びたった。

搭乗率は7割ほど。行き先が沖縄だからか、どこか陽気な雰囲気が機内を包んでいる。

「令和ーこれからもスカイマークをよろしくお願いします。」シップに搭乗する際に、こんな看板を見つけた。そうか、もう令和まで残すところあと1週間。この旅は、文字通り「平成最後の旅」になることだろう。

イヤホンからは髭男dismの「stand by you」が流れている。『どんなに凄い本や映画より色褪せない不滅の日々を重ねて歩きたい』

窓の外で唸るエンジンが今日はなぜか心地よく、旅への期待を膨らませていく。

約2時間のフライトを終え、スカイマーク551便は沖縄・那覇空港に着陸した。気温は26度。ここはもう春というより夏が来ている。

レンタカーを借りて、雲が多い空の下、北にある名護市に向けて走り出した。今日は少しジメッとして、梅雨みたいな空だ。晴れ男だと思っていたけど、沖縄の天気はそう簡単に負けてくれそうにない。スピードを上げ、快調にハイウェイを走っていく。

時はすでに13時を回っていた。今日のお昼は何にしようか。ちょうど目の前に、沖縄そばのお店を見つけ、車を止めた。

「本部そば」は、瀬底島からほど近い沖縄そばのお店だ。店員さんにオススメを聞くと、ソーキと軟骨、三枚肉が一度に味わえる「ミックスそば」が人気だという。

ソーキとは沖縄の言葉でスペアリブのことだ。一口スープをすすると、優しいスープが体に染み渡っていく。肉はとても柔らかく、口の中で溶けていく。

せっかく北部に来たのだからと、古宇利島に足を運んだ。ここは島まで海にかかる橋がランドマークで、いわゆるインスタ映えスポットだ。今日も多くの観光客が、海をバックに撮影に勤しんでいた。聞こえてくるのは、韓国語と中国語ばかり。今や沖縄は日本だけでなく、アジア屈指の観光地なのだ。

僕も一眼レフを取り出し、写真を撮る。ここに来て、急に日が差してきた。沖縄ブルーが水面に浮かび上がり、僕の心を鷲掴みにする。パチリ。人々の喧騒の中で、軽快なシャッター音が響く。 

夢中でシャッターを切っていると、背後から声がした。「いい写真は撮れましたか?」後ろを振り返ると、砂浜でたそがれていたカップルだった。

奇遇にも、同じ名古屋から沖縄に遊びに来ているという。いくつかの写真を見せると、「いいですねぇ」と相づちしてくれた。写真を撮るのは自己満足にすぎないのだが、褒めてもらえると少し照れくさい。

17時を回り、日が暮れてきたビーチをぼーっと眺める。日頃は時間という物差しに計られながら、せわしなく生きている僕。ただ何をするわけでもなく、波が打ち付けるのを眺めていると、少し優しい気持ちになれる気がした。なにもしない贅沢。これが沖縄の最大の贅沢なのかもしれないと思った。

本日の宿は、古宇利島から車で20分ほどのところにあるゲストハウス笑縁門さん。車1台がやっと通れるくらいの田舎道を進むと、小さな白い民家が見えてきた。入ると、スタッフの方が迎えてくれた。「実は今日、ご宿泊がお一人なんですよね」申し訳なさそうに、スタッフの方は教えてくれた。

この宿を選んだ決め手は、某予約サイトの評価が9.0近くあったからである。日頃から日本中のゲストハウスを泊まり歩いているが、そのスコアを出すゲストハウスは数少ない。

しかし、実際に笑縁門さんに泊まってみて分かったのは、最寄りのコンビニまでは車で15分という立地の悪さを超える、異常なホスピタリティである。はじめて来たのに、まるでおばあちゃんの家に帰ってきたような安心感があるのだ。

スタッフのイガラシさんと、べっちゃんが1年前に始めたこのゲストハウス。玄関を出て10秒でプライベートビーチが広がっている。設備はこぎれいで必要十分。そして何より気さくに話しかけてくれて、30分でもうお友達だ。

周りに何も無いので、窓からは本物の波の音が聞こえてくる。何をするわけでもなく、お喋りして、波の音を聞く。ここは本当に何もしない自由が楽しめる場所である。

このゲストハウスはハマってしまうゲストも多いらしく、スタッフのゆうこりんも以前はゲストとして泊まって気に入り、今働いていると言う。今日こそゲストは僕一人だが、GWはほぼ満室なんだとか。

たった半日しか泊まらなかったが、「もっと居たかったな」と心から思うゲストハウスだった。きっと僕はまたあの場所に戻って「ただいま!」と言うことだろう。

(続く)

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