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ミームを通して成長したHIP HOP -浮かび上がるLil Nas Xの成功- 【完結編】

こちらの記事は『ミームを通して成長したHIP HOP -寺田心からLil Nas Xまで- 【ミーム編】』からの続きです。

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ミーム編では、ミームの誕生からバイラルまでを紹介したが、完結編では具体例と共にHIP HOPの視点からミームを観察していく。最初に忠告しておくが、これから先の内容は、寄り道しながら書きたい事を書いていくので、少々疲れるかも知れない。ご注意を。

最初にインターネットを利用したラッパーは? 

今では当たり前のようにHIP HOPとミームが結びつき、毎晩のようにSNSを騒がせているが、最初にこの文化を利用したアーティストは誰なのだろうか? ここに関しては自分の憶測でしかないが、歴史における重要人物としてSoulja Boyの名前を挙げておきたい。

最近では、謎のゲームコンソールを発売したり突然Tygaに喧嘩をふっかけたりと、あまり効果的には見えないようなプロモーションも多く、かつての輝きを覚えている人の中には「落ちぶれた」といった表現をするものもいるくらい。確かにSNS全体の反応もそうであった。迷走していると話題になっていたほどである。

今から10年ほど前のSoulja Boyは間違いなくスターであった。250万を超えるTwitterのフォロワー(調べ不足ですが確か一時期1位になったはず)と、キムカーダシアンと負けず劣らずのSNS支配力(当時は2人とも1ツイートあたりの値段が約100万円超えと予想されている)は圧倒的であった。そんな彼が有名になったきっかけは、初期の4chanで流行した「釣り」とよく似ている。

日本では今、Music.fmが大きな社会問題になっているが、ストリーミングサービスが始まる以前、Limewireというフリーファイル共有サイトが存在していた。こちらのサービスはMusic.fmと非常に似ており、一言でいえば無料で音楽がダウンロードできるサービスである。2010年に連邦地裁から恒久的なサービス停止を告げられるまで、誰でも利用することができた。

オススメできるような方法ではないが、この裏ビジネスに乗っかろうと考えたSoulja Boyは、「Rihanna  Umbrella」もしくは「Fall Out Boy  Thnks fr th Mmrs」とタイトルをつけて曲をアップロードした。しかし実際は、クリックすると自分の楽曲である「Crank That」が流れるクソな仕組みである。ラジオで聴いてLimewireで「Rihanna  Umbrella」検索したものたちは、まんまと騙され彼の曲を聴かされることになった。しかし、騙された人たちは彼の曲をスキップしなかった。この「Crank That」は計算し尽くされた名曲だったからである。

曲自体のクオリティが高かったのはもちろんだが、特徴的なダンスが彼の人気を爆発させた。

まず、サビが始まる前の15秒間を利用して、ダンスのやり方を説明している。以下のセリフだ。

「Soulja Boyって名付けた新しいダンスがあるぞ。前にパンチをして、後ろに下がりながら右から左へと3回ずつクランクするんだ」

そしてあの中毒性のあるサビだ。ここまできたらもう体が自然に動いてしまうもの。事実Limewireから始まった「Crank That」は、別のプラットフォームでダンスを通して全米の隅々にまで広がっていった。

Soulja Boyの隠れた功績として、インターネットでお金をかけずに注目を浴びる前例をいくつも作ったことがあげられる。

最初の15秒でダンスの説明、次の15秒で1回目のサビが終了する。おそらく偶然だろうが、最初の30秒間でリスナーを逃さない究極の作戦であった。Limewire上では、もともとSoulja Boyの曲を聴くつもりではない人たちに向けて、提供することになるわけなので、最初のインパクトは非常に重要なものになる。

そして忘れてはならないのが、「最初の30秒」だ。これは現代のストリーミングにおいても重要なパートである。現代のストリーミングサービスのほとんどは、クリックした時点でアーティストに直接お金が入ることはない。30秒流れてやっと、「1回再生」として記録される。ストリーミングを基準に音楽活動をしているレーベル所属のアーティストは、この30秒間でどれだけ心を掴めるかにかかっていると言っても過言ではない。

「Limewireでのタイトル差し替え」と「ストリーミングサービス」、全く環境は違えど、スキップされてはいけないという前提条件の上で曲作りを考えていたはずだ。Soulja Boyは当時16歳であり、もしかしたらそこまで考えていなかったかもしれない。ただ彼は直感的に2019年でも通用する楽曲の制作を心得ていたことは間違いないだろう。現代にもSoulja Boyと似たようなマーケティングをしたアーティストは存在する。面白い例を一つ上げてみよう。

再生回数0のヒット曲を生み出したComethazine

音楽を無料で聞く方法は、違法から合法へ、LimewireからSoundCloudへと移行していった。今年XXL Freshmanに選ばれたComethazineは、SoundCloudを利用してSoulja Boyと同様の方法で再生回数を稼いだ。なんと信じ難いことに、「YBN Nahmir  Bounce Out With That」のタイトルで自身の楽曲をアップロードしたのだ。ただ、彼の場合は本当にYBN Nahmirの楽曲をアップロードした。100万回再生を突破した頃にオプション機能で楽曲の差し替えを行った模様である。プライドを捨てて再生回数をもぎ取ったように見えるが、実際はもう少しだけ複雑だ。

(via https://help.soundcloud.com/hc/en-us/articles/115003448407-Suggested-Tracks

SoundCloudにあるランキング機能&ユーザーを解析するAIを利用して、無料のプロモーションを行ったと捉える方が合理的である。こんな無茶苦茶な方法で、ヒットしたとなればSoundCloud側もなんらかの手は打ってくるはずなので、この作戦は全てのアーティストを通して1度しか使えない荒技だ。2016年6月に、楽曲のレコメンドに関する機械学習のアルゴリズムが実装されたので、それ以前にこのヒットが起こることはなかったと考えてもいい。Comethazineは1度しかないチャンスに上手く乗ったのだ。

現在でも通用するような、バズマーケティングを10年以上前にしていたSoulja Boyのセンスは計り知れない。現在のSoulja Boyに関して、「迷走していると話題に...」と少々ネガティブに表現したが、10年前より流れるスピードが早くなったTLでも、埋もれることなく話題になっていることはプラスと捉えることもできる。まだまだSoulja Boyから学べることは多くあるだろう。

Soulja Boyに関して書きすぎてしまったような気もするが、まぁ気にせず続けたい。

(イリーガルな方法での楽曲の広め方を推奨しているわけではないので、ご了承を)

短くなったアーティストの寿命?

