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私が代替療法を信じない理由

出たー! 出たぞー! 私のところにも来たー! 気をつけろーっ! ウウウウウウーッ!!!!(柳沢慎吾のパトカーのものまね風で)

……と、クマの出没を知らせるように警鐘をガンガン鳴らしているのは、私のもとにアレがやってきたからだ。アレって? それはね……妖怪・がん患者に代替療法を勧める人です! はい、出たー! 来たよー! ヤバい妖怪が野に放たれているよー! 早く林野庁か環境省が捕まえてー!

「抗がん剤なんて毒で、かえってがんを増やすんだから、絶対にやっちゃダメよ!」

電話の向こうで、親戚のAさんが叫ぶ。もともと民間療法にハマりやすいAさんは、私が乳がんになったことを姑経由で聞きつけ、自分が信じている代替療法を勧めようと電話してきたのだ。

「その代わり、NPO法人○○の『青汁パウダー』がおすすめ! これさえ飲んでいれば自己免疫力が上がって、がんが消えるの!」
「えーと……免疫力でどうしようもできなかったから、がんになったんじゃないですかね?」
「だからね、免疫力が大切なのよ! このNPO法人はね、有名な△△先生が理事長をなさってて……」
「△△先生って、以前はまともだったけど、最近金儲けに走ってるって話題の人ですよね?」
「でもね、免疫力が大事なのよ!」
「だから、免疫力でどうしようもないのががんなのでは……」
「とにかくね、免疫力さえ上げればね(以下略)」

噛み合わない話を10分ほど続けたあとで、私は「そういうのは人に勧めず、ご自分でどうぞ」と告げ、音速で電話を切り、即効でAさんを着拒にした。

Aさんが勧めるものだけに限らず、がんに関する代替療法では、やたらめったら医者や病院、医療を否定し、患者の不信感を煽るものが多い。

私も仕事の都合で、それ関連の書籍をいくつか読んだことはあるけれど、内容はどれもこれもSFみたいだった。遺伝子のエラーで発生し、ひたすら増え続けるがんを免疫力や食事だけで治すとか、SF以外の何物でもない。同じSFでも、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『猿の惑星』のほうがよっぽど現実味がある。

それに、私が代替療法を疑う一番の理由は、失敗例がなさ過ぎるところだ。

どんなことだって、失敗があるからこそ成功があるものでしょう? 違う? 現在、病院で行われる標準治療だって、臨床や研究における多くのトライ・アンド・エラーから生まれていると思う。

だから、不幸にも「エラー」にあたってしまう患者さんもいるし、私だって「エラー」側の人間になる可能性はある。それでも、失敗を明確に示し、乗り越えてきた治療は信頼するに足るものじゃないかしら。

しかし、代替療法について書かれた書籍やサイトには、決して失敗例は載っていない。100%うまくいくことばかりが書かれている。この世で、失敗のないものなんてないと思うんですけどねー(棒)。「私、失敗しないので」なんて言う人もいるけど、あれはフィクションですから! 米倉涼子ですから! あんなまつ毛バッサバサのメイクをした外科医なんていないから!

それに、失敗がないのは、失敗を隠しているか、失敗しないレベルの軽度の人を相手にしているかのどちらかでしょう。完璧人間を気取ってる人に限って、失敗をうまく隠しているのをたくさん見てきたぞ、私は。

そんなわけで、私の前で代替療法の話はしないでください。そこに私はいません。眠ってなんかいないし、標準治療で超元気に生きています。それでも勧めてくる人がいたら、もれなく近隣の山の麓に埋める予定なので、よろしくお願いします。

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