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1-2真核細胞の分裂制御

細胞周期

 1つの真核細胞から2つの細胞が生じる過程を細胞周期と呼ぶ。細胞周期は大きく分裂期(M期、mitosis=有糸分裂)間期に分けられ、大半が間期にあたる。この記事では間期においてどのようにして有糸分裂が促されるかについて書く。

 間期はG1期、S期、G2期に分けられる。特にS期はDNAの複製が行われる。Sはsynthesisの略。
G1期G2期はS期とM期の間にある。GはGapの略。

G1期

 基本的にはS期のために準備している。大事なのが細胞によってその長さが異なる点にある。頻繁に分裂する細胞ではG1期がほとんどないが、数週間~数年ここにとどまる場合もある。長期間G1期にとどまる場合はG0期と呼び、G0期からG1期に戻る場合何かしらのシグナルを要する。
 細胞の分裂はこのG1期からS期に移行したことをもって開始とする。

S期

 別記事で記述するが、ここでDNAの複製が完了する。1本の染色体は2本になり、有糸分裂や減数分裂に備える

G2期

 有糸分裂の準備期間。分裂に必要な微小管の合成などが行われる。

細胞周期はどのように制御されるか

S期に入っている細胞はDNA複製の活性化因子を含む

G1期とS期の細胞を融合させることで、S期に活性化因子を含むことを確認できる
 細胞はポリエチレングリコールなどの細胞膜を分解する物質を用いることで、融合するように誘導することが可能。この実験ではS期とG1期の細胞を融合させることで二核細胞を産生し、G1期の細胞がS期に入ることが確認されることで、活性化因子の存在が示唆される。
 同様の実験でG2期からM期に入るときの活性化因子の存在も確認された。

サイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase, Cdk)

 G1期からS期、またG2期からM期への移行に関わるタンパク質であり、これが活性化されることが第一段階になる。キナーゼとはリン酸基をATPから別の分子に転移する酵素である。いわゆる「リン酸化反応の触媒」にあたる。

 タンパク質がリン酸化されるとそもそもどうなるのか。タンパク質は親水性・疎水性の領域を持ち、それぞれが三次元構造の形成に関与している。リン酸基は電荷を有しているために親水・疎水領域を変化させ、タンパク質構造や機能に影響を及ぼす

サイクリンによるCdkの活性

 Cdkは確かにタンパク質をリン酸化して細胞周期を推し進めるが、通常時Cdkはスイッチが入っていない(活性化状態ではない)。
サイクリンというタンパク質がCdkに結合することによって、Cdkの構造が変化し触媒部分が露出する。この部分に基質タンパク質とATPが結合することによりリン酸化の反応が進行する。このリン酸化されたタンパク質が細胞周期を制御する。
 このサイクリン-Cdk複合体がG1期からS期への移行の引き金となり、さらにその後サイクリンが分解されることでCdkが不活化する。

 このようなサイクリンによるCdkの活性化はアロステリック制御の一つである。酵素と基質が結合する通常の部位以外のところに代謝産物が結合して酵素の活性を変化させる効果のことで、さまざまな生体反応にみられる必須事項。

サイクリン-Cdk複合体の種類と役割

 異なるサイクリン-Cdk複合体の組み合わせが哺乳類の細胞周期における様々な段階に働く。

$$
\begin{array}{c|l}
サイクリンD-Cdk4&G1期の中間、臨界点の通過\\ \hline
サイクリンE-Cdk2&G1期の中間、サイクリンD-Cdk4と協調\\ \hline
サイクリンA-Cdk2&S期、DNAの複製を刺激\\ \hline
サイクリンB-Cdk1&G2期とM期の間、有糸分裂開始を刺激\\
\end{array}
$$

臨界点(R点)とは、「ここを過ぎたら細胞周期が必然的に進行する点」であり、細胞周期制御の重要ポイントである。

網膜芽細胞腫タンパク質(RB)による臨界点の通過

 RB(Retinoblastoma)は通常、細胞周期の進行を阻害している。これがリン酸化されることにより細胞周期の進行を妨げていたものが除かれるため、臨界点を超える。サイクリンD-Cdk4複合体とサイクリンE-Cdk2複合体はRBをリン酸化して不活性化することでR点を通過させる。

 臨界点の存在についてもう少し深く考える。臨界点を超える前、G1期に放射線などによってDNAが損傷を受けた場合、修復されない状態で複製されるのは生物にとって好ましくない。修復作業を行っている間はG1期にとどまっている必要がある。このことを実現するための因子がp21と呼ばれるタンパク質である。pはproteinであり、21は重量を表す(約21,000Da)。
 p21はDNAの損傷に応答して産生されるタンパク質で、G1期のCdk4とCdk2に結合することができ、Cdkがサイクリンによって活性化されることを抑制する働きを持つ。これによって修復中は細胞周期が停止する。

 この他にも細胞周期のチェックポイントはある。S期の最後にDNA複製が完全かどうかを調べるポイントがあり、エラーが見つかった場合有糸分裂に入ることなく細胞周期が止まる

 これらサイクリン-Cdk複合体に関連する細胞周期制御機構が崩壊すると、異常な細胞分裂が行われ癌化する。p53というタンパク質はp21の産生を促しているが、癌細胞の半数以上はこのp53の機能異常がみられる。
 p53やp21、RBのようなタンパク質は「癌抑制因子」とまとめて呼ばれることがあり、遺伝子検査では非常に重要になる。

成長因子

 細胞の分裂、特に周期がかなり長い細胞に関しては成長因子と呼ばれるシグナルによって分裂が促進されることが多い。例えば出血したとき、血小板が「血小板由来成長因子」というタンパク質を産生するが、これが皮膚の細胞分裂を促し、傷口をふさいでくれる。免疫にかかわる細胞の分裂を促進するインターロイキンや、骨髄細胞の分裂や赤血球の産生を促すエリスロポエチンも成長因子に分類される。
 また、癌細胞は自分自身で成長因子を産生したり、そもそも成長因子を無視して増殖できる能力を持っていることもある。

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