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Column #1 号砲なきリスタート

初出掲載日 2018.01.01

HARCOとしての20年間が先日のラストライブで幕を閉じた。ついに迎えた、これまで以上に地に足を付けて活動していくための、リスタートの瞬間。でもなんだかまだフワフワしてる。

それもそのはず。本名への活動名義変更を発表した去年の4月からここまでのあいだ、非常に濃厚な9ヶ月を過ごした代わりに、今日からの準備になかなか取り掛かれていなかった。それでもなんとか用意できたのは、自作のウェブサイトだけだ。今までに作った曲はいったん封印することにしたから、持ち歌はひとつもない。じゃぁ僕はいったい何者だ。

例えば僕は、店の入り口をそっと開けるドアマン。中には台が置かれているだけ。けして見えないものを売る悪徳で不条理な店ではない、そこにはまだ何もないのだ。客は首をかしげて店を出て行く。僕は咳払いをして、そっと中からドアを閉める。カンカンカンカン。スーツを脱いで金槌を振り上げ、ついに完成させる。青木慶則の銅像を。

さてそれからどうする。いわゆる「今ここ」というヤツだ。始めるといっても会社じゃないから、書類をせっつかれたわけでもないし、陸上競技ではないから、空気を裂くような号砲も鳴らない。あれあれ、ますますフワフワしてきたぞ。どこかで錘(おもり)を手に入れねば。いかん、身体がベイマックスみたいに膨らんできた。

そうだ、いっそのこと空を飛んでいくという手もある。そして誰もが少し忘れかけた頃に戻ってこよう。というわけで皆さん、しばらくちょっとだけ「雲隠れ」の真似事みたいなことをしているかもしれません。雲の先はたまに透けて見えるけれど。

ところで年末のSNSにも書いたように、24年ものあいだなんでも相談してきたスタッフと離れ、マネージメントは付けず、これからは自分自身が窓口になって仕事を切り盛りしていくことに。

そんな経緯もあって、HARCO名義ラストライブでも話した通り、最近まで不安の方が99.99%だった。でもそこでバンドメンバーからサプライズの花束をもらって、その瞬間に0.0001%になったというのは、こうやってまた書くくらいだから、本当の話。むしろ恐れていない自分が逆に怖い。

新しいウェブサイトも、前述したようにイチから自分で作っている(ようやくスマホ対応!)。素敵な写真を撮ってくれたのは、「&Premium」などさまざまな誌上で活躍する、フォトグラファーの清水奈緒さん。今回初めてオフィシャルとして、眼鏡をかけた顔も公開。実はさらに髪型も変えて派手にイメチェンしようと思ったのだけど、途端に背伸びをすると背中を痛めるので、またいつかの機会にでも。

ひとりで始めるといっても、いろんな人の協力を得なければ僕の理想の音楽はおそらくやっていけないし、新たな出会いに期待したい。いやその前に、許されるならば今まで出会ってきた人とも、形を変えながらなるべく仕事がしたいとは思っている。世界は広くて、業界は狭いのだ。

すぐにでも動いている僕を見せたいけど、やはりスーツケースが空っぽなのが正直なところなので、焦らず「スロースタート」を楽しみたい。でもどうせ僕のことだから、いつのまにかちょこまか動いているのでは!

Photo by 祖父江綾子