ここ最近はChance the RapperやNipsey Hussleといったインディペンデントアーティストのロールモデルも現れたことで、レコード会社と契約を結ばない考え方が広がっている。「レコード契約は奴隷制度と変わらない」とPrinceが発言したこともあり、レコード会社との契約自体にネガティブなイメージは切り離せないものになってきた。Chance the Rapperのように、音楽性だけでなく経営面でもカリスマ性があれば、インディペンデントで利益を最大限に引き延ばす方法を取るべきだが、実際多くのアーティストは当てはまらない。

その証拠に、2010年から2018年の間で、Hot100とBillboard200のTop10を計測したデータがある。ここ8年間でTop10にエントリーしたHIP HOP作品のうち、インディペンデントアーティストによる作品はわずか3.9%だ。お世辞にも多い数字とは言えない。

しかしこの形も変わってくることが予想される。キャピタル・レコードのデジタルマーケティング部のディレクターを務めていたDimplezさんはこう語った

「2019年にアーティストと契約に結ぶことは、ワイルドになってきている。多くの場合は仕事関係、もしくはバズることで、それぞれのA&R担当やレーベルのトップに名前が届くようになった。

--中略--

契約までのプロセスが変わってきている。これまではダイヤの原石であるアーティストに、どの程度伸び代があるかを見ていた。しかし、現在はアーティストのランウェイが短くなってきている。アーティストに求めることも変わってきた。レーベルは新たにアーティストを育てるほどの余力がなくなっている」

レーベルはアーティストを育てる余裕がなくなったのか、育てる必要がなくなったのかは知らないが、業界全体を通してインターネットのスピードの速さを実感しているようだ。そのスピード感から、今まで出来ていたことがやりにくくなってきている。

今まではレーベルの力を使ってヒットをクリエイトすることが、ある程度可能であった。Ellie Gouldingのブレイクアウトソングである「Lights」も、リリースされたのは2010年だ。2011年に大掛かりなプロモーションをし、Hot 100で2位になったのは2012年の8月というロングランである。

これもSNSでの戦力が重要なピースである2019年では、全く通用しないだろう。

情報の流れるスピードをコントロールできなくなった今、レーベル主体の長期的なマーケティングは、余程のことがなければ成功しない。そこで重要な役割を担ったのがミームだ。

コントロールできるorコントロールできない

ミーム編で、HIP HOPはミームをビジネスとしてコントロールできるのかどうかを問題提起した。結論から言うと、私はコントロールできると考えている。

ただ、意図せずミーム化し、バイラルした場合あるため、全てが全てコントロールできるわけではない。それらを含め、ミームとHIP HOPの結びつきは4パターンに分けられると考えた。


コントロールできない

①ミームがHIP HOPを利用


コントロールできる

②ミームがアートに

③一種のメディアとしての利用

④ミームの参加方法の指定



全く違う線引きをする人もいるかと思うが、今回はこの4つのパターンで深掘りする。



①ミームがHIP HOPを利用

まず、コントロールできない枠に振り分けた、ミームがHIP HOPを利用することについて。これに関してはミームの題材がHIP HOPにまつわるようになっただけで、基本的にはミーム編で話した内容と同じである。とりあえず簡単な例として3つほど紹介しよう。

・Lil Durk & Young Thug

Lil DurkとYoung Thugがじっとコンピューターを眺めているシーンだが、あるあるネタとして盛り上がった。

子供(Lil Durk)「プリントってどうやってやるの? 」

母(Young Thug)「ちょっと貸しなさい! 」

・Takeoff Backseat

MigosがCarpool Karaokeに出演した際、運転席で謎の楽器を演奏するJames Cordenを、怪訝な表情で見つめるTakeoffだ。「大喜利して! 」と@nayrache がツイートしたことで、後部座席の人が心配になるあるあるがミーム化した。

「あと500マイルでつくのに追越車線にいるとき」「マクドナルドに寄るって約束してたのに通り過ぎたとき」「タクシードライバーがあえて長いルートを選択したとき」といったミームが生産される。

・ミスマッチ音楽

これは日本で流行したネタで、サカナクションの「新宝島」をストリートのダンス動画に音ハメしたミームだ。これに関しては文集オンラインで、細かく説明されているが、映像と音楽から生じたギャップが面白くさせているといった内容である。

このギャップを利用した音ハメネタは、USでもHIP HOPと交えたことで多くのミームが誕生した。Chief KeefやBobby Shmurdaなど、不快+覚醒の「怒り」を表現するMVに、Paramoreの「crushcrushcrush」やJustin Bieberの「Baby」など青春時代を思い返す優しい音楽が音ハメされた。その2つの微妙な距離感にギャップが生じ、笑いが起こった。画面の切り替えに合わせて、音楽を貼り付けるだけなので、コツさえつかめれば、誰でもバズることができる。


これらのミームは、彼らの知名度向上に大きく貢献したことだろう。朝起きたら毎回別のネタがバズっていたのだから、嫌でも何度か目にしたことがあるはずだ。ただファンが勝手に始めたネタなだけであり、彼らが意図して拡散したわけではない。「コントロールできない」として定義付けさせていただく。

うまくいけば勝手に大ヒット

上記の3つのミームは音源まで誘導するに至らなかったが、音楽的に深く関わったことで、思わぬヒットを手繰り寄せたミームも存在する。

・Migosのケース

2018年は、Drakeと全米を回る歴史的なツアーを成功させたMigos。彼らをここまで有名させたのはやはりミームの力であった。

2008年から活動を始め、2013年の「Y.R.N」がリリースされた頃から、徐々にスポットライトを浴び始める。とは言っても今のMigosの活躍と比較すると、その当時は然るべき評価を受けていなかった。シングル&アルバムともに1位を記録した『Culture』、それ以前のシングルは「Fight Night」の69位が最高位。セールスも『Culture』と前作の『Yung Rich Nation』ではおよそ10倍の開きがある。レーベルもプロモーションも大きく変わることなく、ここまでのヒットを成し遂げたのは、明らかにミームの力が働いていた。とにかく火がつきまくった「Bad and Boujeeミーム」のことである。

「Bad and Boujee」は、一言で例えるとネタ火薬庫のようなものだった。ラップも当時はそこまでメジャーではない三連符のラップを採用し、アドリブはこれでもかと盛り込んだ。ただ、それ自体が面白いわけではない。MVを見返しても、なんら笑える場面のないただただクールな5分半である。つまり、これを面白いものに変えた存在がいるわけだ。

「大喜利のお題が面白い必要はない」

松本人志もIPPONグランプリの解説でそのように表現しているが、全くもってその通り。面白くするのは芸人であり、ミームの場合は我々SNSユーザーなのだから。お題には、よく観察すると見えてくる少しのズレがあれば十分だ。「Bad and Boujee」にはそのズレが無限に存在した。リリック、ファッション、MV、フロウ、全てが新鮮であった。

きっかけはたった1つのツイートである。イラストレイター兼コメディアンのZack Foxの発言した「クラブを出ようとしてる時にOffsetのYou Knowが聴こえたら...」がバズった(現在は削除されている)。「いい曲すぎて、もうちょいクラブ残っちゃおうかな」という経験が誰しも1度はないだろうか。そんなあるあるが、SNSでウケたというわけだ。ちなみに以下画像のCatdogはもともとミームの常連であり、その延長線上のバズだと考えたZack Foxは、1万を超えるリツイートにもそこまで驚かなかったそう。

面白いのはこの時点だと、まだミームの方向性は定まっていなかったことだ。「クラブを出るに出れない曲」というテーマのもと、他のミームが量産されていた可能性もあった。

重要な役割を担ったと思われる次のバズは、Offsetの最初のバースである『「Rain drop, drop top...」に続きそうなリリック』というミームであった。

ここで完全にミームの方向性が決まった。Bad and Boujeeというお題のもと、大量のミームが発生した。新たなネタがバズっては、また新たなネタが登場する。そうこう繰り返していると、2016年11月に76位でHot100にチャートイン後、ミームの影響からグングンと再生回数を伸ばしていった。1ヶ月後にはこの曲に関するツイートが600%上昇し、1月21日に念願のシングルランキング1位を獲得した。

実際にBad and Boujeeを流して泣き止んだ赤ちゃんを、Offsetっぽいリリックでツイートしてみたり。もともとあんまり内容のないラップをしていた(と言ったら語弊があるかも知れないが)Migosだからこそ、このようなネタが「ありそう」として受け入れられた可能性もありそうだ。

