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多次元項目反応理論について

多次元項目反応理論は、項目反応理論を2次元以上に拡張した確率モデルです。

項目反応理論は、テストの分析や採点のための統計的なモデルで、テストの回答の背景に何かの能力(潜在特性)を想定し、能力が高い人ほど各問題に正解できる確率が高いと考えて、その状況を数理モデルとして表現します。

この時、通常は1次元の能力が想定されます。英語のテストであれば英語の能力。国語のテストであれば国語の能力。外向性の性格テストであれば(この場合は能力ではありませんが)外向性という個人特性が想定されます。

一方、多次元項目反応理論は、回答の背後に2つ以上の能力が関係していることを想定します。

例えば、理科のテストの中に数学的な能力を必要とする問題が埋め込まれている場合や、社会科のテストを英語で実施する場合には、採点の際に2次元の能力を同時に考慮する必要が生じますが、多次元項目反応理論は、このような場合に対応したモデルです。

あるいは、データが離散的な変数の場合に対応した因子分析であるカテゴリカル因子分析として、多次元項目反応理論を捉えることもできます(補償型モデルの場合)。

多次元項目反応理論が有効な場面として、数学のテストの背後に単純な1次元の数学力のようなものを仮定するのではなく、計算や論理、代数や解析など、いくつかの下位の能力領域を想定するようなケースを挙げることができます。

また、よく指摘されるように、性格テストの回答データ(あてはまる/ ややあてはまる…)は本来は連続値ではなく順序尺度ですが、このようなデータに対して因子分析を行いたい場合、厳密なことを言えば多次元項目反応理論を利用するのが自然だということになります。


一度に考慮する次元の数を増やしたことで、解の不定性の問題が生じるのが、このモデルの特徴です。例えば社会科のテストを英語で実施した場合に、スコアのやや低い受検者がいたとして、社会科が苦手なのか、英語でつまづいたのか、点数からはすぐに把握できないという状況をイメージしていただくと良いと思います。

不定性に対応するために、因子分析の場合と同様、分析の際に何らかの基準で”回転”という操作を行った後の解を求めることになります(SEMのような枠組みで因子と項目の関係を固定して不定性を解消した場合には回転は不要)。

多次元項目反応理論が、そのままの形で実際のテストの採点に利用されている例はほとんど見たことがありませんが、項目反応理論を拡張して複雑な状況を記述する際に、このような方向性があることを知っていることは、何かの役に立つ場面があるだろうと思います。

では


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