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『対決の東国史』刊行記念鼎談 変貌する東国史を読み解く #1

 2021年12月から刊行が始まり、おかげさまで売れ行きも好調な シリーズ『対決の東国史(全7巻)』。刊行前に収録された鼎談を、6回に分けて特別公開いたします。
 著者である高橋秀樹・田中大喜・木下 聡の3名をお迎えし、企画のなれそめから、最新歴史研究トークまで、様々な話題が飛び交う盛沢山な内容になりました。
 記念すべき第1回は「企画のなれそめ」。シリーズ名「対決」に込められた思いとは…。

企画のなれそめ

―― 本日はお忙しいところ、シリーズ『対決の東国史』の刊行記念鼎談にお集まりいただきましてありがとうございます。12月(2021年)から、第2巻・3巻同時配本として刊行開始となりましたが、シリーズのなれそめについてお話しします。2017年ころ、『動乱の東国史』(2012~13年刊行)が発売中でしたが、もう少しコンパクトな内容のシリーズを作りたいと考えました。そうしたところ、田中先生から「各巻のテーマを、主要な二つの武家の関係に絞ったら読みやすくなるのではないか」というアイデアを頂戴しました。

田中 大喜

田中 はい。本シリーズは『動乱の東国史』を受けた続編として企画しました。『動乱』は東国の各地域の動きを俯瞰するような内容でした。享徳の乱以降、東国は戦国時代に突入し、各地でさまざまな戦闘が起き、そうした動きを緻密に描き出した労作であったと思います。特に中世後期の東国の地域社会の動きをとても詳細に描き出し、研究を推し進める成果でもありました。しかし一方で、一般の読者や、この時代を専門としない研究者にとっては、東国全体の流れが容易にはつかみにくい印象を受けました。
 そこで今回のシリーズでは、特に一般読者層を念頭におき、『動乱』の成果を受けつつも、分かりやすさを第一にした内容にしたいと考えました。具体的には、いささか乱暴ではあると思うのですが、各時代を代表する武家勢力を二つに絞り、この二つの武家勢力の関係を軸とした東国の通史を描こうと考えました。

―― 高橋先生、『第2巻 北条氏と三浦氏』で、この二大氏族の政治史を描かれて、どういった感想をお持ちですか。

高橋 秀樹

高橋 シリーズのタイトルは『対決の東国史』ですけれども、この企画の段階で私は、両氏族の間にあったのは対立だけではない、と強調しました。むしろ協調の側面が基本にありながらも、それが時として崩れることがある。そこに対決が生じるのだと。根底に流れている協調の部分を見失った、単なる対決・対立という図式だけでは二つの氏族を切り口にした歴史は描けないよという話をしたのですけれども、まさに私が執筆した北条氏と三浦氏というのは、その一番典型的な例だと思うのです。従来は対立の図式のみで論じられていましたが、先入観を排して史料を見ていくと、実際にはそうではない。ですから第2巻は、このシリーズのある意味エッセンスといいましょうか、氏族間の対立について、これまでの捉え方と違う新しい捉え方が提示できた巻かなと思っています。
 おそらくほかの巻でも、今までのごくオーソドックスな捉え方というのを、それぞれの著者が見直していると思うのです。巻ごとに、それぞれの対決の構造、対立の図式を、新しい見方で記述してくれていると思っています。

―― 木下先生、『第5巻 山内(やまのうち)上杉氏と扇谷(おうぎがやつ)上杉氏』をご執筆されていかがでしたか。

木下 聡

木下 そうですね。率直にいうと、私の執筆した第5巻でも、両上杉氏は最後の最後に戦っただけです。それまでは基本的に協調・協力し合っていたのが、何かのかけ違いで急に対立するという図式になっていくところが、この二つの上杉氏の関係です。
 基本的に一五世紀後半では、むしろ足利氏と上杉氏の対立構造がよく言われています。それは『第4巻 鎌倉公方と関東管領(かんとうかんれい)』で扱われているので、視点を変えて書きました。二つの上杉氏が食い合ったおかげで、伊勢宗瑞(そうずい・北条早雲)が勢力を伸ばすことになっていき、また上杉氏が持っていた領地が全部そのまま北条領国に替わっていった。そこで、結果として、この両上杉氏が協力せずに対決してしまったおかげで北条氏ができあがったという結論に落ち着きました。

(2回目へつづく)

【編者のご紹介】

高橋秀樹 たかはしひでき 1964年、神奈川県生まれ。1996年、学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程修了。博士(史学)。
現在、國學院大學文学部史学科教授
主要著書=『玉葉精読』、『三浦一族の研究』など

田中大喜 たかなひろき 1972年、東京都生まれ。2005年、学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程修了。博士(史学)。
現在、国立歴史民俗博物館・総合研究大学院大学文化科学研究科准教授(併任)
主要著書=『中世武士団構造の研究』、『新田一族の中世』など

木下 聡 きのしたさとし 1976年、岐阜県生まれ。2007年、
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。
現在、東洋大学文学部史学科准教授
主要著書=『中世武家官位の研究』、『斎藤氏四代』など

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