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獄中記⑰ つかの間の極楽

山梨の留置は完全個室

山梨の留置所へ入ってまず驚いたのは、完全個室で部屋がものすごく狭いことだ。4畳もない汚い部屋だ。                      雑巾で力強く拭いても汚れは落ちない。                 その部屋に毛布を入れてくれるので、絨毯として使ったり、座布団として使ったりする。

この施設は食事も美味しかった。冷たくないし、揚げ物もサクサクしていた。自弁はカレーとかつ丼と焼きそばがくるんだが、カレーはレトルト。かつ丼はカツ煮丼で来る頃にはご飯がべちょべちょ。焼きそばはどちらかというと焼うどん。水っぽくて麺も太くてとにかくマズイ。              私としてはレトルトであってもカレーは食べたかったので、2日に1回くらいは頼んだ。

それから本と一緒に部屋にペンを入れられたので、ノートを買って数学の勉強もした。数ⅠA・ⅡB・Ⅲの問題を、見てすぐ答えを写すという方法でやった。どうせ解けないんだから解き方を覚えるのが手っ取り早い。イチイチ簡単な基本書をじっくりやっていては時間が足りない。         

英語は「語文整序問題600」というテキストを1日10問ずつ文章ごと暗記していった。文の型さえ覚えてしまえば、後は名詞や動詞を変えるだけで話すのも書くのもできるようになると思うからだ。

不自由な面会と手紙

ここの施設は面会や手紙についてかなり厳しく手間がかかる。       一般に手紙は日中であればその日、夕方以降なら次の日と言う風に取り扱うのだが、山梨は違う。                               手紙を出すと「確認してください。」というペーパーにサインさせられ、そこから3日位かけて留置やその他の幹部の決裁を取る。         それが終わるともう一度、今度は「出します。」というペーパーにサインしてやっと終わりだ。                             また以前にも書いたが、弁護士に急遽書きたい手紙があったのに時間がかかると言われ、宅下げ(面会に来た時に直接渡す方法)にすると担当さんに伝えたことがある。                             その場で何の説明もなかったので当日に渡そうとすると、宅下げにも3日かかると言われた。                                 最初に教えてくれたらよかったのに・・・。

またこんなこともあった。                               私は東京に弁護士の小寺先生もついている状態で、小寺先生も面会に来てくれた。 その時担当さんは何と、「あなたが彼の(私)弁護人だという保証は?」などと、普通必要ないことまで根掘り葉掘り聞かれたらしい。          一時は断られる勢いだったという。                           こんなことはありえないのだ。                              うがった見方をすれば、妨害しているともとれる。                父が面会に来た時も訳の分からないことを言われたらしい。

面会中も私と20センチくらいの距離に担当さんが引っ付いていて、とても普通の面会のようには会話できなかった。                     田舎者は外の人間に厳しいのだろうか?(笑)

六本木へのドライブ

起訴されて一週間くらいしてから警視庁の刑事が来て、車で東京へ行くと言われた。引きあたりと言って、事件現場への案内をした。             私は東京の事件で犯人達がどこから盗んだのかは知らなかったが、どこへゴミを捨てたかは知っていたし、刑事にそれを教えるといったので彼らは来たのだった。                                

私は久しぶりに東京へ行くので、少し嬉しかった。                     車へ乗って高速へと向かう中、山梨県の自然に感動した。空気もいつも美味しくて、ほどよい風が留置所へ入ってきていたが、これほどまでに美しい自然だとは思っていなかった。                           見渡す限りの緑。濃い緑と薄い緑の割合が3:7くらいで、薄い緑の間に水のきれいな川が流れている。                          自然の中にいると心が安らぐ気がした。  

東京まで雑談をし、目的地で写真を撮った。              そして麻布署の留置所へ入り昼食を頂いた。コッペパン2本とコロッケ、ジャム2つとマーガリンだった。                         数か月後には来ると分かっていたので注意深く見ていると、どうやらかなり騒がしい。ルールが存在しないようだ。                     勉強しにくいだろうな・・・と思った。                        職員に女性がいるらしいことや、民間人らしき人が食事を片付けているのに驚いた。

帰りは今後の見通しについて少し話した。                       私としては東京の件はあくまでも善意の第三者だった訳で、間接的に関わった以上逮捕は仕方ないが、起訴されることはないと思っていた。            しかしこの日の会話の中で大山刑事は、私がこの事件でほう助か何かに問われるのかと聞くと、「いや、ほう助ってことはないだろう。そういう方向では考えていない。」と語った。                          ニュアンス的に ”そんなに軽くはないぞ・・”と言う風にとれたのだが、私自身に罪の意識がないので、軽い冗談か、脅かしているだけだと思っていた。

山梨へ戻ると、留置の担当が刑事のことを「変なヤツだ」とか「ビシッとしてない」とか色々文句を言っていた。                        とにかく彼らは外の人が嫌いらしい(笑)

捜査2課が調べに来た

2日後くらいに山梨県警の2課(知能犯係)が来た。「H」の不正自給に関して、本当に私が関与していると思っているようだった。            「あなたをやっつける気はないよ。Hがこれを詐欺だと認識していたという供述が欲しい。」と言ってきた。                           しかしそんな存在もしない会話をこれ以上取られるのは嫌だったし、Hに恨みもなかったので、「考えておく」と言って保留した。

川村は途中、少しだけ入ってきて、私に「来週の月曜に移送だよ。色々話はしたかったけど、上司が許可してくれないんだよ。未遂で起訴されたってのは俺も驚いた。検察の方で既遂の決裁が通んなかったんじゃないか。意外と検事も自信ないんだと思う。計画性うんぬんとか言ってくると思うけど、計画性がないから失敗してるんだ。                        まあ弁護士もその辺りは戦えると思うよ。」               「それから「K」は捕まえたけど全然ダメだ。上のこともお前がもめていた奴のことも協力しちゃくれない。」                       「後、東京の件はどうするんだ?5000万規模なら間違いなく民事起こされて爆弾背負わされるぞ。俺がどうしたらいいのかとか言える話じゃないけど。」 などと言った。

東京の件で起訴されるようなことはしていないが、民事の話は今まで考えてもいなかった。                              彼は私に否認、あるいは黙秘を勧めたのだろうか・・・。そうだとして、そのワケは?                                 まだよくわからないが、どうやら地方の県警と警視庁は上手くいってないという、小説の世界の設定はあながち間違っていないらしい。

予定通り私は月曜の朝一に車で兵庫へ向かった。

つづく。

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