プサン。そこは僕が知っている韓国ではなかった(1)
プサンへの旅が決まったのは偶然だった。
同じ旅好きでブロガーの友人きっしーが、LINEで「今度、プサンに行かない?」と連絡をくれたのだ。ちょうど名古屋から就航しているエアプサンがセールをしており、調べてみると往復1万円で行けるという。
これまで僕は3回韓国に行ったことがあるが、いずれも首都ソウルだった。「プサン面白いかも。」そう思った僕は、ひとこと「いいね。行こう」とLINEで返事したのだった。
プサンへの出発日を迎えた。先日までのジメジメとした梅雨とは打って変わり、気持ちの良い青空が広がっている。 搭乗手続きを終え、保安検査を通り、飛行機の出発までしばし休憩。
ソファーでくつろいでいると、隣に座ったタイ航空のCAさんたちが談笑していた。空港はいつ来ても不思議な気持ちになる。ここから世界が繋がっている。まるでどこでもドアのように。僕もここから今日旅に出るのだ。
搭乗時間になり、ゲートへと向かう。今回乗るBX131便は、 搭乗橋からでなくタラップでの搭乗だ。送迎バスに乗り、飛行機へと駆け上る。
この日のフライトは、ほぼ満員。日本人は4割くらいで、あとは韓国の方のようだ。エンジンが唸り、飛行機はゆっくりと空に舞い上がった。
プサンは韓国の南端の都市だ。名古屋からのフライト時間はおよそ1時間半ほど。沖縄より全然近く、北海道に旅行するような距離感だ。
空の上は今日も青い。僕はいつも決まって窓側の席を取る。窓からの景色を眺めるのが僕の楽しみの1つだ。トイレに行きづらいのは難点だが。
1時間半ほどのフライトを終え、窓からプサンが見えてきた。プサンの街は僕の予想以上に「都会」だった。海岸線沿いには、空を切り裂く高層ビルが立ち並んでいる。まるで湘南に新宿があるような光景だ。BX131便は、ゆっくりとプサン・金海国際空港に着陸した。入国審査を抜けて、釜山の地を踏む。
今回の旅は、ともかく何も決まっていない。ホテルだけ押さえたが、特にほかに決まったことはなかった。相方のきっしーと相談の上、まず「チャガルチ市場」を目指すことに。
空港の横にあるライトレールで市内を目指すが、さっそくどこの駅で乗り換えればよいか分からない。ICカードだけつくって、 電車に飛び乗った。
プサン空港から市内へと伸びるライトレールは、沖縄にある「ゆいレール」のような乗り物だ。ただし運行は自動化されており、運転席はない。レールを見渡すところに立つと、気分はまるで電車でGO!みたいだ。
終点の「沙上駅」駅で、地下鉄2号線へと乗り換える。地下鉄に乗り込み、路線図を眺めていると、隣から日本語の声がした。「どこへ行かれるんですか?」
声をかけてくれたのは、バックパックを背負った女性だった。プサン出身だが、今は20年近く日本に住んでいるという。実家への帰省のため、僕らと同じ便で釜山に来たそうだ。
「チャガルチに行きたいんです」と答えると、現地の方にいろいろと聞いてくれて、乗り換える方法について教えてくれた。そればかりか、プサンの観光名所なども親切に教えてくれた。名前も聞かずにさよならしてしまったが、「一期一会」という言葉を感じた。
「チャガルチー、 チャガルチー」
聞き取れない韓国語のアナウンスだが、地名だけはなんとか分かる。地下鉄を降りて、地上に出ると、そこには僕が知らない韓国が広がっていた・・・。
道の両脇には、ずらっとお店が立ち並ぶ。道を進むと、元気なおばさんたちが笑顔で呼びかける。足元には、釜山の海で採れた海鮮が並んでいる。かつて東南アジアを旅していた時の記憶がフラッシュバックした。懐かしく、でも目新しい風景に心を躍らせながら、マーケットへの奥へと進む。
ふと乾物の露店の前に立ち止まると、お店にいたおじさんが声をかけてくれて、干しアワビを試食させてくれた。「え、僕買わないよ。」韓国語が話せない僕は、とにかく目で訴えかけるが、おじさんは微笑みながら何種類も試食を出してくれた。
「カムサハムニダ。」そうひと言、お礼を言ってその場を離れると、おじさんは「またおいでね」という優しい笑顔で送り出してくれた。ここの市場にある人は商売っ気が強くなく、とても心地よい。誰もがにっこり笑いかけてくれる。
ふと時計に目をやると、時計はすでに14時をまわっていた。魚市場を散策していると、市場の飲食スペースがあった。元気の良いおばちゃんが誘ってくれたお店に入ってみる。
名前は「渡辺屋」さん。韓国人の旦那さんと日本人の奥さんが経営している食堂なんだとか。メニューを見て、松竹梅でいう竹コースを頼んでみた。
待つこと数分。プサンの海から引き上げられた海鮮たちがテーブルを埋め尽くしていく。これでもかというほど料理が出てきたのち、さらに海鮮チゲも出てきた。15品がついて、お値段はなんと2人で5万ウォン(≒5千円ほど)。美味しさもコスパの良さも格段だった。
窓からは、プサンの港が一望できる。ちょうど天気にも恵まれ、海と空のブルーが目に焼きつく。目の前の広場には、おじさんたちが談笑していた。なんとなく広島の呉に似ている気がする。
まだプサンを訪れて半日も立っていなかったが、僕はもうプサンが好きになり始めていたのだった。
(続く)
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