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いつか見たあのゴールテープ

そんなはずはなかった。

体調も良かった。天候も。モチベーションも。

でも、靴紐がほどけてしまった。


これは運がなかったというべきか。

それとも、手入れ不足というべきか。


ゴールテープが見えたあの直線100メートルを

私は一生忘れないだろう。

いや、忘れられない。


全国に行けたのに。

金メダルだったのに。

最後の最後で、無情にも私は倒れこんでしまった。

前は暗く、一瞬何が起こったのか分からなかった。

ただ、観客の落胆の声が、それを気づかせた。

そうか、紐がほどけて、転んでしまったのだと。

その観客の中にはきっと親もいただろうに。



それから3年が過ぎ、今は大学3年。

就活真っ只中である。

夏の日にスーツを着ることは馬鹿げている。という電車の中に貼ってある広告が目に入った。

まあ、そうとも言えるのかなと、面接に向かう私は不覚にも感心してしまった。

おいおい、大丈夫か私...


面接会場に着き、初めての面接に挑む。


名前が呼ばれた。

立ち上がろうとして目を下にやると、靴の紐がほどけていた。

危ない。また転ぶところだった。


そいうえば、あの転倒があったからこそ、あれからの3年間は準備を怠らずにやってこれたのでは?

そうだ。そうに違いない。

面接で話す予定だったエピソードは、すぐに脳内変換された。

あの時のことを話そう。それが、私の人生のターニングポイントだったから。


あの時見えたゴールテープ。今は前には見えないけれど、

スタートラインには着いた。

足を見ろ。紐は大丈夫。コンディションも、体調も。

よし、行こう。

「失礼します。」

いつか見るゴールテープを目指して。




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