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Ideal World - アルバム全曲解説

やってくぜ!まだお聴きになってない方はこちらからどうぞ。
(Spotifyアカウントはみんな持っているよね) 

そもそも"リアルな体験のアンリアルな情景に誘う"ってなに?

プレスリリースに書いてある、よくわからない抽象的すぎてよくわからない煽り文句なのではと思うかもしれないでしょう。言語化できないから音楽をやっているのにそれを無理やり言語に変換すると大抵変な文言が出力されてきてしまうのは世の常なので、ある意味合っていることは合っているが書いている側としてもこのように理解して欲しいと思っていることはあるのでその辺を書いていきます。
例えば観光地や景勝地に旅に出かけたとしましょう。行く前にはある程度その場所のことをガイドブックやWebや地図で調べてから大抵は行くことでしょう。しかしながら実際にその場所についてみると、事前に知っていた情報と実際に行った時に得た情報は異なることがわかります。ある程度その場所についての旅を終えたあとには、人によって個人差はあるかと思いますが、訪れた場所がどこに合ってどういう位置関係になっているのかという3Dモデルのようなものが頭に出来ていることに気づくと思います。次回以降その場所について思い出す時はメディアから伝え聞いた情報ではなく自分の意識の情報空間に存在するそのモデルを参照することが多くなるかと思います。そしてそのモデルは時間が経つにつれて忘却されていき徐々に曖昧になっていきます。しかし、その場所を見た時に体験した感情は比較的長く残り続けることが私の場合は多いです。
また、電車などで移動して見に行った富士山と、西伊豆スカイラインをヘロヘロになりながら自転車を漕いで坂を登っていて、景色が開けてきたところに突然出てきた富士山とでは受けとった時の質感が異なるのも似たような性質があります。

そして次に今回の曲をどうやって作ってきたかということを説明すると、まず脳内で感情の高ぶりなどにより自動生成され続けている音を拾ってそれをDAW上にコピーしていく、以上の作業です。 別に景勝地の話とは全く関係ありません。ただ、曲も感情と切っても切れない関係性があるので曲を作った時の感情と、景勝地を見た時の感情で近いものを結びつけたら面白そうだなと思ったことを曲名を付ける段階でやっています。曲を聴くことでその景勝地に行った時に体験した感情と似たような性質の感情で作られた音を通して近いものを体験できます。これが曲名に地名や体験の名前がついている理由です。

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自転車でヘロヘロになっているところに...という話を先ほどしましたが、大抵そういった状態になっているときはランナーズハイのような状態になっていて視界や色が大きく歪みます。脳内麻薬がそうさせているのでしょうか。とにかく、平常時に見る風景とは異なるものが広がっています。なんなら素の状態よりちょっと綺麗だったりします。ランナーズハイに馴染みのない人は酒なんかだとわかりやすいかもしれません。あれも飲みすぎると視界が歪みます。ヒルクライムをしながら景色を見ていることは「リアルな体験」ですが、頭の中の情報空間に広がっているものは「アンリアルな情景」です。
景勝地の話で言うところの、景勝地に行って景色をみるのは「リアルな体験」、そこで感じた頭の中に浮かび上がる感情と結びついた3D映像などは「アンリアルな情景」です。

まとめると、日々の感情から作られた音楽に、似たような性質の感情を抱いた時に見ていた景色の名前を割り当てて、その感情に結びついたアンリアルな情景をぼんやりと感じていただこうという仕掛けです。風景の見え方は一つではない。新しいものでは決してなく、むしろ手垢のついた手法で、よく出来たアートはしばしばこういうことをやっているように思います。ナショナルギャラリーで観たモネの絵などは好きでした。

それをいよいよ自分の作品でやってしまおうということです。当然アートワークもそういった感性にあったものになりました。シングルカットのIdeal Worldが比較的写実的な山、アルバム版のアートワークがアンリアルな情景に対応しています。素晴らしい絵を描いてくれたきあとさんありがとう!

