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【第41話】 はじめての「けもの道ハイキング」

舌の根も乾かぬうちに、移住日誌、続編です(笑)

38歳にして、猟師になろうとしている。バカげている。なぜなら、わたしは超がつくほどの運動音痴だからだ。

ほら、学校のクラスに1人か2人はいたでしょ。跳び箱が跳べなくて、逆上がりができなくて、最後まで残されてるヤツ。それがわたしです。マラソン大会もほぼビリだった。いまだにJRの駅でさえあたふたして、見知らぬ人から「大丈夫?」と荷物持ってもらったりする始末。もし「世界どんくさいオリンピック」があったら、表彰台に登れるかもしれない。

なのに、狩猟免許を取ってしまった

免許は4種類あって、武器ごとに「火薬銃(1種)」「空気銃(2種)」「罠」「網」と分かれているのだが、今は火薬銃と罠を持っている。免許を取ってから銃を実際に手にするまでは、たくさんの手続きが必要で、自分の場合は実技試験(教習射撃)をこれから受けるという段階だ。

「肉を自分で手に入れる」生活をしてみたかった。移住する前は、「魚釣りと同じだよね~」となめていたが、フタを開けてみれば、国立公園でアジを釣るのとはワケが違う。イノシシやシカと闘って死ぬ人は珍しくない。マムシやムカデ、マダニも出るし、あと、普通に山で滑って死ぬ人もいる。わたし、公園のジャングルジムのてっぺんにも登れないのに。

ひょえー。

それでも、けもの道をたどるのは楽しい。取材で猟師さんの後をくっついていくのは、もっと楽しい。すごい形状の木とか、見たことない花とか、動物の生活してる痕跡とか、生で見るとワクワクする。小学生のころの冒険を思い出すよ。もっとも山なんて、遊歩道しか歩いたことなかったけど。

「猟師」という生き物はスゴイんだよ。この間取材させてもらった81歳のウチヤマさんは、土が雪崩れる急斜面からひょいひょい飛び降りるし、70キロ越の大型イノシシもその辺の棒で頭を殴って気絶させちゃうんだもん。原始人もびっくりだ。昔は「勢子」(せこ)といって、猟犬と同じ速さで山を駆け抜けて、イノシシやシカを追い詰める役割を担っていたらしい。家から見渡す限りの山にあるけもの道の地図は、ぜーんぶ頭に入っている。取材時は、山の斜面にビビりまくるわたしを見兼ねて、ウチヤマさんが手を引っ張ってくれた。年齢差を考えたら、逆だろ普通。これでは、狩猟ライターとして面目が立たなさすぎる。実は、こんなことが他の取材でも何度かあった。

「まずは、とにかく歩いて山を知ることですよ」

ウチヤマさんは言った。まずは自宅の周りから、ちょっとずつ開拓してみよう。近所なら万が一遭難しても誰かが助けてくれるはずだ。甘えてもいい、無事故で帰れるなら。

まずは家の裏山を歩いてみる

前置きが長くなったが、自宅の裏山はこんな風になっている。

山と言っても、すぐ後ろはとっても低い丘みたいな高さなんですよね。これなら一人でもがんばれそうだ。誰かと行くと甘えちゃうから、どうしても一人で行きたかった。

装備

・ワークマンで買った豚皮の軍手

・なた(行く手を阻む茨をぶった切る…予定)

・地下足袋(足が太くてコハゼが部分的にとまらない)

・スマホ(記録写真、ピンチのときに誰かを呼ぶ用)

・ペットボトルのお茶、大好きなギンビスのビスケット(←精神安定剤)

・猟友会のベスト(ナップザックは肩ひもがずり落ちてくるんだけど、一昨年支給されたやつは、背中に物入れがあって便利。今期のやつは通気性はアップしたが背中の収納がなくなって残念)

・手ぬぐいと家のカギ

さて。

いざ登ってみると、けもの道は薄い。イノシシの足跡もちょっぴりあったけど、小さくて20~30キロのが1,2頭ある程度。あとはタヌキとか野犬の小動物っぽい。鉢合わせも想定してたから、思わずホッ(笑)

けもの道がない分、藪がボーボーだ。棘が髪の毛に引っかかりまくりで山姥ヘアになる。帽子かぶってくればよかったと後悔。もはや道など関係なく、ひたすら上を目指して進む。なたは上手く振り回せずに、ツタが切れない。よって無用の長物なのだが、「握っているだけで勇気が出る」という別の効能に気づいたことは収獲だった。

家の真裏=尾根の一番低い部分に到着。集落を上から望むという見慣れない光景に、それなりに高さを感じる。さて、どうやって降りよう?

気まぐれに覗いてみた尾根の反対側。180度表情が違ってビビる。…ってフェイスブックに投稿したら、「こんなスカスカになってるなんて、シカがいるんじゃねぇのか」と、サバイバルマスター兼カラス先生が一石を投じた。この島にはシカは繁殖してないとされているのに…。ざわ、さわざわ。

近くに落ちてた古い糞は、シカの粒々感とイノシシの大きさを融合させた感じ。どっちの糞でショー。

こっちは同じ山とは思えないほど、けもの道が濃い。日陰で草生えてなくて通りやすいのか、ふもとに田んぼや畑が多いからか。道が奥へ奥へと誘っているようで、ついつい深追いしてしまいそうだけど、今日は止めておこう。第一、どうやって登ってきたかルートを覚えてない。

…と考えていたら、尿意。

当然「野ション」です。ティッシュ持ってないので、そのままパンツ履く(帰宅後ちゃんと替えました)。イノシシよ、わしの痕跡に気づいてくれ。人間が来たぞよ。カラス先生によると、使いかけの細いトイレットペーパーをカットしたペットボトルに入れて持ち歩くといいそうだ。飲み口部分から引き出せるナイス仕様。防水にもなるしね。

放尿して、お茶飲んで、ギンビスは——ハングリー精神&野生の勘(あるのか?)を保つために我慢してみた。またボーボーの藪をかき分けて下るのも面倒に思えて、全然違うルートだったけど方向的に合っていそうな「太いけもの道」をたどって降りてみたら……

たったの3分で地上に到着!

上りは20~30分かかったのにだ。しかも、藪も障害物も急斜面もない楽勝ルート。ついでに、途中に「湧き水ポイント」まで入っているのだからエクセレントすぎる。動物すげー。

わかる? 真ん中に水が流れてます。

山、楽しい~! なんでもっと早く入らなかったのだろう。今も興奮が冷めきってなくて、「それまで何とも思っていなかった異性を恋愛対象として意識してしまった日」みたいなドキドキ感だ。なんだそれ、ラブコメか。

ちょっとずつ歩ける範囲を広げて、「ここ俺の山」って言えるぐらいになりたい。持ち主は誰か知らないけど。

                       (続く…かもしれない)

カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!