殺人鬼から隠れている緊張状態の時でさえ、「rain drop」の声がすると、「DROP TOP」と返してしまうという、Offsetのフロウの中毒性を利用したバズ。

そしてある程度そのミームが飽和状態になると、リリックからも飛び出し、MVを利用したものなども出てきた。

実際にはOffsetがWooしか言っていないBad and Boujee。

アドリブを言うたびに加速するBad and Boujee(1分半で終わる)。

Lil Uzi Vertバースの入りだしである「Yeah」を1時間永遠と流したもの。

これらは一部の例だが、これらのような様々な種類のミームが数多く誕生した。徐々に楽曲と深く関わるようになったことで、お金が動き一瞬にしてセレブの仲間入りを果たす。インターネットを見る限りだが、Zack FoxとMigosとの間にビジネスの繋がりは見当たらず、これらミームを流行らせることで、ヒットを狙ったわけではないようだ。Migosとしてのクールな存在ありそうでなさそうな一面を同時にポストした時のギャップが、たまたま特大の流行になっただけである。


意図せず大ヒットを記録した「Bad and Boujee」だが、ここからはその知名度を利用し、いくらでもビジネスを展開することができる。Migosが所属するQuality ControlのトップであるPierre "P" ThomasとKevin "Coach K" Leeは、音楽業界のパワーバランスを表す「Billboard's 2019 Power 100 List 」に名前を連ねるほどのビジネスマンだ。Migosが浮上してから彼らをセレブに導くまでの舵取りは見事であった。

Joe Buddenとのビーフが起きてからは、MVを利用したディストラック「Ice Tray」をリリース。ツアーでもJoe Buddenに向けてPus#yを連呼することで(プラカードのようなものまで作り一種の演出にしていた)、ファンの間での連帯感を高めた。Katy PerryやSean Paul、Steve Aokiなど、ファンベースの違うアーティストとのコラボレーション。2K18やMadden NFLなどビデオゲームへ5つの楽曲提供。などなど、HIP HOPの軸から完全に離れることなく、見事なバランスで他ジャンルへも侵略していった。

完全に方向性を失うミーム

これまで何度か「ギャップ」という言葉を用いているが、「ギャップ」はミームを生じさせる上で、なくてはならない笑いのファクターだ。「深刻な画像」と「あるあるネタ」、「Offsetのキレキレなラップ」と「日常の1シーン」、日々TLに流れてくるこのようなネタは、ほとんどギャップを利用したものだ。ただ、もしそのギャップがラッパーのブランドを損なうものだったり、偏ったイメージを植え付けてしまうものだったらどうなるだろう。2つほど例をあげたい。

・Bow Wow Challenge

きっかけはたった1つのツイートだった。

現在32歳だが、ラッパーとしてデビューしたのは13歳の若さであり、キャリアとしては20年近くの大ベテランBow Wow。3年前に引退発表をしたことで、ニュースとなっていたが、それ以降は特に話題になることはなかった。そして2年前、この事件が起きる。

インスタでプライベートジェット機の画像をポスト。そこまではよかったが、そのすぐ後にエコノミークラスに座っているところを発見され、ツイートされてしまう。


本当のことを見せていないメディアを批判するときに、この風刺画像がよく使われるが、今回もそれに近い。そしてSNSはこの画像が大好きだ。隠れた真実を暴くSNSに、我々は叶わぬ恋をしているのかも知れない。

そしてBow Wowのリアルを暴いたSNSは次のステージに進む。実際に見せられているもの(ラッパーのお金持ち自慢など)と現実(エコノミークラスなど)の対比を利用した、#BowWowChallenge が流行した。バズったのはツイッターだであったが、インスタのポストが原因で発生したため、画像を利用した非常にコンパクトなミームであった。

そして不思議なことに、バズったツイートは全てクオリティーが高かった。まるでこのミームが始まる前に作り終えていたような気さえする。

自分なりにこのクオリティーの高さを予測してみたい。まず前提として、理想と現実の間にはギャップが存在する。そしてこれまで説明したように、ギャップとはすなわち笑いに転換する可能性を秘めたものだ。この理想と現実ネタは、非常にシンプルな構成のため、割と思いつきやすいネタの1つである。アイデアとしては既に完成していたが、表現の場がなかったネタが、BowWowChallengeを通すことでミームに変わったのではなかろうか。

理想と現実ネタはいつでも人気がある。意識していないだけで、TLには毎日のように流れているはずだ。


・NAVの声が聞こえない

2018年最大のリリースと言っても過言ではない、Travis Scottの『AstroWorld』。トラックリストも参加アーティストも、ほぼ不明の状態でドロップされた「謎のアルバム」は、Drakeが参加している歓喜の声やDJ Screwへの追悼ソングなど、今まで隠されていただけにSNSでは衝撃を報告するポストで溢れかえった。クレジットを表記しない方法は、一見ディスリスペクトにも感じるが、ある程度のファンベースが確立されていれば、お互いにとってプロモーションになり得る。Tyler the CreaterやChance the Rapperらのリリースを見てもこの戦略は正しかったとわかるだろう。

さて、そんな『AstroWorld』だが1箇所だけ明らかにおかしなところがあった。12曲目の「Yosemite」だ。「Sold Out Dates」の世界をTravis Scottなりの解釈でアレンジしたこの曲であるが、ウケることにアウトロのNAVの声がほぼ聞こえなかった。

『AstroWorld』のレコーディングはハワイにあるAirbnbを貸し切って行われ、いくつもスタジオが存在したそう。プロデューサーのTurboがその場を訪れた際、あまりの衝撃に「クリエイティブアイランド」と表現したくらいである。最高の環境にありながら、なぜこんなシンプルなミキシングのミスが起きたのだろう。そんなことを考える隙もなく、NAVは次の日から特大のミームになっていた。

SNSの特定班はものすごく敏腕だ。この理由をわかりやすく画像付きで解説してくれている。

NAV「こっから音量あげるんだよ、ね? 」(かわいい)

裏で工作するTravis Scott(Lil Durk、Young Thugのミームを利用)

これらミームを通して、なんとなく過小評価されているNAV、というイメージが着いてしまった。MVもTravis ScottとGunnaの2人だけで撮影されており、NAVは完全に蚊帳の外。NAVはちょっとかわいそうな扱いを受けたかも知れないが、「Sicko Mode」に続くヒットを作れたのは、Travis Scott側からしてみれば成功だった。NAVもよかったのかな? もし会う機会があれば是非聞いてみたい。(そもそもNAVの人気が爆発的に伸びたのは「Beibs in the Trap」なので関係悪化に繋がることはないだろうが)

Pepe the Frogのように攻撃的な団体のシンボルとまではいかなくても、ちょっとしたきっかけをもとに、ネガティブイメージのシンボルになる可能性は誰にでもある。どのアーティストもそのリスクを0にすることはできないが、自分自身をブランディングする上で、その可能性を極限まで減らす努力をするべきである。SNSに動画をあげる前に一度吟味したり、カルチャーの情報を入手できる自分なりの情報網を持つことも必要だろう。もちろん我々SNSユーザーも、盲目的に流行に乗ることは気をつけたい。

ここまでは良くも悪くも、ビジネスとしてコントロールできずに終わったミームを紹介したが、ここからは上手くミームを利用した例を紹介しつつ、3つに分けたトピックごとに紹介していきたい。まずはミームをアートに転換した例についてだ。

②ミームがアートに

ミームを作ろうとした時に、一番やってはいけないことは、ミームを1から作ることである。これまで散々説明してきたが、基本は後乗りの文化なので、1回きりで完結するコンテンツは、ミーム向きではない。

