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【インバウンド】「一杯のかけそば」にあらず:台湾人観光客「食事シェア」の理由

前回の記事で、福岡のラーメン店に入った台湾人観光客の一行が食事のシェアを店員にとがめられ、すぐに退店してしまったという出来事を取り上げました。今回は台湾人観光客が日本で食事をシェアしようとする理由、そしてラーメン店を例に、その背景にある日本食の人気ぶりについて述べてみたいと思います。

台湾人女性の投稿内容

まず、前回取り上げた出来事で、奥さんがGoogleマップに投稿したコメントは次のとおりです。
「当時は雨が降っていて、店内にもお客さんはいませんでした。(20歳以下は入店不可ということだったので)3歳の子どもを入れてくれないのはともかく、席が少なくて狭かったので、大人6人でラーメンを3杯頼んでシェアしようということになりました。それで女性3人は外で子どもを見ていて、男性3人が半分食べたところで交代しようとしたら、カウンターの向こうにいた女性がすごい顔をして『シェアはできないことになっています』と大声で怒鳴りつけてきました。私たちはびっくりして、ラーメンにははしをつけないまま店を出ました。男性陣は『あの2人、あそこで出してるラーメンの臭いみたいに嫌な顔してたねえ』と言ってました。本当に杓子定規で融通のきかない店…」
「臭い」に触れたのは、とんこつラーメンのお店だからでしょうね。
それはともかく、ここで注目したいのは「女性がすごい顔をして…大声で怒鳴りつけてきました」という部分です。おそらくこの店員の頭の中に浮かんだのは「一杯のかけそば」だったのではないでしょうか。「1人で1杯頼むお金もない貧乏な外国人客がシェアしようとしてるよ。あーあ、こんな客、早く追い出そうっと!」
ところが「貧乏」は違います。現在のレートではすでに、台湾で日本のラーメンを食べる方がずっと高くつくのですから。

「台湾一蘭」の販売価格

ここで、台湾に進出している日系ラーメンチェーン「一蘭」の価格を見てみます。台湾一蘭のウェブサイト(https://ichiran.com.tw/shop/Stores.aspx)によれば、一蘭は現在台湾で3店舗を展開中。メニューを見れば、「天然とんこつラーメン」は298台湾ドル(≒1300円)と、日本での販売価格890円を大幅に上回ります。ちなみに替え玉は60台湾ドル(≒260円)で、これも日本の210円より高くなっています。
台湾では日本食はラーメンであっても「高級品」に近い位置づけで、日本でのように頻繁に食べられるわけではないのですが、これ以外の日系ラーメン店の価格も軒並み日本より高くなっています(具体的な価格差については、皆さんも興味のあるところと思いますので、ラーメン店に限らず今後も取り上げていきます)。

台湾人が食事をシェアする理由

台湾で展開する日系飲食チェーンは(特に台北の平均的な地価は東京よりずっと高いので、価格を上げるほかないという事情もありますが)、こうした価格設定でもやっていけているのです。だから、日本に遊びに来た台湾人は「お金がない」どころではありません。日本のラーメン店の価格は彼らにとって、「物価が高い国だと思ってたけど、この程度?」と思えるほどに安いのです。
では、どうしてそれでも台湾人が日本で食事をシェアしようとするのか。それは食道楽の台湾人が、滞在中に少しでもいろんな日本食を食べたいと思っているからです(今回の福岡のケースでは「小さな子どもをずっと外に置いておきたくない」という気づかいもあったでしょう)。ちなみに、台湾人に台湾で食事をシェアする習慣があるかというと、全くありません。
今回の福岡のケースでも、コメント内容を見る限り、実は台湾人一行にもそれなりの言い分があることが分かります。まず、店内には他にお客さんがいなかったこと。そして、6人は一度にテーブルに座って食事をシェアしたのではなく、入れ代わり立ち代わり食べようとした(6人分のスペースを占有しているわけではなかった)こと。さらに外で雨も降っていれば、融通のきく台湾の飲食店なら、食事のシェアどころか、子どもの入店まで黙認してしまうことでしょう。
今回の場合、子どもの入店不可は法律上やむを得ないにしても、他にお客さんがいない状況で、食事のシェアにまで目くじらを立てて、外国人客に低評価のコメントをつけられる必要があったのか、その対応には検討の余地もあります。

外国人に「暗黙の了解」は通用しない

それでも食事のシェアを認めたくないなら、店頭に外国語で「いかなる場合であれ、シェアは認めていません」と掲示しておくのが望ましい対応です。日本式の「暗黙の了解」「空気を読む」は当然ながら外国人には通用しません。日本式の習慣を外国人に強いるのは、傲慢なだけで済むならまだしも、商売の面でも結局マイナスになります。
また、店舗スタッフには一度でいいから、「外国人客が食事をシェアするのは『お金がない』からではなくて、『せっかく来た日本で少しでもいろんな食べ物を味わって帰りたい』という気持ちの表れなんだ。だから、シェアしている外国人客がいても、つっけんどんな態度は決してとらず、ただ冷静に『シェア禁止』を指摘するだけでいい」と言い聞かせておくのもいいでしょう。別にお金はかかりません。日本が過去にアジア随一の経済大国だったからか、日本人の中には他のアジア人を軽く見るような態度を示す人もいます。
ですが、「一蘭」の例で触れたように、もはや日本の物価が一番高いという時期はとっくに過ぎているのです。将来性ある大事なお客様であるアジア諸国からの外国人客を店員にぞんざいに扱われ、自分の知らないところで低評価をつけられてしまっては、店側が損をするだけです。日本人や欧米人と同じように丁寧にもてなしていってほしいと思います。

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