バズった後のこと。やれたかも売上報告

先日、漫画家の田中圭一さんから京都精華大学で「新世代マンガ総合講座」の講師をしてほしいというご依頼をいただきました。SNSの時代において漫画家はどのようにやっていくべきか、みたいなことを話してほしいということでした。

何か話せることはあるかなとあれやこれや考えていたのですが、バズる方法などはすでに各所で語られていて、上手い人がたくさんいるので、僕はそのバズった後に何をやったか、そしてどうなったのか説明しようと思いました。
京都の講義は無事(?)終わったのですが、せっかく色々まとめたのでnoteでも公開したいと思います。

これが正解というわけではなく、こういう人もいるよ。ということです。
では、どうぞ。

[目次]
・はじめに
・やれたかも委員会の電子書籍11ヶ月分の売上
・書籍印税との比較
・もし商業誌で連載していたら…
・結論
・個人で配信するメリット
・個人で配信するデメリット
・まとめ


・はじめに

やれたかも委員会は2016年9月にツイッターで初めて拡散されました。
単行本は2017年6月に刊行され、現在2巻まで発売中。3巻は1月27日に発売されます
ネットで漫画が有名になると大体の人は雑誌やWebサイトで連載したり、出版社と出版契約を結び書籍化したりすると思いますが、僕は少し違うやり方を選びました。

全ての申し出を断って、商業誌で連載をせず、noteでのデータの直販、電子書籍の売上で生計を立てようと思いました。
なぜそのような考えに至ったのかは、こちらのインタビュー記事で詳しく書かれております。

ざっくり言うと、「これまでやりとりしてきた編集者や出版社のやり方に不満があった」ということですが、そういうと出版社へのディスだと一括りにされてしまうので、別の言い方をすると、「売れなかった時の責任を出版社のせいにしていじけるくらいなら、自分で一度全部やってみよう。」という考えからです。

バズった当時「やれたかも委員会」を連載しませんかという依頼が3、4件いただきました。書籍化だけしませんか?というのも数件ありました。連絡いただいた出版社には全て話を伺って、こちらの要望を伝えました。「電子書籍は自分で出します。ドラマ化などの2次利用も自分で管理します。出版だけお願いします。」

嫌味を言われることもありましたが、きちんと交渉のため話を聞いてくださる編集者さんもたくさんいました。断るときに迷ったことももちろんあります。しかし一切妥協せず交渉を続けました。
その結果、自分の希望通りに契約を交わすことができましたが、さてそれは正しかったのか、もしかして商業誌連載の方が良かったのではないのか、数字で判断していこうと思います。


・やれたかも委員会の電子書籍11ヶ月分の売上

こないだやれたかも委員会の電子書籍を発売して約1年分(11ヶ月間)の売上が出たので、グラフにまとめてみました。
それがこちらどん。

一番目立つのが緑の線です。これは書籍印税です。ドラマ化された際に2回ほど増刷していただいて、現在までに累計6万部発行されています。よく「もっと売れてると思ったけど、そんなもんなんですね。」と言われます。「そんなもんですよ。」と答えています。

次が赤い線。これが電子書籍の売上です。青い線はnoteでの売上とcakesの売上( PV数による分配制)を足したものです。最初は200円とかしか売れていませんでしたが、話数が増えると12~13万円くらいまで伸びて、その数字をキープしています。

まずは電子書籍の売上を合計して、書籍印税と比べてみます。

やれたかも委員会売上(2017年7月〜2018年6月の11ヶ月間。)
電子書籍の総売上 8,147,871円
note、cakesでの直販売上 1,586,338円
合わせると9,734,209円でした。
11ヶ月分なので1年分にすると1,000万円ぐらいになりそうです。

紙書籍は定価が950円なので、6万部で印税額は約570万円。

というわけで、電子書籍の売上の方が書籍印税よりも1.4倍くらい多いということになりました。

個人的には「めちゃくちゃいい数字じゃん!」と思いますが、果たしてこの数字が多いのか少ないのか、もし商業誌で連載してたら…を想像して試算してみます。


・もし商業誌で連載していたら…

僕は電子書籍は(有)佐藤漫画製作所さんが運営する配信サービス「電書バト」を利用しています。料率は電子書籍ストアにより違いますので、詳しく書きませんが(問い合わせれば教えてくれます)、出版社を通して配信すると、今の半分ぐらいの電子書籍収入になるのではないかと思います。(出版社はなぜか電子の料率を教えてくれない。もしくは編集者に聞いてもよくわかってない。ということがとても多いので根気強く聞きましょう。)

というわけでもし出版社でやっていたら電子書籍収入は約407万円。
(12/15追記:この電子書籍収入の数字に誤りがありました。正しくは約231万円でした。間違いの原因と算出方法を別記事にまとめてあります。こちらを参照ください。)
紙書籍が同様に6万部だとして570万円。
商業誌で連載すると原稿料が発生します。1P10,000円だとして単行本1冊あたり200Pで200万円。2冊で400万円の原稿料がもらえることになります。
前述の現在の状況と比較してみます。どん。

単行本を出してから11ヶ月分を比較してみると165万円ほど、自分でやった方が高い収入になりました。
あんまり変わらないですね。。。
独立して大儲け!というわけにはいきませんでしたが、バズって上手く読者を獲得できれば「出版社を頼らず個人で電子書籍配信しても、商業連載と同額程度稼げる。」ということは言えるのでないかと思います。

・結論

出版社主導の商流に乗らなくても、同程度の収入が得られたことはとても大きな結果なのではないかと思います。さらに出版社からの原稿料収入は一度もらうとそれっきり、打ち切られるとなくなりますが、電子書籍売上はこれからも上下します。今後はこの差がどんどん開いていくのではないかと考えていますが、それはかなり希望的観測も含まれてしまいますので、ここでは冷静に数字だけを提示することにとどめておきたいと思います。