Ed SheeranとJustin Bieberの2大ポップスターの共演である「I Don't Care」。Ed Sheeranは大阪、Justin Bieberはロサンゼルスという離れた場所で取られたこのMVは、あえて雑に切り取られた加工により一風変わった作品に仕上がった。お互いスケジュールを合わせる必要もなく、大幅なコストカットに成功したであろう、この取り組みは高く評価できる。

これだけインパクトがあれば、誰しもクリックするだろう。私もこのアイデアは非常に面白いと思う。彼ら主役の価値を下げることなく、絶妙なダサさを追求したことで、まとまりのある作品になった。カラーリングも素晴らしかった。ただこれだけミームカルチャーに近づけたMVにも関わらず、SNSでは全くミームにならなかった。その理由はしっかりと存在する。

A: (4chanやTumblr、Redditといった共通認識の存在する空間に置いて)画像や動画、GIFなどを通して、模倣又はパロディのようなネタ、素材の発生

B: それに対するハイジャック、つまりはネタ被せの無限連鎖的な拡散

「ミーム編」で紹介したこの流れだが、もう一度確認したい。まず、Aの時点でインターネットに無数に存在する素材から、偶発的にミームが誕生する。そのミームを利用し、Bでは、後乗りを何段階も踏んだ上で、元ネタすらわからないカオスなコンテンツとなりゆっくりとフェードアウトしていく。

「I Don't Care」はそれまでの過程をごっそりの抜き出し、一番最後の部分である「カオスな状態」だけを意図的に作り出そうとした。熊の着ぐるみのJustin Bieberも、バナナの姿をしてバナナボートに乗るEd Sheeranも、完全にミームカルチャーから切り離された作品である。カルチャー外から観察し、思い描いたミームの完成形という意味では、面白い作品であったかもしれない。Nyancatかなにかを背景に飛ばしていたら、また違った作品になっていただろう。

そもそもこの手の作品は3年前のLil Yachtyが、はるかに高いクオリティーでポストしている。

2013年ごろから活動していたスウェーデン出身のラッパー、Yung LeanのMVを延長したような世界観は、ミームと結びつけたことで新しい価値を生み出した。

2009年、バスケットボール殿堂入りの式典でマイケルジョーダンが泣いている画像のオマージュや、前年にレーベルメイトのMigosがリリースした「Look At My Dab」を連想させる高速ダブなど、ミームの流行を上手く切り取りLil Yachtyっぽい編集を加えたことで、Z世代を代表するラッパーとしての彼自身のブランディングにも繋がっていった。

このMVの指揮をとったJosh Goldenbergによると、最初のアイデアはJay-Zの「Big Pimpin'」だったそう。ただ18歳の少年が船でシャンパンを注ぐ姿は、あまりにも違和感があった。そうしてLil Yachty世代のカルチャーであったインターネットを結びつけた作品に方向転換していったのだが、これが結果的に大成功した。一見ごちゃごちゃなMVに感じても、動画を停止する度に様々なカルチャーの側面を感じることができる。当時流行っていたVineのインフルエンサーや、SNSの永遠のアイドル「子猫」など、Teenageの代弁者になろうとしたLil Yachtyだからこそハマった適役でもあった。

これらのミームをアートに変換する流れは、ミームを作るという点では向いていない。しかし、ミーム特有の低コストな部分であったり、そちらのカルチャーと迎合するといった意味では、価値のあるものになるだろう。


③一種のメディアとしての利用

この内容を始める前に前置きとしていくつかの事例を紹介したい。

2011年、Best Buy(家電量販店)の下請けで働いていたShawn Cottonは、特に目立った実績がある訳でもない、ダラスに暮らす普通の20歳であった。最低賃金で働いていたCottonだが、彼は1つ夢を持っていた。自分のウェブサイトを作ることである。ある時思い立ったCottonは、MacBookと安いカメラ、そしてウェブサイトのドメインを購入。残りの貯金を確認すると$27まで減っていた。それから約8年、彼の作り上げたプラットフォームは、サウスのローカルヒップホップを紹介する人気サイト、Say Cheese TVに成長を遂げる。

Say Cheese TV最大の特徴は、ホームページがないこと。基本的にはInstagramとYoutube(Twitterは最近凍結したためフォロワーが少ない)を中心に動画を毎日アップロードしている。もともとサウスのHIP HOPシーンを追いかけるSNSユーザーであったCottonは、Twitterやインスタグラムの流行をリアルタイムに触れていたことで、世間が何を求めているかにはとても敏感だった。彼は現在のSNSに対してこのように語っている。

「(SNSユーザーは)長い記事を読むために、リンクをクリックすることさえしない。ダラけた時代になった。Youtubeで動画を流してたり、インスタグラムをスクロールしているときなんかは特にそう思う」

そしてインスタグラムに関しては、面白い例えで現状を分析している。

「インスタグラムはウォルマートみたいになってきている。まるで欲しいものが全て手に入るワンストップショップのようだ。お金やジュエリーを見せびらかすすぐ横では、新曲や新作スニーカー情報が入ってくる」

まさにその通りである。フォローを整理すれば、欲しい情報をすぐに見つけることができる。好きな画像にいいねをすれば、AIが勝手にオススメしてくれる。そんな世の中で、わざわざリンクを踏む行為なんてしたがらない。

SayCheeseTVでは、文字では伝わりにくい内容も、画像と動画を用いることで、情報量を失うことなく、速報性を高めることに成功した。彼のフォロワーが爆増したきっかけである一連のTay-K報道は、誰よりも早く、詳しく情報を伝えていたからであった。

そういった点では、DJ Akademiksも独自ドメインを持たないアカウントである。

自らを「皮肉屋」と語るDJ Akademiksは、Chief Keefを代表とするシカゴのラップシーンに火をつけた張本人だ。彼は情報をただ伝えるだけではなく、世間を煽ることで、一つの地位を築いた。

彼らは次の流行を追っているのではなく、流行を追っている人を追っている。世間が欲しがっている情報の半歩先を歩むことで、多くの人はその背中についていった。しかし、そこに対して良いイメージだけを抱くものは少ない。

英語では「Clout Chaser」というネガティブな言葉もあるが、流行ばかり追うものに対しては批判的に捉えられることが多々見受けられる。TMZ(米大手ゴシップサイト)がセレブを追いかけ回すことに、大賛成という人も少なかろう。ただ、TMZがセレブから引き出した、嘘か本当かわからない情報がリリースされると、誰もが飛びつきニュースにする。意図しなくとも、情報がタイムラインを通り過ぎることで、我々は自覚なく、流行を追い続けているのだ。

その一方で、時代も少しずつ変わってきた。○百万円払って手に入れた情報を元に、長年Justin Bieberに揺さぶりをかけなくても、今はSNSで簡単に情報が手に入る。SayCheeseTVやDJ Akademiksといった、いわゆる第二世代のパパラッチは、SNS上でどんな情報も見逃さない。

こうしたSNSの助けもあり、シカゴのHIP HOPシーンは大いに盛り上がった。ただ時間が経つにつれ、SNSの存在は、過激なシカゴのフッドをエスカレートさせ、ブレイクした数名のアーティスト以外は、逮捕されるもしくは短い人生を終えるなど、残酷なエンドを迎えることになる。

2012年ごろから活発になったシカゴの文化はそうした負の側面もあり2015年ごろから徐々に下火になっていく。ただ2017年に入ると、SNSと音楽産業は再び協力し、多くのアーティストをプッシュする役目を果たす。XXXTentacionやLil Pumpといったマイアミ出身の若いやんちゃなティーンに、Cardi Bといった人間味の溢れるアーティストなど、SNSから爆発的に人気を獲得していった。

