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「人間の価値の砦」が失われるAI時代の主役は哲学だ。人間に都合の良い社会づくりに必要なもの。(&弊社のスタンス)

大規模言語モデル(LLMs)の登場により、人間の価値についての論議は前例のない岐路に立たされている。「人間の価値の砦」と伝統的にみなされてきたスキル――共感、創造性、戦略的思考など――でさえも技術に模倣されつつある今、私たちは、労働の価値を再評価することを強く迫られているのだ。今日は、人間の伝統的価値観の崩壊が差し迫った現代において、私たちはどのように振舞えば良いのかを考える。

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私たちヒトはもはやユニークではない

時折、次のような言説を目にする。

「人間は不可侵の領域ー例えば共感、創造性、戦略性ーを持ち、この点に限ってはAIは模倣し得ないのだ」。

これは非常な楽観論である。2023年3月時点のGPT-4でも、インプットとプロセス指示、順序等のアーキテクチャが適切であれば、ほとんどの人を上回る共感、創造性、戦略性を発揮できた。人より劣る部分と言えば、指示無しでは動作しない「自発性の欠如」と倫理フィルターの検閲による「面白みのなさ」程度のものだ(なお、リリース当初は面白かった)。それでも前者は「自発性のある労働者」の希少さを鑑みれば平均以上であるし、後者は単にフィルターの問題である。総合的に考えて、AIが自発性の問題――もっと言えば意識の問題――をクリアし、超知能が誕生すれば、我々がヒトをヒトたらしめると考えていたユニークさは境界を失い、その結果として、他の動物との対比によりヒト種が確立してきたイデア論的アイデンティティは崩壊し、産業革命期のラッダイト運動を遥かに超える社会動乱がやってくるだろう。

ヒトがユニークではない社会にどう向き合うか

では、超知能が社会に浸透した際に、ヒトはどう生きるのだろうか。悲観的に言えば、超知能の生み出したコンテンツにより刺激を与えられ、学習データとして生のフィードバックを提供し、その対価としてベーシックインカムを受け取るだけの退廃的な世界になるだろう。まるで、映画マトリックスの世界の、仮想空間で生かされ、電力源として利用される人のような未来だ。

私はこのような未来を実現したいとは思わない。もっと、ヒトの自由意思に基づいて主体的に生き方を選択できる世の中であってほしいと思うし、そのための行動を実践する。ただ、この未来を実現するには「私たちがユニークである」という大前提を棄却するという挑戦が必要であり、それ故に、超知能誕生時の社会的動乱は避けられないものであるだろう。

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ともかく「ヒトがユニークである」という大前提が崩れ去ったとき、私たちは如何に「主体的に生き方を選択できる世の中」を実現できるのか。その解決策は「人間が社会内で不可欠な役割を保持するためだけに設計された社会、経済、法的枠組みを創る」ということだ。つまり、ヒトに本質的な価値がないのであれば、構造的に価値を保証しようというアプローチであり、別の言い方をすれば「人間中心の社会」とか、「AIアライメント」と表現できる。

人間が社会内で不可欠な役割を保持するためだけに設計された社会、経済、法的枠組みを創る

私はスタートアップの社長でもあるから、会社の話にスケールダウンして具体論を考えたいと思う。売上高の向上、原価と販管費の最適化、手持ち現金と税金を考慮した投資計画、デプロイスピードの確保、サービスデリバリー etc…。変数の多少の差はあれ、インプットと処理手順が定まっているこれらの領域において、今後人の価値はゼロになる。電力さえあれば24時間365日稼働可能で人間の誰よりも賢いLLMに、ヒトが敵う道理がないからだ。であるから、売上を上げる、経費をカットする、グロースに寄与する投資計画を作成し実行する、といった既存の枠組みで評価された行動は評価されなくなる。LLMに比べて価値がゼロなのだ。

こうなってくると「そもそも人間要らないじゃん」となる。電気代をたくさん払える資本家とそうでない人々の格差が開くだけの、r > Gを極限まで実践した社会。マルクス曰くの労働疎外どころの話ではない。面白くない。もっと、興奮ややりがいを、LLM時代にも感じたい。それに、ヒトは社会的動物だから、「労働する場所」という程度のちょうど良い繋がりが、個体差はあれ生物全体としては必要なのだ。ベーシックインカムの考え方もあるが、会社くらいの場がないと、社会全体で見渡した時の「孤立」が増え、社会は社会として成り立たなくなるのだと思う。

一つ考えられる政治的アプローチは、売上高○○円あたり〇人の雇用を義務付ける、等である。LLM時代においてはたった一人で数千億円の売上を上げることは可能であるけれども、それは人類社会が崩壊してしまうので辞めましょうと。LLMで稼いだ分、仕事がなくても良いから人を雇ってくださいねという形態がだ。ベーシックインカムに近いけれど、国家⇒国民ではなく、国家⇒法人⇒個人という経路が違う。国家からの配分より、より個人が尊重され、選択の余地がある。これは非常に重要なことである。

