見出し画像

『源氏物語』を身近に――Museum Collection #7 宇治市源氏物語ミュージアム

全国の美術館・博物館が所蔵する古今東西の名品を、学芸員の解説とともに紹介する「ミュージアム・コレクション」。
『本郷』169号よりお届けします。

『源氏物語』を身近に                  

 1989年以降、宇治市はふるさと創生事業を契機として、「源氏物語をテーマとしたまちづくり」を積極的に推進してきた。宇治市源氏物語ミュージアムは、その集大成をなすものとして、またその中核施設として、1998年11月に開館した。開館20周年の2018年には、「観光」と「生涯学習」の拠点としての再整備を行うなど、本市の文化・観光振興に大きな役割を果たす博物館施設となっている。そんな当館の基本的性格の一つに、源氏物語や平安文化を中心とする資料の収集展示がある。今回ご紹介する作品も、こうした使命のなかで収集された一つである。
 本作品は、『源氏物語』各巻一場面ずつを色鮮やかに描いた色紙を収録する折本二帖である。上巻には巻1「桐壺(きりつぼ)」から巻27「篝火(かがりび)」まで、下巻には巻28「野分(のわき)」から巻54「夢浮橋(ゆめのうきはし)」までを収める。詞書はない。
 表紙の題箋に「伝土佐光則(とさみつのり)」とあることから、作者を伝土佐光則(1583~1638)とする。土佐光則の描く絵画の特徴は、驚異的な細密描写にある。しかし、本帖での描写は、絵具も上質のものが利用され、細かく描かれてはいるものの、細密描写とは言い難い。とはいえ、制作年代は17世紀半ばから後半頃と考えられ、作者についても土佐派の絵師、あるいはその流れをくむ工房によるものと考えられる。
 今後、他の同様な画帖との比較の中で、作者や制作年代についてさらに検討を加えていく必要があろう。
      (つぼうち じゅんじ・宇治市源氏物語ミュージアム学芸員)

●源氏絵鑑帖
伝土佐光則 江戸時代(17世紀)
紙本著色・折本二帖 170×152mm

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?