(via: recode)

2017年は、インスタグラムのユーザーがスナップチャットのユーザーをちょうど越した年でもある。内向的な機能が充実していたスナップチャットであったが(自動消失するメッセージ、シンプルなUIなど)、いいねや再生回数が可視化され、知らないユーザー通しの結びつきが強くなったインスタは、アーティストが自分を表現するのに最適のアプリであった。

中でも普段見れないようなアーティストのプライベートを観察できるのが、インスタの強みだ。二度と映ることはないであろうマイホームの動画や、新曲のチョイ見せ、インスタライブを通したファンとの交流など、ファンからしてみれば見逃せないコンテンツがズラリと並ぶ。インスタのそうした(ファンにとって)重要なワンシーンをカットしまとめることでコンテンツ化したのが、DJ AkademiksやSayCheeseTVなのだ。

Lil Pumpはメディアが勝手に拡散してくれるのをわかって、J Coleに喧嘩をふっかける。Cardi Bはありのままを自分をファンに見てもらうために、すっぴんで世の中に物申す。彼らの過激な発言は、メディアを躍らせるためだけではない。セルフブランディングとしても利用しているのだ。普段から馬鹿な発言をしているLil Pumpは、ホームレスとの交流することで、価値を高めることができる。言いたいことを包み隠さず発言するCardi Bは、Offsetとのフェイクセックスでさえ好印象に転換される。

決してメディアに利用されてはいけない。自分自身が世間にどう見られたいのかを自覚して、やっとこれは機能する。その自覚をしていないと、効果というものは相当薄れてしまう。1つ具体例を出したい。

1度チャンスを掴んだら、それを継続させる力を

2019年の序盤はBluefaceフィーバーだったが、4月に差し掛かると同じロサンゼルス出身のラッパーが、似たような理由でSNSの注目を掻っ攫った。

このフリースタイルに見覚えがある人はいるだろうか。iHeartMediaが所有するReal 92.3というローカルラジオに出演したHaiti Babiiは、奇妙な行動にでた。1:40から始まるこのフリースタイルは、大胆にもラップをすることを諦め、奇声に近い何かを発する荒技を披露する。ついに一線超えてきたな、というような反応であったが、SNSではうまくバズることに成功した。

彼は後のインタビューで、ビートを聞いた瞬間に「このフリースタイルでいこうと決めた」と話しているがおそらく嘘である。No Jumperのインタビューではこのように話す。

「今は分析することに夢中だ。動画を見た後に85%の人は、音源に戻ってきている。セルフマーケティングだよ」

この言葉からわかる通り、あのフリースタイルは100%仕込まれた動画だ。Young Thugっぽいフロウもあれば、21SavageのASMRっぽさもあり、何よりビートに乗らないことでBluefaceを連想させた。バイラルさせるに十分な素材を散りばめることで、思惑通りミームになることに成功した。

(google trendより作成)

ただその流行を継続させることまでは、考えていなかったようだ。データとしてもはっきり出ている。4月に跳ね上がった検索数は、次の週でガタ落ちし、1ヶ月後にはミーム前と変わらない数値に到達した。

彼の場合は、データに取り憑かれすぎてしまったかもしれない。ミーム畑出身のアーティストは、インフルエンサーをまるで自分の広告のように利用する。彼は少し結論を急ぎすぎた。ネタになりそうな情報ではなく、フリースタイルの奇抜さを全く感じない楽曲を宣伝した。昨日の有名人の新曲を、インフルエンサーは宣伝するだろうか? 

ただ彼がシーンから消えたと判断するにはあまりに早すぎる。現在22歳であり、検索数も8月に入り上昇傾向にある。豪快すぎるダンク動画や、RihannaとのFacetime、Oaklandでのライブを成功させたことなどが重なったからと考えられる。

またRihannaを通してKoffee(2人は共に楽曲制作中)ともコネクションを獲得し、Lil WayneやKanye Westとも仕事をしているHit-Boyとスタジオ入りもしている。一番ホットな時にこれを持ち込めれば、爆発的にヒットしていたかもしれない。幸いなことにHaiti Babiiの名前は死んでいない。これからの活動をもう少し見守っていきたいところ。

④ミームの参加方法の指定

これまでミームを通してHIP HOPと絡めいくつかのケースを紹介したが、この賞は少し広義的にバズマーケティングも含めて考えていきたい。

Migosの「Bad and Boujee」がHot 100で1位をとった前週に何がトレンドだったか覚えている人はいるだろうか? さすがにこれを見逃した人はいないだろう。マネキンチャレンジである。

このチャレンジのルールはとてもシンプルだ。動画撮影中はマネキンのように固まらなければいけない、たったそれだけである。たったそれだけなのに、まるで売れっ子フィルムメイカーを起用したように見えるマネキンチャレンジは、瞬く間に世界中で広がった。最終的には、サッカーベルギー代表やダラスカウボーイズ、さらにはミシェル・オバマやヒラリー・クリントンら政界まで巻き込んだ特大の社会運動となった。そして面白いことに、このチャレンジでは必ずRae Sremmurdの「Black Beatles」が挿入歌として使用されている。まずなぜそのようになったのか、ザッと歴史を振り返ろう。

元を辿ると、フロリダはジャクソンビルの高校で撮られたおふざけビデオが始まりだった。このツイートをポストした @thvtmelanin_ は、その時の様子をinverseのインタビューで詳しく語っている。(意訳あり)

『クラスの前に立って、ただただポージングしていたときがあったの。そしたら友達のアリーナが私を見て「マネキンみたいだね」って言ったんだ。そのあと何人か増えてバカなポーズをいくつかしたわ。当時は、本当にたくさんの「〇〇チャレンジ」がSNSで溢れてた。そのあとデリックのアイデアでマネキンチャレンジを思いついて、みんなを集めて動画を撮ったんだ。ほとんどのポーズはOld Navyの店頭マネキンみたいになってるはず』

どの高校でもありそうなワンシーンだが、この簡単且つ応用の効くアイデアはソーシャルメディアの中でも一際輝きを放った。

Rae Sremmurdのマーケティングを担当していた、Interscope RecordsのGunnerと、ファッションブランドのPizzaslime(Diploやライアンゴスリングも着用している)は、インターネットカルチャーに精通しており、すぐにマネキンチャレンジに注目した。どうにかしてマネキンチャレンジのサウンドトラックにRae Sremmurdの曲を挿入したいと考えた2人は、「Black Beatles」がベストマッチだと考える。

Rae SremmurdのSwan LeeとSlim Jixmi、ゲストのGucci Mane、そしてプロデューサーのMike Will Made It(彼はPizzaslimeと以前から交流があった)の4人を合わせて「Black Beatles」と呼称する姿は、とにかくインパクトがあった。

そして11月4日にこのマネキンチャレンジ動画をポストした結果、彼らの思惑通り、面白いようにバイラルする。ちょうどツアー中であったため、実際にお客さんを巻き込んだ形となり、新鮮味も壮大さも組み合わさったクオリティーの高いビデオであった。ただこの時点ではまだサウンドトラックに認定された訳ではない。

その前日に2Chainzは、新曲「Countin'」のプロモとしてマネキンチャレンジを利用したMVをアップしていた。あまりイメージがないかもしれないが、2ChainzのSNSトレンドセッター能力は非常に高い。GIFが最も作られているラッパーが2Chainzなのが、その最大の証拠でもある。