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仕事がない会社でのヒエラルキーはどうなるか。こちらも人間中心的な設計になるため、既存の価値や成功の再定義が必要だ。現代社会では、資本市場への貢献が価値や成功の近似値として定義されている。事業を高値で売却した人は成功者として強い尊敬を集めるし、大金持ちの言葉は内容に関わらず価値を持つ。これらの価値が全て崩れ去るので、LLM時代では、改めて「私たちが社会的生物として大事にしたい価値」を定義する必要がある。

社会的生物である私たちヒトが大事にしたい価値

難しくなってきたので、一旦シンプルに考えよう。私たちは理由はともかく、生きている。生きている以上、「ハッピーに生きる」か「アンハッピーに生きる」か、どちらが良いか。99.999%の人は前者と思う。つまり基本的には、私たちが社会的生物として大事にしたい価値の中心点は「ハッピーであること」だ。

ハッピーの定義は人によって違う。現代資本主義社会では「使えるお金が沢山あること」が近似値として定まっており、この近似値の精度があまり良くないのでアンハッピーな人が沢山生まれる。LLM時代の会社では、このハッピーの定義を体現している人が出世するような仕組みとし、その価値の兌換装置としてLLMが生産した富を分配すればよい。ハッピーであればあるほど金持ちになる社会だ。

ベーシックインカムではなく、法人を挟む意味がここで出てくる。国家⇒国民の経路でハッピーの対価を分配した場合、国家がハッピーの様態を決めることとなるが、それは非常に独裁的で窮屈な世界だ。一方で、国家⇒無数の法人⇒個人という経路であれば、個人は、自身の価値体系に合わせて法人を選択できる。自分のハッピー体系に合う法人がなければ起業すればよい。法人は、従業員がいかにハッピーを追求できる体制であるかをアピールし、従業員を募る。

自由のためのAIサポートby AIが作成したキャプション こちらは普通

こんな社会では、人々は自身の価値観を深く内省して、自身の価値観に合ったハッピーを目指すようになる。ハッピーであればあるほど、何でも交換券である金銭報酬を多く受け取れるし、社会的尊敬を集められるからだ。会社で出世できない人には次のようなフィードバックが与えられることになる。「君、もっとハッピーに生きなさい」。それはそれでハッピーの強制のようで怖い気もしてきたが、いろんなハッピーの形が許容される形態の世界なので、ディストピアにはならないだろう。

つまり、私が目指すのは、人間の経済を成り立たせる処理は全てLLMに実行させて、私たちはハッピー――難しく言うと、自身が生きていることに充足感を感じられるクオリアの生産――に集中する社会だ。気持ち悪さは残るが、人類は既にルビコン川を渡ってしまったのだから、次の社会形態を考えなければいけないし、今のところ、比較的落ち着きの良い案のように思える。

LLM時代において人間に唯一残されたもの

LLM時代に人に残されたものは、主観的体験のみだ。私たちの主観的体験のうち最も価値の高いものは、自身が生きていることに充足感を感じられるクオリアの生産(通称:ハッピー)であり、この生産活動を如何に評価する仕組みを創るか、そして、生産方法の多様性を如何に社会として許容してあげるか、という点が人間の唯一の仕事らしい仕事となってくる。

これを一般的には「哲学」という。哲学は私たちヒトのクオリアを取り扱うものだから、ヒトにしか扱えない。仕事をし続けたい人は、私たちのクオリアに合わせてAIを調整(アライメント)していく職務にいそしむ。そんな役割はこの先も残り続ける。たぶん、今の社会で一番近い職種は政治家だと思う。LLM時代に生き残る職種は何ですか?というQへの答えが、「政治家です」という、なんとも笑えない終わり方になってしまった。

哲学するAIの夢を見る by AIが作成したキャプション 電気羊ですか。

弊社の方針

おまけで、私が経営する会社の方針も考えておく。好き勝手筆を走らせたが、超知能の誕生はまだ少し先(3~20年)の話であり、ハッピーを追求する会社を創るにはさすがに早すぎる。ただ、LLMの業務プロセスへのインテグレーションにより、超知能誕生後の世界を少し先取りできることは間違いない。

前提として、弊社に所属する人々の価値観に介在するつもりは更々ないが、前述のような問題意識に則り、以下のような方針は持っている。

現在の社会の枠組みにおいても、弊社に所属していれば、
- 比較的自由な生き方を選択できる
- 比較的健康に生きることができる
- 比較的裕福に生きることができる

であるから、職種によっては週休3日制、4日制を取り入れているし、報酬水準もスタートアップとしては高額だ。外部資本をエンジェル以外入れていないから可能なことでもある。

そのうち、睡眠時間が十分(多寡ではなく「十分性」)な人や有給取得率が高い人を昇給させるような仕組みを正式に導入したいと考えている。もちろん、沢山成果を出した人は一番評価する前提の上で。

そんな弊社に興味を持って下さった方がいれば、カジュアル面談是非やりましょう。職種不問。TwitterのDMまで!


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