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質疑応答とは、刀の斬りあいなんだ

家でひとり。おそい昼ごはん食べながら、イチローの引退会見を見ている。まだ前半50分ぐらいまでだけど。

野球に関してはほとんど知らない。でも「努力の人」として30年近く、競争の激しい第一線で活躍されていたことぐらいは知っている。そんな人が今まで張ってきた糸を切ろうとしてるんだ。見ておかなければと思った。

最近、心が乱気流にのまれて操縦がままならない。操縦桿に必死にしがみつきながらも、「あぁ、このまま手を放して身を投げ出したら、どんなにラクだろう」と夢想するアンビバレントな自分がいる。だから、ヒーローの言葉をどすんと腹にぶち込んで、自分に喝を入れたいのもあったんだ。

職業柄、記者会見はつい「質問者」の立場で見てしまう。あの場は、真剣勝負。刀の斬りあいだ。回答者の感情の流れを予想しつつ、「あの質問を今ぶつけたら、どう返ってくるか?」「これ以上突っ込んで聞くべきか?」など、キリキリと思考を働かせる。敬意だって伝えたい。何週間も前から仕込む一太刀だってあるだろう。でも、質問ひとつで流れが変わることもあるし、相手を怒らせてその先が聞けなくなることもあるかもしれない。

わたしはこれがたぶんヘタだ。だからこそ今回の会見は、血が出るような想いで見つめていた。心臓痛いわ、感動して泣くわで体力消耗。30分ももたないよ、あんなの。同じ思いで見ていた同業さんも、ぜったいいたはずだ。

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質疑応答の流れとしては――

挙手する質問者の中から、司会者が1人を指名。社名と名前を言ってから質問をはじめていくという、よくある形だった。

他の人がどう思ったかはわからないけど、

たとえば、スタート2人目でいきなり「子どもたちへのメッセージは?」が出てきたときには面食らった。それ、あとでよくない? まずは引退についてや、その日にあった最後の試合を振り返ることから深めていくのが、自然な流れだし、イチローさんへの思いやりなんじゃないかと。

女性記者から、試合中に氏を見守っていた方の名前が出たときや、「つらぬけたことは何か?」、「次は我々にどんなギフトを与えてくれるのか?」などの質問が出た時は、目の表情が変わっていたなぁ。

共感力の高い女性が相手だと話しやすい? なんて超絶くだらない邪推もしてみた。

まぁ、そんなことは当然くつがえされる。

日刊スポーツの男性記者が、あえて粗削りな言葉で「この後は、何になるんですか?」と尋ねたのだった。小学生とかに「大きくなったら何になりたい?」と聞くあの感じだ。狙いとは知りつつも、ちょっと幼稚なんじゃないかと恥ずかしくなる。ひょうひょうとした口調で、相当な手練れなんだろう。あれに答えるとき、なんか楽しそうな顔でアレコレしゃべってたんだよな。イチローさん。

「オレ、野球辞めたら元・イチローになるのかな?」なんて横道に逸れたりもしたけど、スポーツ素人の視聴者としては、なんとなくここにヒーローの素顔を見た気がしたのだった。(「子どもに教えることに興味ある」と話したのはこの質問に関してだっけ?)

実はその前に、別の記者が似たような質問をしてたんだけど、反応はまったく違う、そっけないものだった。「今まで野球につぎこんでいた時間を、これからはどう使う?」という問いだったが、これはモゴモゴと話す記者で質問の意図が伝わりづらかったのかなぁ。

へんにこねくり回さないで、素朴な玉をぶつけるほうが、いいときもあるんですよね。

疑問が残る質問が、2つ。

朝日新聞の人の「日本に戻らなかった理由」と「打席での感覚の変化」について。どっちも「ここでは言えない」「裏で話すわ」など一蹴されていた。

これには、もう少し喰いつくべきだったんじゃないか。記者さん後悔してないかな? わたしは野球にくわしくないので、これが必要な質問だったのかわからない。でも、少なくとも本人たちは「聞きたい」という欲求があって投げた球なわけなんですよね? この辺どうなんですかね? 野球にくわしい方に、そのうち聞いてみたい。

ほかにも学んだことはいっぱいあるけど、とりあえずこの辺で止めておく。

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最後に、胸にささった名言を記しておきたい。

フジテレビのショーパンこと生野陽子さんの投げた「ファンに伝えたかった自分の生き様は?」という問い。それに打ち返された球だ。「生き様…っていうのはよくわからないけど、生き方としてなら」という前置きのあと、こう続く。

「人は、少しずつの努力の積み重ねでしか、自分を超えていけないと思っています。

一気に高みにあがろうとすると、自分の状態とのギャップがありすぎて続かない。

(中略)

後退しかないときも、自分がやると決めたことを信じて続けていくしかない。

それが正解とは限らないんですけどね。間違ったことを続けてしまうことだってある。

でも、遠回りすることでしか、本当の自分には出会えない。そう思っています」

そうだよ、わたし。やっぱりあれ続けたいんだ。台所に食器片付けながら、わんわん泣いてた。

カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!