「Black Beatles」の動画以降にアップされた、ヒラリー・クリントンとダラス・カウボーイズのマネキンチャレンジは音無しで撮られており、その時点でもRae Sremmurdは数あるチャレンジのうちの1つでしかなかった。そんな混沌とした中でアップされたポール・マッカートニーの動画は、このマネキンチャレンジの方向性を完全に位置付けさせることに成功する。

マネキンチャレンジとして「Black Beatles」を宣伝させるだけでなく、Beatlesが新たなBlack Beatlesを認めたという追加の意味合いも含んだこの動画は、他のどの動画よりも衝撃的だった。これ以降のマネキンチャレンジは、ほとんど「Black Beatles」が使われている。オリジナルの動画がAmerican Authorsの「Best Day Of My Life」を使っていたことは、誰もが忘れていた。Rae Sremmurdのマネキンチャレンジになったのだ。

Swan Leeの地道な貢献も少しはあるだろうが。。。


ただこの方法は気を付けなければいけないこともある。ターゲティングだ。Da PumpはBlocboy JBのShoot Danceや10k Caash.のWoah Danceを利用して、それぞれ「いいねダンス」「バイーンダンス」とリネーミングした。Blocboy JBが自分のダンスがクレジットされずに色々な場で利用されていることを嘆いていたが、まぁそんなことはマーケティングには関係ない。彼らは米カルチャーが好きな層に対してではなく、そこからあえて遠い層に向けて売り出した。例えるならイオンモールで買い物をするような人たちに対してだ。今では文化の盗用という言葉もあるが、年齢や性別で分けてプロモーションしていたら、パクリに敏感な層を刺激して、炎上に繋がっていたかもしれない。ときにはカルチャーから生まれたものを、なるべくカルチャーから遠い層に宣伝する必要もあるのだ。

Da PumpメンバーのTOMOはバイーンダンスについて、Woah Danceに触れながらも、「志村けんさんへのリスペクトを込めて『アイーン』からヒントを得ました」と話しており、早い段階でパクリ疑惑をかけられないようビッグネームに目がいく軌道修正されていることがわかる。そもそも10k Caash.のダンスを見て、志村けんにリスペクトを込める意味がわからないが、そういうことなのだろう。


ダンスを利用しろ

ネクストBlack Beatlesをどのマーケティングも探しているところだろうが、そう簡単にベストなアイデアが転がっていることは少ない。タイミングと運がかなり重要なマーケティングだ。これに似たような形で、割とスムーズにバズるのがTikTokである。

(Source: Miaozhen.com, 2018 Douyin Research Report)

10代を中心とした若い層を中心に使われているイメージが多いが、2017年から2018年で26歳以降のユーザー率は上昇している。世代関係なく利用されるアプリになったことで、どの業界も無視することができないジャンルになった。

French Montanaの「Slide」やOffsetの「Clout」のMVなど、自然にプロモーションとして組み込まれているTikTok。ここ最近は、間違いなくTikTokの力を借りてHIP HOPは成長している。そしてこれらTikTokのバズは、アーティストにとってもメリットが大きい。(楽曲制作者にお金が還元されないことが問題になっているが、ここでは割愛させていただく)

TikTokは保存のしやすさが売りだ。ユーザーの方はご存知だと思うが、面白いと思った動画は「転送ボタン」を押し「保存ボタン」を押す、たった2工程で自分のフォルダに追加できる。そうして保存された動画はツイッターであったり、インスタであったりと他のSNSでもシェアされていく。

「さぁ、それでは、TikTokでバズらせる方法を紹介していきましょう! 」と言いたいところなのだが、TikTokは未だ成長をしているプラットフォームであり、次の展開が全く読めない部分も数多く存在する。例えばだが、CREAMとKris Rocheがカバーした、Lil Wayneの「How To Love」日本語バージョンを倍速にしたものが流行していた時期もあった。まるで生き物のように自由にトレンドが移っていくのがTikTokの特徴だ。

ただバズる可能性を高めることはできる。

こちらは合計で3800万視聴回数越えを記録した「#inmydenim」チャレンジである。企業と音楽が深く関わって成功した例はそこまで多くないが、Guessがインフルエンサーを利用して作ったこのシリーズは非常に効果的であった。

映画でも小説でもなんでもそうだが、オチがないストーリーはつまらない。その点、素人でもクオリティーの高い編集をできるTikTokでは、たった1回の画面切り替えだけでもインパクトのあるオチを作ることができる。TikTokは基本的に1動画15秒しか使えない。こうした制限の中では、この切り替えに全てがかかっていると言っても過言ではない。

そこでGuessは、ボロボロの服を着ていた人が、音楽の切り替わりと同時にGuessのイケてる服に切り替わるチャレンジを採用した。ギャップを利用することで、よりGuessを引き立てることに成功し、ブランドのイメージアップにも繋がる。そしてこのチャレンジにはBebe Rexhaの「I'm A Mess」がサウンドトラックとして使われ、こちらにもポジティブな効果が現れた。

(Google Trendsより作成)

Googleでの検索数のグラフだが、1つ目の山はMVがリリースされた次の週で、2つの目の山が「#inmydenim」がバズった直後の週である。そう、2つ目の山の方が大きいのだ。

インフルエンサーを使い、一斉起用することでユーザーの目を一点に向けることに成功した。ただこのチャレンジはBebe Rexhaのワーナーと大手ブランドのGuessという、たんまりとした資金があってようやく到達することのできた域でもある。もう少しインディペンデントな方法を探してみよう。

Drakeの「In My Feelings Challenge」を例に挙げたい。コミカルな動きのダンスがインスタで一定の人気を誇っているShiggy。彼が最初にポストした動画から火がついたこのダンスは、クリープ現象を利用して車の外で踊るという日本だったら炎上待った無しのチャレンジへと変貌を遂げ、大流行を果たす。Shiggyはこの功績もあってか、Drakeのツアーでステージに上がることもあった。

Drake側から仕掛けたものではないので、アクシデントバイラルにも見えるが、ダンスでバイラルするためのヒントが隠されている。

この動画で重要なのはリリックに登場する3つの言葉だ。「Love」「Besides」そして「Riding」である。Loveでは手でハートマークを作り、Besidesでは両手で何かを掃けるような動きをする。この中でも最も重要な役割を担っている「Riding」は、ハンドルを回すような動作だ(おそらくここから派生して車を利用したチャレンジに移り変わったのだろう)。最初の2行で出てくる3つの単語は、歌詞と動きが見事にリンクしたことで、キャッチーで楽しめるダンスとなった。

Calboyの「Envy Me」では、Demonの部分がダンスとリンク。

Lil Babyの「Yes Indeed」では、Was Was Wahの部分で、泣きポーズをしているダンスが流行した。そもそもサビでもなんでもないリリックでバズるということは、歌詞が重要視されていることの裏返しでもあろう。

ちなみにSoulja Boyは「Crank That」で、スーパーマンポーズを歌詞とリンクさせて、ダンスをよりキャッチーなものにしている。彼は間違いなく天才だ。

長くなってしまったのでまとめると、Black Beatlesのように、パズルのピースが全てハマった場合は、トレンドを誘導させることも可能である。ただし、それが難しい場合はいくつかタネを巻いておくことが、今後のバズを生み出す可能性に繋がるということだ。ただこれが逆転して、インパクトのあるキーワードをチョイスしたいがあまり、制作側に無理難題を与えては元も子もない。そこだけは注意したいところである。