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各曲紹介というより、知っていると面白い補足情報など

#1 Seaside Railway 8079M
シーサイド・レールウェイ 8079M
ps762 2020.12.27
旅の始まり。8079M列車というのは東京を10:30に出る修善寺行きの特急 踊り子号の列車番号。伊豆急下田行きも併結していてそちらの番号は8029Mです。年末のちょっと浮かれた楽しい気分の中作っていた曲だったので、翌年3月頃に乗った伊豆半島輪行旅の気持ちと結びつけての命名。185系ラストランにギリギリ間に合ったね。

#2 Catnip Joy
キャットニップ・ジョイ
ps766 2021.01.12
Catnipは日本語だとイヌハッカなのでマタタビではないのですが、ご機嫌になってしまっているネコチャンの体験を想像しての命名。サンプリング猫が歌い狂っていますね。余談ですが最近は犬もいいよねって思い始めています。

#3 The Lake of Tranquility
ザ・レイク・オブ・トランキリティ


ps757 2020.12.14
静かの海をもじって静かの湖。月面ではないですが、人が寄り付かない場所は静かで神秘的で、同時に少し死の匂いがします。

#4 Geostationary Orbit
ジオステーショナリー・オービット

ps741 2020.06.15
いわゆるGEO、静止軌道のことです。重力から解放された状態で地表を眺めている衛星の視点。倍音列の気持ち良さをどうやって引き出すかななんてことを考えながら音を作っていた記憶があります。

#5 Nishiizu Skyline
ニシイズ・スカイライン


ps758 2020.12.14
名前はそのまま西伊豆スカイライン。高速ダウンヒルは一瞬の判断ミスが崖からの転落を招く危険な場所。美しい自然は時に牙を剥く。恐怖心に打ち勝ってひたすら正確な機械操作が求められる。

#6 Meteor Shower
ミーティア・シャワー

ps760 2020.12.22
流れ星。単調な繰り返しのメロディがどうしようもなく印象的に聴こえる時ってあるよね。ノイズにパターンを見つけて愛でるのは人間の心が成せる技。

#7 Ideal World
アイディアル・ワールド


ps768 2021.02.01
理想世界。高熱にうなされたかのように1~2日で書き上げた曲。だるま山高原レストハウスから一気に駿河湾を超えて富士山を駆け上がるビジョンがすぐに割り当てられたのでそういった内容で作詞も。シングル版と若干ミックスや演出が異なります。バージョン1.01といった内容。どこでしょうか?探してみても面白いかもしれません。

#8 Enoshima Hyperthermia
エノシマ・ハイパサーミア


ps770 2021.02.18
江ノ島ハイパサーミア(熱中症)。ピッチの狂ったE.Pianoが高温高湿度の日本の夏を思い起こさせますね。同じようなことは以前にもやっていて結構常套句だったりします。2020年8月の狂った暑さの中江ノ島まで行った時に暑さにやられていた心象風景を割り当て。

#9 Okutama Lake
オクタマ・レイク


ps751 2020.10.19
奥多摩湖。東京にはこんなにも美しい場所があるということをもっと知ってもらいたい。でも高尾山みたいに知られすぎて人でごった返して観光地化するのも違うのでわかる人だけ分かっていてほしいみたいな思いもあります。奥多摩湖周遊道路の展望台まで行くと標高1000mを超え、一気に静かな場所に。湖の下にはダム工事で沈んだ小河内村がヴェスヴィオ火山によって沈んだ町ポンペイのように静かに横たわっている。経緯については小説 日蔭の村 (著:石川達三)などを読んでも面白いです。

#10 Glide Slope
グライドスロープ


ps775 2021.03.05
浮遊して回る旅もそろそろおしまい。タイトルはILS装備の空港から発信されている約3度の降下パスを示す電波より。離着陸は魔の11分と呼ばれるほど緊張感のある時間ですが、精神世界の旅はそれよりはだいぶ穏やかです。身を委ねていればあとは勝手に地面に。Autolandより滑らか。

#11 Terminal
ターミナル


ps779 2021.04.08
終端、ターミナル。始まりがあれば必ず終わりは来る。旅もおしまい。


それではどうぞお楽しみください。この記事が面白いと思った方は、ぜひアルバムをご購入ください。Bandcampからどうぞ。


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