ゲストハウスなんくる荘16 似てる人
あらすじ:那覇にあるゲストハウス・なんくる荘にやってきた26歳の未夏子。旅するように生きる彼女は、滞在日数を決めないままダラダラとなんくる荘に居つき、長期滞在者たちと打ち解けていく。ある日、地元にいる弟からLINEが届き、初恋の人の近況を知る。
前回まではこちらから読めます。
◇
結局、ヒロキ君もアキバさんもジンさんもバイトだったため、モンちゃんの送別会はいつもの夜とたいして変わらなかった。
あたしとまどかちゃんとマナブさん、昨日から宿泊している女の子三人組、ネコンチュ。参加者はそれだけだ。
しかもモンちゃんは「明日早くに出たいから」と十二時になると部屋へ引き上げてしまった。女の子三人組も部屋へ戻り、あたしとまどかちゃんとマナブさんがテーブルの上を片付けた。
「淋しくなるね」
まどかちゃんが灰皿の吸殻を捨てながら言う。昨日、ヒロキ君の頭上でひっくり返した灰皿だ。
「ここはそういう場所だから」
マナブさんが、ゴミをマツダマートの袋に片っぱしから放りこんでいく。
「ここは長くいる場所じゃないよ。ここは通過点だから。もしここがゴールだったら重いよ、そんなとこ経営すんの」
まどかちゃんは納得いかなそうな顔をしているけど、あたしはマナブさんがそう思っていたことを知り、嬉しくなった。
◇
明日も午前中からバイトだというのに眠れない。
モンちゃんがゴールする。二年半の旅を終わらせようとしている。
ゴールしたくない一心でなんくる荘に居着いていたモンちゃんは、いったいいつ、何のきっかけでゴールを決心したのだろう。
一緒に暮らしていながら、あたしはモンちゃんの心の変化にまったく気づかなかった。
あたしはどうだろう。
大学を出てから三年半。この旅はいつ終わるんだろう。いや、終わらせるんだろう。
眠れず寝返りばかり打っていると、空が白み始めた。カーテン越しにやわらかい光を感じる。
陸生からのLINEを読み返す。まだ返信はしていない。
実家に帰ったら、また母に「フリーターでもいいから、いいかげん職と居場所を転々とするのはやめて」と、うるさく言われるのだろうか。それとも、親はもうあきらめているだろうか。
玄関のドアが開く音がする。水でも飲もうと階段を降りると、アキバさんが帰ってきたところだった。
「おかえり」
「ただいま。どうしたの。ずいぶん早いね」
「眠れなくて」
「めずらしいね」
「うん」
台所でコップに水道の水を注ぐ。
「あのさ、モンちゃん、今日の朝出発するの知ってた?」
「今日の朝? ここ発つの?」
アキバさんは知らなかったようだ。
「うん。このまま起きてて見送ってあげようかと思って」
「じゃあ俺もこのまま起きてるよ」
「うん。もうすぐヒロキ君もジンさんも帰ってくるだろうしね」
あたしは部屋に戻って顔を洗い、ちゃんとブラをつけてからキャミとホットパンツを身につけた。さっきはノーブラのままアキバさんと会話してしまった。気づかれただろうか。
煙草を持ってリビングへ戻る。アキバさんはメガネをはずして親指と人差し指でまぶたを揉んでいた。サラリーマンぽい、と思う。
ずっと気になっていたことに気づいた。ずっと、アキバさんは誰かに似ている気がしていたけど、その答えがようやくわかった。
広治さんだ。
アキバさんは、広治さんに似ていた。顔だけじゃなく、バツイチであることも、実年齢よりずっと若く見えることも共通している。ガンダムが好きなことも同じだし、年も近い。
「アキバさんって、あたしの初恋の人に似てる」
「ほんとに? 照れるな」
「いや、照れなくていいけど」
「初恋っていつ?」
「小学校二年生のとき」
「え、こんな顔の小学生?」
アキバさんは自分の顔を指す。
「いや、相手の人は二十代だった。バツイチで子持ち」
「よくもまぁ、好きになったね。小学校二年生が」
「ねぇ?」
次の話
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