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Column #19 記号と数字に満ちた仕事術

今月のとくに後半は、京都の劇団「ヨーロッパ企画」の音楽をずっと制作している。役者さんたちは、はじめに台本の無いなかでの即興を取り入れたエチュードを繰り返し、スタジオでの稽古に移った後、実際のプレビュー公演で使われる舞台での稽古へ移る。今はまさにその舞台稽古の真っ最中。毎日こちらにも映像が送られてくるので、完成予想図を描きやすい。

映画の仕事だと、編集を終えた完成版の映像を見ながら作ることが多く、役者の動きも変わらないが、演劇は稽古も本番も1回1回が違うので、生身の人間の風景の一端を描かせてもらっている、そんな印象が強い。今回はオカルトコメディということで、不協和音を好きなだけ弾けることに幸せを感じる。でも不協和音=演劇の定番でもあるわけで、そこに甘んじず、且つヨーロッパ企画らしいポップさと脱力感もちゃんと生かしたい、と自分の中でせめぎ合う。しかしこれもまた楽しい。

ところで先日、スタジオでの稽古初日に参加したときのこと。見学を終えて音楽の打ち合わせも済み、スタッフの方々と仕事の話はなるべく抜きにした気楽な食事会へ。でももちろん演劇の話も伺いつつ。すると途中から僕の普段の仕事の話になる。

ヨーロッパ企画の代表であり脚本・演出の上田誠さんから「青木さんはやっぱり普段は基本的に曲作りを?」という質問。そこで僕は「今年はあまり曲作りに集中できていなくて、昨年もそうなんですが、活動がフリーになって以降、事務仕事に結構時間を取られているんです」と答えた。

ここで僕はさらに、自分の仕事を「種類と時間」に区切ってメモを取ってそれを表にまとめている、という話をする。すでに知っている方も多いと思うけど、なにごとも計画を立てたり記録を取ったりしながら物事を実行するのが、幼い頃からとにかく好き。

表には例えばこのように書く。事務仕事をGE(GENERAL)、自分のための作詞・作曲・レコーディングをMW(MY WORK)、歌やピアノの練習やライブ本番をPP(PLAY&PLACTIS)、CM・演劇・他アーティストなどクライアントのための仕事全般をCW(CLIENT WORK)、音楽&映画鑑賞、読書などをIN(INPUT)。

1日の配分の理想というのもあって。GE=3.5時間、MW=1.5時間、PP=1.5時間、CW=1.5時間、IN=1時間。この5つをさらに「ACTIVE」という欄にまとめている。つまり合計9時間となる。

休みの日や仕事少なめの日もカウントしているので、バリバリ働く日だけ計算すると、平均11時間くらいだろうか。趣味=仕事のようなところもあるので、妥当な範囲ではある。"ひとりブラック企業"な時期もあったが、最近はなんとか休息も取れている。

もちろん毎日均等に動けるわけがないので、クライアント仕事が多いとCWを130時間くらいこなしている月もあるし、普通の会社員のように事務仕事だけが毎日8時間続くという時期もある。自分のための曲作りの時間がまったく取れなかったり、モチベーションが上がらなかったりして、MWがほぼ0時間、という月も過去にあった。

これら以外にも、身体や喉のケアをCT(Care&Training)、家族のための時間と家事をFH(Family&Housework)、無駄に過ごしてしまった時間をWT(WastedTime)と決めて記入し、さらに体重&体脂肪率、睡眠時間、体調も細かく分けて毎日記録している。しかもすべて数字で(時間は30分単位、他は10点満点の点数など)。

この話、僕は人にもよく話すのだけど、たいていの人が「どうしてこんなに細かく記録するのか」とドン引きしてしまう。いや、かつて脳科学者の茂木健一郎さんだけは、「ここに変態発見!」と喜んでくれた。今回の上田さんも「ほくそ笑み」度が高かったのは気のせいだろうか。

たしかにこの内容を記入するだけで時間がかるし、さらに日記を書いたり、必ず付ける家計簿だったり、いろんなタスクをあらかじめ大量にメモする癖もあるので、1日の中で「記録すること」に割く時間が、最低でも30分くらいはあると思う。まわりは言う。本来の目的は仕事の効率化であるわけだし、本末転倒なのではないか、と。

でもこの記録を始めたもうひとつの目的があって、それは事務仕事を減らすということだった。嫌いだからという理由ではなく、その逆で、僕はそういったことが好きすぎるのだ。メールや電話は最低限必要なことだとして、様々なデータ管理&予測、サイトやブログの更新、経理全般、請求書をはじめとした書類制作など、どれも楽しく、時間のある限りついついやってしまうのである。

でもその前に、僕はひとりのミュージシャンである。死ぬまでにありったけの曲を生み出して、役者さんが演技を磨くように、僕も歌や楽器の練習を重ねなければならない。そういったクリエイティブな時間をちゃんと持てているか。それをきちんと監督したくて始めたのだ。情けないことに、ここまで徹底しないとすぐに怠けてしまったり、些細なことに気を病んで行動力が落ちてしまうというのが、身にしみて分かっているというのもある。

上田さんが、会話のなかでさりげなく嬉しいことを言ってくれた。「青木さんはマネージメントの才能があるんですね…。」そっか、これもいわゆるマネージメントか。でも単に好きなだけで、まだまだ不器用だ。実は今、他アーティストのマネージメントにも興味があるくらいで、肝心な自分を忘れている始末。クリエイティブなことではく、事務的なことの方が衝動が激しいって、どうかしてる。

7月はヨーロッパ企画のおかげで、CWが充実した月だった。でもセカンドアルバム制作もかなり遅れているので、MWで埋め尽くす日々もそろそろ送らねば。あ、ライブが近いからPPを強化しなきゃ。家族を置いてけぼりにしていると思ったら、FHの数値が激減してる! そんな頭のなかがAIのような毎日を送っている不思議な人間が、ここにいるのである。