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平凡なハッピーじゃ物足りない

「こんなこと言うと怒られるかもしれないけど……」

と予防線を張ってから話し出す人がいる。

だけど、ほとんどの場合、予防線のあとに続く「こんなこと」は意外とたいしたことがない。「えっ、別に怒らないけど……」と思うことが大半だ。

予防線を張るということは、その人は過去に「こんなこと」を言って誰かに怒られたのだろう。

もしくは、世の中の怒っている人たちを見て、「こんなこと」を言ったら怒られるに違いない、と怯えているのかもしれない。

たしかに、Twitterを見ていても、毎日たくさんの人が怒っている。

怒られるかも、と萎縮してしまうのもわかる。私もそうだからだ。

◇◇◇

私が中一のとき、篠原涼子が

平凡なハッピーじゃ物足りない
簡単にラッキーを手に入れたい

と歌っていた。

それが、当時の私には衝撃だった。

そんなこと言ってしまっていいのか。

気持ちはものすごくわかる。私だって、「平凡なハッピー」以上の特別なハッピーが欲しいし、努力せずに「ラッキーを手に入れたい」。

だけど、そんな本音を堂々と言ってしまったら、真面目な大人たちは

「平凡なハッピーさえ手に入らない人もいるんだから、身の丈に合った幸せで満足しなさい!」

「ラッキーを簡単に手に入れたいとは何ごとか! 努力をしろ、努力を!」

と怒るんじゃないだろうか。

私は、テレビからこの曲が流れるたびに

「そんなこと言ったら大人に怒られるぞ……!」

とヒヤヒヤしていた。

そして「まぁ、私はわかってるけどね」と小室哲哉にエールを送っていた。

◇◇◇

と、何でここで小室哲哉が出てきたのかというと、私はずっと、この曲を作詞・作曲したのは小室哲哉だと思っていたのだ。

「恋しさと せつなさと 心強さと」のイメージがあったので、篠原涼子といえば小室ファミリーだと。

それに、あの時代、若者の本音を代弁して大人たちに叱られてくれるのはTKの役割だった(TKも大人だったのに)。

だけど、さっきググってみて衝撃の事実が判明した。

なんと、「平凡なハッピーじゃ物足りない」の作詞・作曲は広瀬香美だった!

そう言われれば、この詩の世界観はまさしく広瀬香美のそれだ。

広瀬香美の歌詞には、TK以上に、馬鹿正直に願望をぶっちゃけて真面目な大人たちから叱られる要素がある。

たとえば「ロマンスの神様」では、ただただ「条件のいい男と付き合いたい」ことだけを歌っている。自分が幸せになれるなら相手は誰でもいいし、相手の気持ちもどうでもいいのだ(ロマンスの神への冒涜じゃないのか!)

たぶん、多くの人は「恋愛ってそういうもんじゃないだろ!」と思うだろう(私は思う)。

だけど実際に、この歌詞のような恋愛観を持つ女性はいる。

他人がどれだけ「もっと相手を尊重するべき!」と怒ったところで、彼女にとってはそれが恋なのだ。

◇◇◇

私はこの曲のサビしか知らない。私が知っているのは

平凡なハッピーじゃ物足りない
簡単にラッキーを手に入れたい

の部分だけだ。

だけど、このたった2行に、当時の私は深く共感した。

12歳といえば、もうそれなりに自分のスペックを把握している。

私は、どうしたって平凡だ。

勉強と部活を頑張り、恋と友情と進路に悩む。そんな平凡な中学校生活を送るのだろう(実際には中二で不登校になったので、平凡な中学校生活すら送れなかったが)。

それは、そこそこ幸せだ。

だけど本音を言えば、「ある日突然イケメンと同居することになる」とか「天才少女としてマスコミに見出される」とか、そういう平凡じゃないハッピーが起きてほしい。(私は4歳から少女漫画を読んでいる)

いや、わかってはいる。そんなことが起こらないのは。

だけど、願うだけならタダだろう!

私が分不相応な願望を抱いたところで、誰にも迷惑はかからない。

だから、けして「バカなこと言うんじゃない!」と怒ってくれるな。

私は、他人(特に大人)に対してそう思っていた。

◇◇◇

今の私は、平凡なハッピーでも物足りてしまうようになった。

だけど、「簡単にラッキーを手に入れたい」には今も共感する。

わかっている。コツコツと地道な努力を続けるのが大切なのは。実際に、今も望む結果に向けて努力しているところだ。

だけど、それはあくまで「努力しないことには望む結果が得られないから」だ。

もしも。

何の努力をしなくても、ぽーんと棚ぼた的なラッキーで夢が叶うとしたら、それに越したことはないと思う。

しかし、世の中には「簡単にラッキーを手に入れたい」という言葉に反応して怒る人間がいる。

そういう人たちの言い分は「努力は素晴らしい」「だから努力をしろ」だ。

彼らは本当に「簡単にラッキーを手に入れたい」と思ったことがないのだろうか?

……本当に? ただの一度も?

だとしたら、「はは~、ご立派でございますねぇ」としか言いようがない。

私は、宝くじが当たったら嬉しいし、ダイエットしなくても5キロ痩せたら嬉しいし、朝起きて顔が石原さとみになってたら嬉しい。

◇◇◇

もしも明日、天才になっていたら。

才能ある人たちのような素晴らしい文章がスラスラ書けるようになっていたら。

私はめちゃくちゃ喜ぶだろう。

だけど現実には、そんなことは起こらない。

だから、こつこつ書き続ける。それは「素敵な文章を書けるようになる」という目的のためにやっていることで、「努力は素晴らしい」みたいな理由でやっているわけではないのだ。

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