お城とパンダと母

「あなた、あれすごく好きだったのよ。動物園に行くたび乗ってたわ」

母が目を細める。視線の先には、100円を入れるとゆっくり歩くパンダの乗り物。

「そうだっけ」

観光客で賑わうお城の、お土産物屋の隣にひっそり置かれたパンダ。たしかに、昔はよく見た気がする。

「そうよ。アイス食べながら乗ったら落としちゃって。泣いてたら店員さんが新しいアイスくれたのよ」

何歳のときの話なのか。覚えていないけど、そのエピソードは母から聞いたことがある。

「あなたは泣き虫だったから。でも、可愛かったわ」

可愛かった幼い私には、もう二度と会えない。それは、母にとって寂しいことだろうか。

「大人になってしまったね」

「大人になってくれてよかったわ」

私にもいつか、母を懐かしく思い出す日が来るのだろう。

そのときは、今日のことも思い出すのかな。

お城とパンダと母。思い出したら、懐かしさで立ち尽くすのかもしれない。



#旅する日本語 #追懐

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