【第18話】移住先で「祭に参加する」ということ
◇無意識に傷つけていることもあるんじゃないか
祭は好きだ。見るだけじゃなくて、できれば中の人として参加もしてみたい。
池袋に住んでいた時も、年配マダムたちに囲まれて焚き出しとかしたなぁ。「キャベツを何㎝の幅で切れ」とか、「○○さんの味付けはなってない」など女たちの冷戦はおっかなかったけど、生き物観察のノリで見たらそれはそれで結構楽しかった。気分は文化祭の延長。参加することに深い意味を考えなかったし、「面白そうだから混じってみる」「忙しそうだから手伝う」など、単純な動機だったのだ。
でも、島の場合はいろいろ考えちゃった。
地元の人たちが、昔から大切にしてきた神事じゃないですか。都会の空気の流れとはやっぱり違う。手垢の付かないところで、守られてきた感じがプンプンする。楽しそうだからといって、ずけずけ土足で上がっていいのかなぁってさ。
そう思うには、きっかけがあった。
以前、別の集落に「初盆の家が仏壇を背負って踊る」という珍しいスタイルの盆踊りを見に行ったんだけど、そこに写真を撮りに来ていたオジさんオバさん連中がひどかったのだ。
仏壇をしょって佇む彼らのすぐ背後で、黒山の人だかり。「はーい皆さん、下から撮ると絵になりますよ!」とか「あー、角度が!」とか、始終そんな感じで叫んでいるのだ。まるで檻のパンダに群がる観光客。もちろん本人たちには丸聞こえだが、ジジババ軍団ときたら、本人たちに断りの言葉もお礼の言葉も一切ないんだ。仏壇を背負ったご家族たちは、移動することもできずに、ひたすら無言で前を見ていた。
駐車場には他県ナンバーの観光バス。他所者だ。明らかにこいつらは島の人たちを「消費」しに来ている。
何なんだよぉ。フォトコンに応募するんだか知らねぇけど、被写体に敬意を払えないヤツに、いい写真なんて撮れるはずねぇんだ。お前らなんかボタン操作を間違えて「全消去」押してしまえ。あぁ、今書いていてもムカっ腹が立ってくる。キェーーーーイッ!!
と、地元民ヅラをしてみたが……自分だって……自分だってまだ他所者じゃないか。無意識に集落の人たちの大事なものを損なってしまうことがあるんじゃないか。事あるごとにそう考えるようになった。もともと建前とか遠慮の感覚が希薄なわたくしである。わからないだけに、怖い。
◇太鼓の達人
でもね、その日の夜。自分の集落の盆踊りでは、飛び入りで太鼓を叩かせてもらったんですよ。怒りなんか吹っ飛んじゃって、うれしかったなぁ。昔からお囃子に参加するの夢だったからね。ご高齢で足元のおぼつかない「師匠」に教えてもらってさ。「踊る人の動きだけを見ろ。彼らが踊りやすいようにってことを考えて、リズムを作るんだ」なんて、極意を賜りながら炭坑節や昔おどりをやった。
今年亡くなった人たちを慰めるために「お勤め」のように何時間も踊る。そうするとね、叩いているうちに不思議な気分になる。踊りの輪が1つの生き物だとしたら、自分がその中心で心臓になっているような。
ドクン、ドクン。ドン、ドコ、ドコン。
緊張感と高揚感の中で行ったり来たりしていた。みんな喜んでくれてたよ。叩き手がほとんどいなかったから「来年もよろしく」なんて肩叩かれたし、後日スーパーマーケットで見知らぬ人から「太鼓叩いてましたよね」と声かけられたこともあった。まぁ、自分で言うのもナンですが、太鼓には自信あったんですね。移住前はゲームセンターの「太鼓の達人」に相当つぎ込んでましたから。
あのときは、心から喜びを感じていた。でも、残り数パーセントの部分では「部外者のくせに」と冷ややかに眺める自分がいたのも事実。外気と内気の気圧差がちょっぴり苦しかったんだよね。今考えたら。
◇盲点だった性別の壁
中途半端な気持ちのまま、秋の一大イベントが迫ってきていた。聞くかぎりでは、我が大三島が「年で最も盛り上がる2週間」と言っても過言ではない。
収穫祭である。獅子舞、御神輿など、島にある全13カ所の集落が、同じ島とは思えないほど個性ある祭を繰り広げるそうだ。
ウチの集落ともう一カ所は、なぜか1週間遅いんだけど、それ以外は今年の場合9月26日・27日に同時開催。だからもう、1カ月ぐらい前から島中が「祭の準備一色」なのである。神輿の担ぎ手、世話役など各人に「役」が振られ、担当者名簿が回覧板で回ってくる。毎晩、集会所などから太鼓を練習する音が響きわたり、この時期のアポは「ごめん、夜は祭の準備があって」と断られる率高し。
昼間は何食わぬ顔で生活してるんですけどね、じわじわ、じわじわと気持ちが盛り上がっていく―ー。
当然、今回の祭りでも太鼓が叩けたらと思っていたんだけど、「役」の分担表みてビックリ。表舞台に立てるのはすべて男の人か子どもたちなのね。成人女は縁の下の力持ち。こりゃさすがに諦めるしかないか~という感じだった。
しかも自分は予定の見えないフリーランスの身である。毎晩練習に通えるわけじゃないのだ。中途半端に関わるのが一番申し訳ないんじゃないか、とも思ったり。
ヘタに「楽器やりたい!」なんて伝えたら、親切なあの人たちのことだ。きっと無理して何かやらせてくれちゃうに違いない……。自分の欲望のために、みんなが守ってきたものにヒビを入れたくない。
考えてばかりのウジウジ左衛門。そんなことしている間にも、みんなは練習を頑張っている。ウチの集落は、獅子舞なんだそうな。ドンドコドンドコ ドンドコドンドコ。暗がりから聞こえてくる太鼓の音が自分を拒絶しているようにすら思えてきて、我ながら情けない。その辺に穴を掘って叫びたくなる。
うわーん! りょう(夫)は御神輿担ぐんだってさ! 白装束渡されてたよ。いいないいなー!
太鼓、楽しそうだね、獅子舞、どんな風に踊っているんだろうね!!
これをお読みになっている方々は、きっと「アホか」とお笑いでしょう。でもね、なんかデリケートになってしまったんだからどーしようもないんですよ。私だってもう大人なんだから「いいの、見ているだけで楽しいから」とか言いたいですよ。実際。
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って、ウジウジしていたら、昨日メールで「練習見に来ませんか」とお誘いがあった。おそらく笛を吹かせてもらえることになりそうだ。横笛、横笛みたいですよ!! うひょー、カッコイイ!!
いやいや、まだぬか喜びは止めておこう。そっとそっと、お邪魔にならない範囲で入れてもらおう。練習は今日の夜7時半ごろから。毎晩9時ごろまでやって、あとは11時ごろまでお酒飲むらしい。
横笛、横笛みたいですよ!! うひょー、カッコイイ!!
カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!