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「日本語A:文学」基本情報⑥試験問題1(Paper1)【225】

試験問題1(Paper1)

 この試験問題は、異なる2つの文学形式から抜粋された課題文を、設問を手がかりに分析する試験です。また、課題文は初めて読む文章となっています。SLの生徒は2つの課題文のうち1つを選択し、HLの生徒は2つの課題文に対する分析をそれぞれしなくてはいけません。設問の「考察を促す問い」への解答は必須ではありませんが、課題文の特定の部分に焦点を当てることが求められています。試験時間は、SLが1時間15分、HLが2時間15分です。

学習者ポートフォリオの活用

 ここではポートフォリオを用いて試験問題1の対策としてできることをまとめておきます。

・初めて読む作品の抜粋を分析し記録する
・試験問題 1 の評価規準を確認し、自分が苦手な部分を把握する
・苦手な部分の対策を行い、そのスキルが向上したかどうかを追跡する
・試験問題 1 で出題される文学形式を学んだかどうかを確認する
・試験前には、自分の苦手な文学形式や評価規準を確認する

評価規準(合計20点)

規準A:理解と解釈(5点)

 「テクストに対する理解を示し、テクストに含意される意味から筋道の通った結論を導き出せているか」「テクストを参照し、どの程度考えを裏付けているか」について5段階に分けて評価されます。つまり、与えられたテクストの内容についてどれぐらい理解できているかが評価されるということです。

◯高得点を取るためには
 ここでは、テクストが示す意味をどれぐらいまで深く理解できたのか、暗示していることについて、説得力と洞察力を持って解釈できているかどうかが鍵となります。また、テクストの参照についても、テクストが示す意味を説明するのに効果的に示せているかどうかが重要です。

 テクストから理解できたことや解釈を示す時は、引用や参照テクストなど何らかのエビデンスが必要になります。それがない場合、根拠が不足しているということで高得点には結びつきません。つまり、主張には根拠が必要ということです。

規準B:分析と評価(5点)

 規準Bでは、「テクストの特徴や作者の選択がどのように意味を形成するかについて、どの程度分析し評価しているか」という観点から評価されます。つまり、テクストから理解できたこと(規準A)を、どのように分析しまとめることができているかが評価されます。

◯高得点を取るためには
 
テクストの特徴や作者の選択についての分析と評価が、どれぐらい説得力と洞察力があるのかが求められます。テクストで示されたことを深く分析できているかどうかが鍵となります。

 IBの用語に「評価しなさい」についての説明が書かれており、「長所と短所を比較し、価値を定めなさい。」と定義されています。これは、作者のテクストの好き嫌いやそれが優れているかどうかの単純な判断ではなく、作者の選択に対して深く考察する必要があることを示しています。

規準C:焦点と構成(5点)

 規準Cでは、「考えの提示の仕方はどの程度まで(HLでは効果的に)構成され、一貫性があるか。またどこまで焦点を絞っているか。 」が評価されます。つまり、テクストを理解(規準A)しそれを分析(規準B)したことを、どれぐらい焦点を絞り込み、一貫性を持って表現できているかということが問われているのです。

◯高得点を取るためには
 
小論文の構成として、提示した考えを一貫性を持って示すことができているかどうか、また、焦点を絞り込んで分析できてるかどうかが鍵となります。

 規準Cでは、「焦点」と「一貫性」が鍵となっており、分析の最初に焦点がどこにあるのかを明示すると書きやすいかもしれません。また、その後に続く文章には、主張したことに一貫性を持たせるように構成する必要があります。ただ単に、表現技法などの知識を書いただけでそこに一貫性のないものや、逆に焦点をぼやかしてしまうようなものになっていたとすれば、それは評価にはつながりません。

規準D:言語(5点)

 基準Dでは、「言葉遣いはどの程度明確で、多様で、正確か。言語使用域とスタイルの選択はどの程度適切か(この文脈では、分析に適切な語彙、語調、構文、専門用語などの要素を生徒が使用することを「言語使用域」と呼びます)。」が評価されます。つまり、書かれている日本語の表現についてどれぐらい正確で豊かさがあるのかを評価されます。

