見出し画像

ポール・マッカートニー新譜レビューMcCartneyⅢ 全曲楽曲紹介します(連載)。

 2020年12月18日、ポールのNEWアルバム「McCartneyⅢ」が発売されました! ここでは、「ポール・マッカートニー作曲術」作者として、楽曲の音楽的な側面にも触れつつ、1曲1曲、楽曲解説をしていきたいと思います。
 初回は、M1「LONG TAILED WINTER BIRD」です。

M1. LONG TAILED WINTER BIRD

■永遠に鳴り続けるギターのE音

 マッカートニーといえば、「Blackbird」に代表されるアコースティックギターの素晴らしさ、テクニックを思い出します。
このアルバムも、そういったファンの声に応えるように、いきなり1弦の12フレットのE音で♪タカタカタ~と演奏が始まります。
 アコギ来た~~と胸が高鳴ります。おそらく、かなりのマッカートニーマニアは、一人多重の新アルバムは、ポールのアコギが前面にフィーチャリングされているだろうと予想&期待していたと思います。
 演奏は、ポールお得意の2フィンガー奏法ではなく、ピックによるソロプレイがメインです。Em一発のインストナンバー。何本かのアコギが絡み合います。
 ポールの場合、かなりの確率で、いや絶対に、楽曲の中に何かひねりやギミックをさりげなく入れて来ます。それが、ボクらの楽しみでもあり、ポール自身のお楽しみでもあるのです。
 最初のギターフレーズの最後の音(オクターブ下のE音)を聞いて、アッと驚きます(0:03~)。本来、すぐに減衰すべきギターのE音が、ずーっと鳴り続けるのです。エフェクターによるサステイン効果でしょうか?
 そのサステイン音にからむように、カッティングのギターや第2のギターが重なってくるのです。こういったさりげないけれど意外性のアイデアでメロディーがさらにカッコ良く響きます。
 このようなロングトーンを、“ドローン”と呼びます。インド音楽の基本にもなっているのですが、ビートルズは、ドローンをいろいろな楽曲で多用しています(「Tomorrow Never Knows」「Got To Get You Into My Life」「Within You Without You」)。
 このギター・フレーズは、Em(ホ短調)のペンタトニックという、ポールお得意のスケールで演奏されています。
 このアルバムでは、いい意味で、昔取った杵柄的な懐かしい仕掛けやフレーズが、ちょくちょく飛び出します! もちろん、ポールからの、コアファンへのプレゼントでしょう! ありがとうポール!

■タイトル「LONG TAILED WINTER BIRD」と歌詞

タイトルは、尾っぽの長い冬鳥という意味ですね。冬にやって来て、そこで越冬する渡り鳥がWinter bird(冬鳥)です。
ポールは、ツイートで図鑑で見つけた尾長鶏の写真をアップしてくれました。

画像1

当然ながら、冬はコロナ禍でロックダウンされたレコーディング時の英国の象徴ですね。また、McCartneyⅢが発売された12月の季節の象徴でもありますね。
 実は、このオープニング楽曲「LONG TAILED WINTER BIRD」は、アルバムのラスト曲「WINTER BIRD/WHEN WINTER COMES」と密接に結びついています。
 90年代に作り、未完だった楽曲「WHEN WINTER COMES」に今回、イントロを作り足したのですが、そのイントロ部分を 「WINTER BIRD」と呼んだのです。
 そのイントロを気に入ったポールは、イントロのリフを何回も繰り返し、コーラスなどを加えて、独立した1曲に仕上げました。
 エンディング(尻尾=Tail)のフレーズを長くしてオープニングを作ったので、レコーディング中は、オープニング曲をロングテール(長い尻尾)と仮に呼んでいたことから、そのまま正式タイトルとしたそうです。
 アルバムのオープニングとクロージングを関連させるのは、いかにもポールらしい、コンセプトアルバムの手法ですね。

 歌詞は、Do you, do-do, do you miss me? Do you, do-do, do you feel me?...などと繰り返されます。ボクがいなくて寂しいかい? ボクが感じられるかい? といった内容です。
 コロナによるロックダウン(都市封鎖)で会えない寂しさを歌っているのですね。
 動詞の「miss」には、~~〈人・物〉がいない[ない]ので寂しく思うという意味があります。
 ここでボクは、一瞬ポールの心の奥に触れた気がしました。それは、最初にCDを手にしてジャケットフォトを見た瞬間に感じたことと同じでした。

画像2

 まるで、ベートーヴェンのデスマスクのような……安らかに眠るようなポールのフォト。もちろん、これは目を閉じて、素晴しく長い人生を振り返っているフォトでしょう。
 ポールは、音楽でも言葉でもヴィジュアルアートでも、すべてのことに意味を持たせる、真のアーティストです。実際、過去に自分の音楽はすべて説明が付く……と語っています。
 だから、この写真にも深い意味があるのではないか? そう考えるのは、当然です。
 コロナの恐ろしさ……一瞬の油断で感染し、命を落としてしまうかもしれない恐怖を、このフォトで暗示しているのかもしれないと……ボクには思えたのです。
 それを裏打ちしたのが、歌詞のDo you, do-do, do you miss me? でした。
 もちろん、アルバムの中の曲は、希望に満ちた作品があり、全体として、前向きな内容です。

■ポールのコーラス

 1:20~から始まるポールのコーラス! 上記の歌詞の部分ですが、ファルセット(裏声)で非常にクールです。
 SNSなどでも、ポールの声が、年を取って昔のようでなくなったのが寂しい、残念だ! という声を沢山聞きます。
 しかし、当然です。78歳! 声が衰えるのは、人間として当然です。ポール本人も、昔なら出たキーが出づらいとか、葛藤はあるでしょうね。
 でも、このコーラスを聴いた瞬間、すこし影が差したような燻し銀のファルセットに、うわ~~カッコ良いと直感しました。当然、昔のような透明感のファルセットではありませんが、実に、クールでした。
 地声の響きは、2曲目以降のお楽しみということで、この曲では、ファルセットで最後まで押し通します。

画像3

 コーラスの流れで、息を使う楽器「リコーダー」も使われていることを紹介しておきましょう(3:37~)。
 リコーダーと言えば、ポールの代表曲の一つ「Fool On The Hill」を思い出しますね。懐かしの思い出の楽器を一つ一つ取り出して、あの頃を楽しむように多重録音していった、そんなアルバムなのです。

■オフィシャル動画


■「ポール・マッカートニー作曲術」

 こんな感じで、ポールの作曲ノウハウをまとめた弊著が、「ポール・マッカートニー作曲術」(ヤマハ刊)です。
 ご興味のある方は、ぜひ、お手にとってご覧くださいね!

画像4

次回は M2「Find My Way」を解説します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?