全てを利用したLil Nas X

ここまで約2万7千字。ようやくタイトルにもつけたLil Nas Xの登場である。彼はこれらほぼ全てをのミーム、及びバズを利用したことで、前代未聞のロングヒット作「Old Town Road」を生み出した。これまで挙げたミームの例を元に、Lil Nas Xのキャリアと重ね合わせながら説明していきたい。

Lil Nas Xは10代の半ばから、(今は凍結されているが)@NasMaraj のアカウント名を使い、Nick Minajのファンページのようなものを作っていた。日本でも、「著名人Bot」のような形で、ネタツイートしている人は多く見つかるが、それに近いものを感じる。これについては謎も多く、Billboardで掲載された初期の記事ではNick Minajのファンページと断言しているが、HotNewHipHopでは否定されていた。凍結されているので確かめようがないのが悔やまれる。

そして@LilNasX のアカウントを運営するのだが、さすがのインターネットネイティブであった。彼はバズらせる方法を熟知している。

2018年4月24日からスタートしたアカウントだが、@NasMaraj のフォロワーを上手く引き継ぎ、5日後には4000リツイートを超えるバズを起こした。それからというもの、怒涛のミームを量産している。

バズった動画をシェアしたり、

流行していたスポンジボブのミームを多用。

日本で流行していたバズネタも積極的にシェアするなど、アンテナの広さは桁違いだった。

似たようなキュレーターとの差別化も得意分野であった。日本では、バズったツイートの下に、ゴミサイトのリンクを貼るアカウントが数多く存在するが、他国では、キャッシュアップのリンクを貼り、小銭稼ぎをするのがパクツイコミュニティーの主流である。Lil Nas Xはそんな人たちに向かって、ランクの低い人とバッサリ切り捨てた。

発信側であったLil Nas X

常にSNSを監視し、バズっているものを見つけては拡散、もしくは被せネタをしてきたLil Nas X。彼にはSNSのトレンドが手に取るようにわかっていた。「Old Town Road」がドロップされる前に、このミームがバズっていたのも間違いなく計算のうちである。

Yodeling Kidと名付けられたMaison Ramseyが、ウォルマートの店内で、Hank Williamsの「Lovesick Blues」を歌う動画である。アルプス地方の歌唱法であるヨーデルがSNSで大ウケし、2018年前半最大のミームになっていた。ミームになるというのはつまり...

リミックスができるということだ。低音が強調されたEDM Remixバージョンは6000万回以上再生されており、この時点で既にカントリー系ミームと他ジャンルの、相性の良さは確認されている。このトレンドを上手く利用して「Old Town Road」最初のインターネットクラッシュを起こしたのが、下のツイートだ。

「カントリーミュージックは進化している」という、議論を巻き起こしそうなワード。そしてカウボーイハットを被った少年が、キレキレのダンスを踊るアンマッチな映像。Future Type Beatから持ってきたTrap色の残るビート。どれをとってもツッコミどころのある、集大成のようなツイートだった。

もちろんLil Nas Xは、この動画だけでヒットしようとはしていない。ミームの本質は後乗りである。ここからさらにSNSを沸かせられるよう、この時点で既にいくつかタネが巻かれてあった。National Public Radioのインタビューで細かく説明している。

「たとえシンプルだとしても、ミームのハイライトになるようなものを作りたかった。『グッチのカウボーイハット』『俺の女はラングレーを履いてる』『馬に乗ってるんだ、お前はポルシェにでも乗っとけ』この歌詞を見てどのラインも引用可能だと思ったんだ。だいたい1ヶ月かけて、どこにリリックを当てはめるか試行錯誤したよ。そしたら思った通り上手くいったんだ」

どこを切り取ってもミームになるよう、計算されたリリックにしたと説明している。最近の若いラッパーは、とにかくリリースのペースを早めることに力を入れているが、彼の場合は全く正反対の方法をとった。注目を引き続けるには、リリースをし続けなけらばいけないという、何と無く存在していたHIP HOPのトレンドを、あっさりとぶった切った、トレンド転換の重要なポイントとも捉えられる。

彼自身も、いつの日か「Old Town Road」のミームで溢れかえることを信じ、SNSの注目を引き続けた。

彼はいつも通りバズったツイートをシェアする傍ら、上リンクのような「Old Town Road」のミームを作っては拡散を続ける。そうしているうちに、どんどんと輪が広がっていき、TikTokユーザーが「Old Town Road」を使用し始めた。Lil Nas XはTikTokユーザーのアンテナに引っかかったことに関して、ラッキーだったと話しているが、彼は間違いなく先手を打っていたことになる。(Haiti Babiiもこのような謙虚さがあれば、もっと売れていたかもしれない)

カントリーとして売る

彼は「Old Town Road」が音楽業界に置いて、どのジャンルに位置づけされるかに、かなりのこだわりを持っていた。ツイートするときも、サウンドクラウドでアップするときも、ジャンルは必ずカントリーとして売り出した。Lil Nas Xはどのジャンルの音楽も聴くタイプだと話しており、とりわけカントリーに思い入れがあるわけでもない。ただ彼は、カントリーミームの流行を強く引き継いだ「Old Town Road」は、音楽ジャンル的にもカントリー寄りであると考えた。この考え方は大成功であった。結果から見ても、HipHopと比べ競争力がいくらか低い分、ランキングが上昇するのも速かったように感じる。リリースから3週間ほどで、サウンドクラウドのカントリージャンルで2位を記録した。

のちに、Billboardが「Old Town Road」をカントリーの要件を満たしていないとして、ランキングから除外する事件が発生するが、

Lil Nas Xはあろうことか笑いで返した。「黒人はカントリーを歌ってはいけない」という人種差別にまで発展したトピックであったが、インターネットビーフを煽るのではなく、彼の最大の強みである「ミーム」を利用して、事態を収めた。そうした対応もあり、再びカントリーチャートに復帰を果たす。Billy Rae Cyrusもフィーチャーし、より勢いを増してのカムバックだ。彼には全ての障害をバネに変える力がある。

運と実力のTikTokバズ

カントリーの曲としてラベリングすることに成功し、その勢いのままTikTokでもバズった「Old Town Road」。このTikTokバズは大まかに分けると3段階あったと感じる。

1つ目は3月ごろから現れた「Yee Yee Juice」。これは○○Juiceと書かれているジュースを飲んだら、実は「Yee Yee juice」で、サビと同時にカントリーっぽい服装に変わってしまう、というもの。動画を見ればわかりやすいだろう。

Yee YeeもしくはYee Hawは、カウボーイ/ガールが、感情を表現をするときに使うもので、カントリーシーンにおいてはキーワード的存在だ。

グラミーシンガーのKacey Musgravesも、「Old Town Road」がリリースされるだいぶ前からこの言葉を用いている。実はYee Yee自体は歴史のある言葉なのだ。

Lil Nas Xはその歴史をうまく引き継いでのバズを起こした。下のツイートを見てもらいたい。

アメリカの文化的側面において、2月は非常に重要な月である。毎年2月は、「Black History Month」(黒人歴史月間)と呼ばれ、様々な角度から黒人文化の再認識が行われる。その2月に文化の再認識する意味を込めて、投稿されたのが上のツイートだ。ミームを中心にカントリーが流行していたこともあり(Lil Nas Xの方ではなくMason Ramseyの方)、黒人文化とカウボーイ/ガール文化(主にファッション)は自然に結びついた。上リンクもそうだが、「Yee Haw Agenda」と名付けられたこの運動は、瞬く間に大きくなっていった。

