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冬の理由、春の自由

ライブ:花田裕之 “流れ”(千駄木 Ruby’s Arms、2024年3月23日)

春分過ぎの土曜日。「暑さ寒さも彼岸まで」という割に空気は冷たく、厚いコートを着込んで千駄木へ。地下鉄千駄木駅から地上に出たのが18時前。外はうっすらとだが明るさが残っている。冬に比べて確実に日は延びており、とりあえずはもう春ということなんだろうか。

実は4日前の「チャック・ベリー・トリビュート」が、まだ頭の中でぐるぐる回っている状態での「流れ」。迎え酒ならぬ、がっつり系の食事のあとの食後酒をのんびり楽しみに来た気分。何とも贅沢である。

さて、花田さんは青いシャツにグリーンのパンツ姿で登場、エピフォンを抱え「Tell Me Why」でスタート。久々の「あきれるぐらい」「決めかねて」「風が吹いてきた」を含め、花田さんのオリジナル曲の多用が印象的だった。(ちなみに思い出せる範囲で他に「夢の旅路」「Free Bird」「お天道さま」「手紙でもくれ」「夢か幻か」。) そのぶん、ここ最近定着していたサンハウスなどのカバーが鳴りを潜めた結果に。(鳥頭ゆえ、単に記憶から抜け落ちているだけかもしれないけど.....。) 今回、20名入るかどうかぐらいのとても小さい会場だったので、おそらくにぎにぎしく、というよりは、まったりとゆるく、自分自身の曲を自分自身がやりたいように、という感じか。実際、そういう自由さが聴いていてツボにハマるというか、個人的には好きなんであるが。

ライブ後半の「泣きたい時には」と「風が吹いてきた」が特によかった。前者の山口富士夫ナンバーは、歌詞の途中から歌い始めるスタイルがすっかり板についてきた模様。リラックス感の中にも力強く、真っ直ぐなギターの響き。一方「風が吹いてきた」は、先述の通り久しぶりの1曲。こちらは、抑えようにも抑え切れない情熱がひしひしと痛いほどに。客席からの大きな拍手がその熱をしっかり受け止めた。

「No Expectations」と「ガンダーラ」のアンコールで幕を閉じた千駄木「流れ」。いつもの「流れ」でもあり、そうでなくもあり。やはりライブは一期一会。春なのに冬っぽくて、もう冬でもないのに、まだ春でもない夜。冬には冬の理由があってとどまり、春には春の自由があってやってくる。それは人智の及ばぬところ。帰途、満月まであと少しの欠けて輝く月を眺めて、冷たい夜道をゆっくり歩いた。面白い夜だった。


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