◯高得点を取るためには
 明確、効果的かつ慎重に選択された言葉遣いが求められます。また、文法や語彙、文の構造も高いレベルであることが高得点につながります。

 私個人としては、この規準Dで満点を取るのが最も難しいのではないかと感じます。限られた時間の中で、ここまでの基準を満たすような文章が書けるかどうかというと疑問がありますが、あまり難しい用語や文章を書こうとするのではなく、採点者に自分の考えが正確に伝わる表現を心がけることが大切です。

試験問題1の対策

対策と勉強法

 初見のテクストの分析になりますので、とにかく作品の内容で理解できることやテクストが示す意味、作者の意図を示す必要があります。また、作者が伝えたいところには表現の工夫がされており、そのために表現技法を用いています。そこを分析し、それがどのように主題に活かされているかを考える必要があります。

 文章を書くときには、作品に関する情報や全体的な紹介をした後に、初めはテクストの主題を明らかにします。そして、作品にある表現技法を、主題となる根拠として分析します。そうすることで、学習者はなぜその主題を選択したのかが明らかになり、高い評価につながります。そして、最終的にそれぞれに示したテクストの細かい分析を主題と結びつけて、どのような効果があるのかや主題との関わりなどを明示することで、一貫性のある文章に仕上げることができます。

 表現技法に関する分析においては、技法について名前や働きについてまとめておくと良いでしょう。直喩や隠喩といった用語を使用することで、基準Dの評価にもつながることが期待されます。何よりも、表現技法をあらかじめしっかりと学ぶことができれば、どのようなところでそれが使われているのかが意識できるようになるので、初見の文学作品であっても予測がしやすいというメリットもあります。

 また、試験時間も限られていることから、構成を練る段階でアウトラインをどのように効率的に仕上げるのかも重要になってきます。このアウトラインがうまく構成できていなければ一貫性のある文章は期待できません。そのため、記号を分かりやすく用いたりアウトラインの時間(一般的にPaper1では、1つのテクストに対して15分程度とされています)を設定して、書く練習をしておく必要もあります。

試験問題1(Paper1)のためのアドバイス

 最後に私がIBのワークショップで聞いた話や、日本語Aを担当しておられる先生方から頂いた話をもとに試験に向けたアドバイスをまとめておきます。

 試験問題1というのは、テクスト分析について評価される試験であり、論評などの評価をする試験ではないということです。また、テクストの形式や表現技法について述べることがあると思いますが、ただそれを羅列すればよいというものではありません。これらは、テクストの示す意味や主題などと関連させる必要があります。

 また、これは小論文になりますので言葉を省略したり、くだけた言葉遣いをすると「規準D:言語」の得点に影響してきます。書き言葉としての言葉遣い、文法や句読点の誤りがないように配慮する必要があります。そのため、解答を書き上げた後は文法の誤りがないことを確認し、句読点の誤りはすべて修正しておかなくてはいけません。

 テクストの分析に関しては、タイトルや冒頭の導入文などにも注目する必要があります。その理由は、テクストを理解するために必要な情報が含まれていることがあるからです。むしろ、必要な情報が載っているからこそ掲載されているのです。

 アウトライン作成の際には、流れを整理しておく必要があります。主題を設定して、その根拠を明示し、結論としてこれまでに書いてきたことを結びつけるように構成する必要があります。

 試験の準備としては、文章を読んだときに「考察を促す問い」を作成することが効果的だとされています。

 以上が試験問題1(Paper1)に関する基本情報になります。生徒の添削などをしていると、評価の観点をしっかり理解しているかどうかで書き方が大きく異なってきます。
 また、生徒自身が自分の苦手分野を把握してその改善を重点的に取り組むことが重要です。ただ単に、何度も小論文を書くのではなく、苦手な部分を意識して取り組むかどうかが重要で、自分で振り返り採点することも高い効果が期待できます。友達同士で同じ作品の分析を採点しても良いかもしれません。

試験問題1で困っている方のお役に立てたら何よりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考資料>
・IBO「『日本語A 文学』指導の手引き2021年第1回試験」
・IBO「国際バカロレア(IB)ディプロマプログラム(DP)科目概要」(2022.09.18閲覧)

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