Black History Monthが終わると、その勢いを上手く引き継いだのが、「Yee Yee Juice」である。

2つ目は、このカウボーイファッションの文化を受け継いだシンプルなチャレンジ。サビの部分でカウボーイスタイルの服装に切り替わるというもの。Guessのチャレンジとほぼ同じなので説明は省かさせていただく。

3つ目が非常に興味深い。Lil Nas Xはインタビューで「どのリリックも引用できるように...」と話していたが、実際にTikTokで思惑通りバズったのは、Billy Ray Cyrusの歌詞であった。

TikTokで引用されている部分を見ると、なるべくしてバズったかのような印象を受ける。「帽子」「指輪」「スポーツブラ」と言った、体の部位が容易に想像できるものに加え、「金を使う」「ギター」「マセラッティをドライブ」というような、動きをイメージさせる単語も散りばめた。

運動会にもってこいな、計算された歌詞である。Lil Nas Xが思い描いていたものを、さらにウケのいい形に修正してリミックスしたということだろう。Billy Rae Cyrusを起用したメリットで、Billboardのカントリーチャートに復帰させたという功績が語られるが、個人的にはこっちの面でのバズが効果的であったように感じる。

一連のTikTokの流れは、④ミームの参加方法の指定のダンスを使ったバイラルと重なる。

もちろんミームを作品に

「Old Two Road」のMVと言えば、DiploやVince Stayplesといったカメオ出演も印象深いRemixの方が思い浮かぶ。ご存知の方もいるだろうが、実はそれ以前にアップされていたMVが存在した。

このMVは既に削除されているが、Red Dead Redemption 2の映像を利用して作られ、楽曲がリリースされてから間も無くの、2018年の12月にアップロードされている。

RDR2は西部劇を中心に描かれた作品で、グラセフVから5年ぶりの新作、20倍の広さのマップを採用とのことで、世界中が注目していたゲームであった。発売日は「2018年で最も休まれた日」と言われるほどの人気である。

「Old Town Road」と重なる部分も多くあった。西部劇が舞台なため、カウボーイハットや馬に跨り駆け抜けるシーンなど、映像的な面。とにかく広大すぎるマップを探索するという、リリックの面。両方からとっても、「Old Town Road」と共通点が多かった。

Lil Nas Xは、10月にゲームがリリースされてから、わずか2ヶ月の短さでMVをYoutubeにアップする。私自身も一度だけこのMVを見たことあるのだが、覚えている限りだと、そこまでクオリティーも高くなく、ファンメイドのようなMVであった。

特筆すべきは、その決断の早さである。ゲームが発売されてから2ヶ月でMVドロップだ。これだけ話題になっていたゲームなので、RDR2はミームとしてもSNSでバズることがあった。その流れが完全に死ぬ前に、MVをリリースできたのは、ゲームのカントリー要素まで、自分のものに引き継いでいたということになる。

Ed Sheeranの「I Don't Care」のように、このMV自体がバズることはなかった。ただ、2019年前半のLil Nas X紹介文を読むと、必ずと言っていいほど、RDR2のMVが紹介されている。そうした記事を通して、Z世代の代表というイメージを世間に植えつけた。

エリアパニーニ

日本では馴染みがないかもしれないが、アメリカ最大の謎にエリア51というものがある。

正式名称はグルーム・レイク空軍基地。アメリカが頑なに存在を認めようとしなかった場所であり、極めて重要な国家秘密が隠されているとして有名な場所だ。中に入ることはほぼ不可能とされており、「宇宙人がいる」だとか「宇宙船を収納している」だとか、人々の想像力を掻き立て、都市伝説が多く生まれている。

秘密にされればされるほど、知りたくなってしまうものだ。なんの前触れもなくFacebookに投稿された、「9/20にみんなでエリア51に突入しよう。全員は止められないはず」というイベントは、最終的に200万人近くの参加予定が集まっていた。ビデオクリエイター、イベントプランナー、そしてミームアカウントという3人のホストによって作られたイベントということもあり、計算されたクオリティーが高い投稿だったため、ここまで広がったとも考えられる。

3人の中にミームアカウントが含まれていたのが興味深い。つまりは、ミームの習性である、「後乗り」を最大限に活かせるプラットフォームにポストされたということだ。日本では「ナルト走りで突入と呼びかけ」と報道されていたが、実際はこの投稿の後に、ナルトの情報が加わったことになる。もちろん追加された情報はナルトだけではない。宇宙人を救い出そうだとか、レイドパーティーをしようという動きもあった。そして、レイドパーティーの延長線上にはLil Nas Xが登場する。

Lil Nas Xはすかさず、このリミックスをポストすることで、エリア51の話題を自分のものへと引き寄せてしまった。とにかくカオスに見えるMVだが、あらゆるところに小ネタを仕込ませている。

まずゲストの2人だが、Mason Ramseyは序盤でも説明したヨーデルキッズをそのままフィーチャー。Young Thugに関しては、カントリートラップが注目されたことで、2017年にリリースされた『Beautiful Thugger Girls』が再評価されており(リリース当時はそこまで高い評価ではなかった)、そこへのリスペクトを含めた選出である。ラッパーとして、認識されていく中で、カントリー色の強い2人を呼ぶことで、そちらの方向性をより強化した形だ。

もちろんナルト走りも出てくるが、なぜかキアヌ・リーブス単体で登場する。「ジョン・ウィック:パラベラム」の広告の意味もあるのだろうか? 確かにエリア51に突入するのには、相当の戦力が必要なのを考えると、このチョイスはベストだとも言える。

サムネのサノスを鳥に当てはめた絵も、その当時バズっていた、ゴリラバードのオマージュに違いない。ちなみにLil Nas Xは過去に、サノスというタイトルの楽曲をリリースしている。

インタビューで答えていたような、どこからでも引用可能なコンテンツを、歌詞だけでなくMVでもきちんと再現しているのだ。

後乗りのLil Nas X

これまでなんども「後乗り」という単語を引用した。それだけ、この「後乗り」という文化が重要というわけだ。楽曲でこの「後乗り」をしてしまうと、いわゆるパクリや盗作になってしまう。ただ、インターネットネイティブとして、パクリすら文化の世代に生まれたアーティストにとっては、ミームを利用し100%の力で楽曲に循環することが可能であった。

リチャードホーキンス博士が「アイデアのハイジャック」と呼称したように、あらゆるミームを、「Old Town Road」がジャックして、SNSを縦横無尽に駆け回る姿は、時代すらロックしていたように感じる。

もしミームを利用して、バズを起こしたいと考えている人がいるなら、このLil Nas Xの例をいくつか参考にしてみてほしい。ちなみにPaniniの方で、今から売り出そうとしてるので、ここ数週間の動きをチェックしてると参考になるものが見つかるかもしれない。

おしまい

1ヶ月ほどかけてダラダラ書いていたので、まとまらない内容になってしまってすみません。楽しんで頂けたら何よりです。わからないことだったり、批判とか誤字とか本当なんでもいいんでコメントいただけると嬉しいです、お待ちしております。エゴサは得意なので見つけます。面白かったらでいいんで、サポートしていただけると助かります。ギリギリまで有料にするか迷ったんですけど、そもそもHIP HOP関係ない層だとか、いろんな人に読んでもらうことが目的で書き始めたブログなんで、無料にしました。

written by Yoshi 

source :

https://www.billboard.com/articles/news/8524319/lil-nas-x-old-town-road-tiktok-beginning 

https://www.thefader.com/2017/01/04/migos-bad-and-boujee-raindrop-meme 

https://www.hotnewhiphop.com/how-hip-hop-has-embraced-meme-culture-news.74898.html 

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