最後に著作権を自分で管理してやっていくスタイルのメリットとデメリットをあげて終わります。向き不向きがあると思いますので、参考にしていただけましたら幸いです。

・個人で配信するメリット

①編集者に対する文句が一切なくなる。
時折SNSでも話題になりますが、「ネームを切ったけどコンペに落ちてタダ働きになった。」「宣伝のためにサインをたくさん書かされた」「出版社が全然宣伝してくれない」「打ち合わせで失礼なことを言われた」そういったトラブルやストレスから完全に解放されます。これは僕にとってものすごいメリットでした。
ネームを切って原稿にして発表すれば必ずお金になるし、宣伝のために何かしてくれと言われても割りが合わないと思えば断れます。出版社の宣伝方法に「え?」って思うことがあっても、「まあ頑張ってください。」と気持ちよく割り切れます。
正直、電子書籍の権利を出版社に預けてたと思うとゾッとします。

②自由に企画が立てられる。
宣伝方法がかなり自由になります。クラウドファンディングやりたければやればいいし、イベントしたかったらすればいいし、作画配信したければすればいい。ネットに漫画も上げられるし、フリーダウンロードという、編集者さんからしたら賛否分かれそうな思い切ったことも自分の判断でできるようになります。
これは失敗することも多いですが、そこから学ぶことがとてもたくさんあります。

③読者への純粋な感謝が芽生える。
やれたかも委員会は紙書籍が6万部刷られていますが、これは刷られた数であり、6万冊売れたわけではありません。(多分実売数は3万ぐらいじゃないだろうか。)
でも電子書籍は売れた数です。電子書籍売上814万円分必ず誰かが買ってくれています。書籍印税は増刷がかからないとお金がもらえませんが、電子書籍は一冊売れると確実にお金が入ります。なのでものすごく読者に感謝します。純粋にもっと面白いものを描いて喜んでもらおう!と思えます。

・個人で配信するデメリット

①お金が入ってくるまで時間がかかる。
電子書籍の売上はシステム上、販売されてから入金まで4ヶ月から半年くらいかかります。単行本1巻分を半年かけて描いたとして、発売されて4ヶ月後に振り込まれたとしても、描き始めてから売上をもらうまでに10ヶ月もかかることになります。その間の収入はnoteなどの直接販売のサイトなどでやっていきたいところですが、それも不安定です。貯金をしてから描くか、働きながら描ける方に向いてるかもしれません。

②雑誌に載ることができない。
僕も昔は「○○先生と一緒の雑誌に載って感無量!」という雑誌に掲載されることへの憧れがありました。そのような憧れを持っている人には雑誌に載れないのはデメリットと言えるかもしれません。

③電子と紙の相乗効果
最近「雑誌で打ち切られたけど、電子が売れたから紙書籍も増刷がかかった。」という声をちらほらと目にします。
電子書籍を個人で管理しているとそういうことは起こりえません。出版社は紙書籍のみで利益を出そうとするので、電子の売上なんか関係ないからです。打ち切られた漫画が電子が売れて、紙書籍が増刷され、紙書籍も売れて超話題作になる。ということも今後十分ありえます。
そういう夢にかけてみるのもいいのかもしれません。

ということでまだまだありそうですが、3つずつ上げてみました。どうでしょうか。
誰かの参考になりましたら幸いです。


・まとめ

雑誌に載ることへの憧れがあって、信頼できる編集者さんがいて、この人とやっていこうと思える方は出版社と組んでやっていくのが向いているのかもしれません。
逆に信頼する人と出会えず、もっと色々やってみたいのに息苦しいなと思う人には、完全に個人でやっていく道も徐々にできてきてるという結果になったのではないでしょうか。

ちょっと余談だけど、先日知り合いの漫画家の方に「デイズネオ(講談社が運営する投稿サイト)に投稿したらいいんじゃないですか?」と言ったら「吉田さんでもそういうこと言うんですね!」と驚かれました。
どうやら日頃からこのnoteのようなことばっかり言ってるので、「これからはネットっしょ。編集者なんかいらないでしょ。」と思ってると思われているようでした。
そんなこと思ってないです。
僕個人としては編集者とのやりとりにいい思い出がないし、担当者もコロコロ変えられちゃうので、関係性を築くのが苦手ですが、そういうのが普通にできる人は編集者とやっていくのがいいのだと思います。
ただ昔は「何を言われてもネームを持ち込み続けろ。それが漫画家への唯一の道だ。もちろん無償だ。」という時代でしたが、今は色々できることもあるので、もう少しフェアであってもいいんじゃないかと思うしだいです。

以上、やれたかも売上報告でした。
おわりんこです。


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あんがとさん!
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吉田貴司

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コメント4件

勉強になりました。ありがとうございました。
とても興味深い情報を公開して下さり、ありがとうございます。具体的な数値をここまで公開され、電子媒体の可能性を改めて強く感じました。
漫画家さんが営業的な活動を独自でされるモデルケースの一つだと思いました。
商業出版(小説やノンフィクション)を山ほど経験している僕から見て、紙媒体に足を踏み入れなかったのは正解。紙媒体での出版の収益は、10年前に比較して5分の1ほどに落ち込んでいる。初刷りの関係もあるけれど、何より書店が町から消えて、販路がない。クリエイターは、商業出版とは別の山を登らなくてはならない時代です。
それにしても、僕は思うのですが、マンガに限らず、小説に限らず、写真集に限らず、Web媒体で活躍してくれるプロの編集者はどこかにいないものですかね。
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