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強制的夫婦同姓のここがダメ!

2018年1月に東京地裁に提訴した選択的夫婦別姓訴訟ですが、昨日12月5日に尋問を行い、1年がかりで結審しました。判決は2019年3月25日。とても楽しみです。

尋問では、夫婦同姓を強制されることで、今現在、どのような不都合が起きているかをお話ししました。せっかくですので note にまとめておきます。

夫婦同姓にしたい人は同姓を、夫婦別姓にしたい人は別姓を、当たり前に選べる社会を目指して。


強制的に改姓される精神的苦痛

名前は、名字に合うように付けられます。オダさんの娘にマリという名前を付けるのは勇気が要ります。オダマリになるので。両親らは、名字を含めた意味や響きや運勢などを考慮しながら名前を付けています。

その名字と名前のセットは、子供の頃から数多くの体験とともに、本人にとって意味深いものになっていきます。その事実を無視し、強制的に改姓させることは大きな精神的苦痛を生むことがあります。

先日、私が生まれたときの命名書が出てきました。姓名判断では「青野慶久 37画、終生安泰であり...」と書いてありました。総画数が変わってしまった私は、終生安泰でいられるのでしょうか。

改姓の手続きにかかる費用

健康保険証、パスポート、免許証、銀行口座、クレジットカード、マイレージカード、病院の診察券まで、所持しているカードはほぼすべてについて氏名を変更する手続きが必要です。また、銀行などで使う印鑑も作り直す必要があります。

望まない改姓手続きのために、市役所に行って住民票を取ったり、休みを取って銀行に行ったり、免許センターに行ったり、氏名変更の書類を用意して送ったり。それは改姓した本人だけでなく、それぞれの窓口の人たちや会社の総務部門の人たちの時間を奪い、価値を生まない仕事に従事させていることになります。この人手不足の時代に、なんと生産性の低い社会でしょう。働き方改革的にもNGです。

旧姓と使い分ける手間とリスク

職場で旧姓を使い続ける方も増えているようです。私もその一人です。しかし、旧姓と戸籍姓の使い分けは、本人や周囲の手間を増やすだけでなく、リスクも発生します。

例えば、保育園や小学校から会社に電話がかかってくることがあります。「西端さん、いらっしゃいますでしょうか。お子さんが怪我をしました。すぐ来てください」と言われても、「西端さんって誰?(会社では旧姓を名乗っているので周囲の人は戸籍姓を知らない)」となることがあります。もし災害が発生し、急いで本人確認をする必要があったとしたら、大変恐ろしいことです。

私は、以前、アメリカに出張したとき、深夜にホテルに到着したのですが、先方が用意してくれたホテルが「AONO」の名前で予約されていたため、パスポートの姓と違うことを指摘されました。ホテルのフロントで「あなたがAONOであることを証明してください」と言われて狼狽しました。このときは改姓手続きをしていない古いクレジットカードが一枚残っていて助かりましたが、法的に根拠のない名前を仕事で使うのは危険です。

仕事で旧姓を通称として使う範囲が広がれば、旧姓で重要な契約を結ぶ場合も増えるでしょう。法的に根拠のない名前が広がることは、法治国家の仕組みを揺るがすことにつながります。

プライバシー情報が漏れる

結婚しているかどうかは、プライバシー情報です。結婚してるかしつこく聞いたらセクハラになりますね。にもかかわらず、今の制度では様々なところで改姓が必要で、「結婚しました」という情報を漏えいしまくっています。日本は、国を挙げてセクハラしたいんでしょうか。

今、国の方針で、マイナンバーカードやパスポートなどで、旧姓を併記できるように進めています。私の名前だと、「西端(青野)慶久」という表記になります。「西端(青野)慶久」...。一目で結婚していることがわかりますね。プライバシー情報の漏えいを推進する国の方針にしびれます。

ちなみに、GDPR(EU一般データ保護規則)では婚姻情報はプライバシー情報として扱われます。グローバル視点でも日本の現状は遅れ過ぎです。

システム改修コスト

国の方針に従い、マイナンバーカードに旧姓を併記するためのシステム改修費用として、総務省が100億円を補正予算案に計上しました。詳しくはこちらの記事をお読みください。なんでそんなにかかるのかツッコみたくなりますが、選択的夫婦別姓制度ができるようにならない限り、日本中の様々なシステムで同様の改修が続くことを懸念します。

逆に、選択的夫婦別姓制度を採用したときには、戸籍情報システムを改修する必要が出てきます。法務省は、戸籍情報システムの仕様書(PDF)を公開しています。仕様書を読む限りでは、各個人ごとにレコードがあり、かつ「氏」と「名」のデータを両方持っています。同一戸籍に別姓の夫婦が存在できるようにする改修は、それほど大変ではないと思います。

「旧姓併記」という日本独自のガラパゴスルールを作り、様々なシステムを改修させるなんて狂気の沙汰ですね。税金をごそっと返して欲しいです。

ブランド資産の棄損

女子差別撤廃条約から3回も法改正の勧告意見が日本に対して出されているにもかかわらず、日本はそれを無視し続けています。

私たち日本企業は、日本という国のブランドを背負って事業を展開しています。世界各国で優秀な女性を採用するためには、私たちが女性差別のない日本の企業であることを信頼していただかなくてはなりません。

しかし、彼女たちに、「女性差別を解消しようとしない日本の企業では働きたくない」「日本は文化的に遅れた国だから、日本の商品は買いたくない」と思われても仕方がない状況です。日本は、選択的夫婦別姓制度を進めないことで、日本に対する信頼を失い、そして日本企業の信頼をも失い、経済的に大きな損失を与えています。


いかがでしょうか。夫婦同姓を強制している現制度は、すでに大きな問題を生んでいます。

2015年12月16日、最高裁大法廷は、夫婦別姓を認めない民法750条を「合憲」であると判示しました。しかし、選択的夫婦別姓の制度について「合理性がないと断ずるものではない」と指摘した上で、「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」とし、夫婦別姓を認めるべきかどうかは国会で議論するべきことであると判示しました。(参考記事はこちら

その最高裁大法廷の判決から3年経過したにもかかわらず、国会は議論をまったく進めることなく、時間を無駄にし、国民の損失を拡大しました。選択的夫婦別姓制度を求める私たちの怒りは沸点に達しています。

今回の夫婦別姓裁判は、テレビや新聞、雑誌、ネットニュースなどで数多く取り上げられました。そして、全国の地方議会への陳情など、様々なところで夫婦別姓制度を求めるロビー活動が繰り広げられています。さらに、この夫婦別姓裁判の他に、新たに3件の訴訟が起きています。しかし、いまだに国会は動きません。

裁判所は、1人の人権でも救済できる国家機関だと知りました。裁判所の判決により、法律が変わることがあることも知りました。長年苦しみ続けている私たちの人権を救済する判決を、そして法律が変わる判決を、強く希望しています。

夫婦同姓にしたい人は同姓を、夫婦別姓にしたい人は別姓を、当たり前に選べる社会を目指して。


※株式の名義書換手数料に関する記述を削除しました。(2019年2月10日)

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