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Life is comin' back!

先日、私の乳がんの術前の検査結果が出揃った。どんな結果だったかは、くわしくは書かない。書きたくないからだ。

それは私が徹底した秘密主義だとか(そこそこ秘密主義だけど)、結果が「3日後に死にます」みたいな深刻なものだった(そこそこ深刻だったけど)といったまっとうな理由からではない。検査結果の用紙を見ながら、ここに打ち込むのがダルいだけだ。

なにせ検査結果の報告書は、アルファベットが多すぎる。Histologic typeとかAllred scoreとか、パッと見で意味がわからないのはもちろん、医学用語なのでgoogle翻訳でも訳し切れないspecialiyでintelligenceな単語ばかりが並んでいる。

ここは日の本の国Japanなのだから、検査結果も「乳がんって怖いですよね。そこで、あなたの乳がんを調べてみました!」みたいにひらがな9割で書くべきじゃないのか。ダメか。

ダメなのはわかっているので、担当のO医師(田中圭似)の解説をもとに、病理診断の用紙を読み解いた。小さいうえに英字ばかりが続く文面に、ムスカ大佐とは違う意味で「目が、目がぁ~」と叫びそうになりながら、なんとか理解した。

わかったのは、私の乳がんは「ルミナルB型(HER2陽性)」というタイプだということだ。このタイプの乳がんは、簡単にいうと、乳がんを増殖させる大きな要素の2つを抱えている(くわしくはこちらのサイトで)ため、ほかのタイプよりも進行が早く、再発や転移のリスクも高いという。やはり私の乳がんは、悪役のときの堺雅人だったのだ。

「でもね、増殖の要素が多いということは、それだけ叩きやすいがんであるとも言えるんです」

O医師はピコピコハンマーでモグラ叩きをするようなしぐさをした。

「このタイプのがんの方には、手術はもちろん、抗がん剤に分子標的薬、放射線治療、ホルモン治療と、乳がんの標準治療をすべてをやってもらわなくてはなりません。でもそれは、どの治療でも確実に効果が出るからなんです。本当に効きますから」

特にHER2がかかわる場合は、十数年前までは再発や転移の多いやっかいながんで、予後もかなり悪かったらしい。しかし、特効薬である分子標的薬の登場によって、今では反対に「治りやすいがん」になったという。すごい。

「抗がん剤と分子標的薬は点滴での投与になるので、手術をするあちらの大きい病院でやっていただきます。放射線治療もあちらだね。それが終わるのは……1年後くらいかな」

そして最後の治療であるホルモン薬の投与は、O医師のもとでできるという。私が「では、1年後にまたお願いします」と言うと、O医師は大きく頷いてくれた。

「1年後、お元気で戻ってきてください。必ず」

……ああ、戻るよ。戻ってくるさ。だから1年後も、その田中圭フェイスを維持しててよね!

そう思った瞬間、ふと頭の中に浮かんだのが、オザケンの『ラブリー』の歌詞だった。大学時代に何度も聴いたせいで、脳のこびりつきになって離れないあの曲の「LIFE IS COMIN' BACK」という歌詞が、これからの人生に対する選手宣誓のように思えてしまう。

あの曲は、オザケンが心の病で苦しんでいたときに作ったものだと聞いたことがある。まさに「夜は深く長い時を越え」るような辛い毎日の中で「LIFE IS COMIN' BACK」という歌詞をひねり出して歌っていたのは、そのときのオザケンが今の私と同じ気持ちだったからじゃないかなぁ。いや、違うかな。でも、たぶんそうだと思う。

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