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「失敗の科学」 マシュー・サイド 著 ディスカバートゥエンティーワン

車輪のトラブルに対応しているうちに燃料が無くなって墜落した飛行機のパイロットは、「信じられないほど早く燃料が減ってしまった」と証言しますが、フライトレコーダーの記録によれば、機長には、胴体着陸を選択するための十分な時間がありました。危機において、時間感覚は突然麻痺します。もしそうなら、航空機の事故は多発しそうです。

 

しかし、航空機の事故率は、非常に小さく、フライト100万回につき0.41回になります。これは、航空業界が「オープンループ」と言われる失敗を失敗として受け入れ、その経験を広く共有し、失敗から学ぶ機会が与えられ、その改善案も共有されるというシステムを採用していることによります。

 

それと逆なのが、「クローズドループ」と言われる、失敗に関わる情報が放置されたり曲解されたりする、進化につながらないシステムです。「ジャパン アズ No.1」などと浮かれていた頃は、自らの失敗なんか見向きもしませんでした。それよりも「海外の方が失敗ばかりで、アメリカなんて終わってるよね」なんて言っていた人たちがたくさんいました。その頃、アメリカは、回復への戦略を練っていたのかもしれませんね。

 

「オープンループ」が成立するためには、失敗から学ぶ姿勢が必要です。失敗から学ぶためには、誰もが失敗するという観点を持つこと、地位の上下関係なく失敗を指摘できること、失敗した人を非難してトカゲの尻尾切りをするのではなく、むしろ失敗を報告することを奨励するなどの意識変革が必要です。

 

今の世の中、残念ながら「クローズドループ」が起きやすい空気が支配していると言って良いでしょう。何か発言すれば、SNSでバッシングされ炎上する恐怖のため、人々は、自分のオリジナルな発想を表明するより、可もなく不可もなく誰からも批判されないような、あるいは、権力のある人に忖度するような発言をする方が安全で、自分にとって得だと考えてしまうでしょう。そこには進歩はありません。

 

本の後半には、日本がなぜ低迷してしまったのかが考察されています。失敗を隠蔽せず直面し、自分の理論に疑いを持つ勇気を持つことが必要でしょうね。


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