奈良クラブに学ぶ「ビジョン」の大切さ

プロクラブにとってはJリーグJ3のさらに下、アマチュアクラブにとっての最高峰JFLに所属する奈良クラブ。

決して大きくはないこのクラブが近頃にわかに注目を浴びている。

運営母体がそれまでのNPO法人から株式会社に以降、それに伴い2011年からユニフォームのデザインなどを手がけていた奈良で300年続く工芸品の老舗「中川政七商店」の17代目中川政七氏が社長に就任。

さらにイングランド・ポルトガルでコーチングを学んだ新進気鋭の23歳林舞輝氏をゼネラルマネージャー(GM)に抜擢したことでサッカー界を賑わせた。

12月9日には東京で中川社長、林GMに加え奈良クラブの基礎を作った奈良県出身の元Jリーガーの矢部次郎副社長、ブックディレクターとして活動し今回クリエイティブディレクターに就任した幅允孝氏が出席し新体制&ビジョン発表会が開かれた。

その様子が全編YouTubeにアーカイブされている。

中川社長はクラブビジョン発表に際して

「僕が経営者として最初に何を考えなきゃいけないのかというと、会社としての有り様、ビジョンだと思うんですよね。」

「ビジョンがなければただの金儲けになってしまうんです」

「(クラブの)方向性をより明確に言葉として表すということをやりました。

それがこの奈良クラブの新しいビジョンで「サッカーを変える」「人を変える」「奈良を変える」っていうワードです」

と話した。

一方林GMは自らの仕事を「ゲームモデル(試合の模型)を作ること」と定義し、そのゲームモデルは個人で作るものではなくクラブのビジョンやミッションがあって初めて生まれるものであり、日本ではその部分を監督に丸投げしてしまっていると興奮ぎみ語り始めた。

「どういうサッカーをしようってなった時に監督に丸投げして、監督が設計図を書いて模型を作って家を作って、それで結果が残んなかった時に「はい、ごめんなさい」って言ってまた新しい監督連れてきて、新しい監督がまた設計図書くとこから始めて、それで結果が出なければまた家を潰して…っていうことをしちゃうからどうしてもチームとして継続していかない」

「 海外のチームとかだと元々歴史が深いんで家は建ってて、その中で「ちょっとここ古くなってきたからモダンにしよう」とか「ここもうちょっとスタイル変えよう」とか「ここ脆くなってきたから材料変えよう」とか「ここちょっと危ないから最新の防犯カメラつけよう、そのために監督あなたおねがいします」というオファーがの仕方をしてるんですね、なのでちゃんと積み上がってく訳です、今までのものが」

(あと奈良クラブにはもう一つ「学びの体系化」という大切なワードがあるのだけど自分の文章力では限界があるのでここでは割愛、でも本当に良い話なので発表会の動画とサッカーメディア・フットボリスタの奈良クラブ特集に是非目を通して頂きたい)

翻ってレバンガ北海道はどうだろうか、彼らにはクラブ内で一貫したビジョンがあるだろうか。

アルバルク東京、栃木ブレックス、琉球ゴールデンキングスなど高いレベルで戦うクラブには選手・スタッフ・フロントが迷いなく進んでいく勢いがあり、一方で停滞するクラブは自分たちの存在意義すら見失っているように見える。これは結局のところ明確なビジョンの有無なのではないだろうか。

昨季終了後、それまで指揮を執った水野宏太氏がアルバルク東京へ引き抜かれたレバンガはブラジルで輝かしい経歴を持つジョゼ・ネト氏をヘッドコーチ(HC)として招集。ハードワークを推すネト氏のバスケはJリーグ・北海道コンサドーレ札幌にとってのミハイロ・ペトロヴィッチ監督のようにレバンガを大きく変えるのではないかと期待されたが結局チーム編成が間に合わずきついトレーニングに耐えられない選手たちからの不満によりチームは崩壊。たった3ヶ月ほどでネト氏は解雇されてしまった。

改革に成功したコンサドーレと失敗したレバンガの差はなんだったのか、コンサドーレの野々村芳和社長はシーズン前のサポーターとのミーティングでクラブの現在の立ち位置を赤裸々に語った上で「降格してもミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)で行く」と覚悟をあらわにしたという。

一方レバンガの横田陽CEOはネト氏の後任である内海知秀HCの就任会見で「B2に行くという選択はできない」と説明した。

結局クラブとして決断するための覚悟とそれを後押しするためのビジョンがコンサドーレにはありレバンガには無かったのだ。

そして事の発端である水野氏のアルバルクへの引き抜きもレバンガ側に未来を示したビジョンがあれば起こらなかったのではないだろうか。(もちろん一番の要因は金銭面の問題だろうが)

クラブの始まりからずっと金銭的に困窮してきたレバンガにとってはクラブを存続させるという「短期目標」を追うことに精一杯でより大きな「ビジョン」を立てる余裕などなかったのだろう、だが本当にそれで良いのか。

クラブ存続もB1残留ももちろん大事なことだとは思う、しかしただ漠然とクラブ運営を続けることに果たして意味はあるのか。

はっきりとしたビジョンを掲げられないクラブは結局のところ死んでいるのと変わらないのではないか。

例え降格しようとも自分は生きているクラブを応援したいと願っている。

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