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誰のために撮るのか

 それにしても、ポートレート撮影は、つくづく特殊な趣味だ。
 趣味っていうのは、普通、自分の楽しみのためにやるものなのに、僕たちはまるで、誰かに喜んでもらうために写真を撮ってるつもりになったりするんだから。
 趣味なのにね。

 これが仕事なら良いんです。他の誰かにサービスを提供して、その対価を得るのが「仕事」だから。
 例えば、魚釣りが趣味の人は、自分が楽しいからやっているわけで。
 その一方で、漁師は釣った魚を誰かに売ることで生活しているわけです。それが仕事。

 振り返ってみれば、一眼カメラを初めて手にしたばかりの頃は、シャッターを押すことが、ただ単純に楽しい。スマホとはぜんぜん違う(ような気がする)綺麗な写真が撮れるっていうだけで満足だ。
 そして僕たちはだんだんと、風景やなんかを撮ってるだけでは飽き足らず、魅力的な女子をフレームにおさめてみたいなんて考え出す。そして、その魅力的な女子が、もしも僕たちが撮った写真を見て喜んでくれたりしたら嬉しいじゃんか。

 そんなふうに、最初は自己満足の閉じた趣味に過ぎなかった写真が、だんだんと他者とのつながりを生んでいき、僕たちは誰かのために写真を撮るようになっていく。
 ポートレートカメラマンの初心者と中級者を隔てるのは、技術の違いだけでなく、このような意識の違いではないだろうか。

 ただ、この意識の変化は別に、手放しで肯定できる「成長」ではないかもしれない。もしかして、いびつな進化なのかもしれないんだ。

 例えば、あの子のために撮影して、あの子のために現像した写真が、あの子にたいして喜ばれなかったら、どうする?
 なんで感謝してくれないんだと、その子に文句を言うのか?
 あるいは、自分の下手くそな写真を呪うのか?
 いずれにしたって、そんな趣味は楽しくないよ。

 自分のために撮るべきなのか、誰かのために撮るべきなのか。
 その問いの答えを、僕は知らない。

 ただ、「この写真は誰のため?何のため?」なんてことを考えずに撮影できているときが、僕はいちばん楽しいです。



#新しいプロフィール画像 (笑)

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