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目指せ! 写真甲子園(第32話)開会式

 開会式なんだけど、これも大会特製のTシャツが配られてるの。これも以前は何色かの中から選べたそうだけど、今は白のみ。左胸に大会ロゴとその上に高校名がプリントされてるシンプルなもの。それでも高校写真部にとって憧れの白Tシャツとも呼ばれてるらしい。ここに出場しないともらえないものね。

 白だけになった経緯は色々あったらしいけど、関係者をTシャツの色で分けるためみたいで、
 
 ・ 地元のボランティア高校生は黄色
 ・小学生ボランティアは青
 ・地元ボランティアは赤かピンク
 ・大会スタッフは黒
 ・監督は緑
 
 こんな感じになってる。ホールで待機するのだけど、配布されたカメラを首に下げるように言われてる。やっぱ、宣伝も入ってるよね。タダで貸してもらえてるんだから、それぐらいはね。

 司会は地元の高校生。いかにも高校生の大会って感じ。まず大会歌を小学生のブラバンが演奏。
 
「すごいね、小学生のブラバンがあるなんて」
「冬が長いからね」
 
 演奏が終わると選手入場。これまた地元の高校生プラカードを持ってくれた上に、地元の小学生がエスコートしてくれるんだ。野川君がブロック代表旗を持ち入場。予めこの大会への意気込みとかのアンケートがあったけど、入場行進中に読み上げられてちょっと恥しい。

 ブロック代表旗はステージに登った時にスタッフに手渡されて、そこから選手紹介。会場の監督も紹介されて、そこで記念写真。それが済めばステージを降りて選手席に着席。南から順に入場して北海道代表が最後だったけど三十分ぐらいかかったかな。でも、なんか感激。入場が終わると開会宣言になったけど、これも地元の高校生。
 
「全国各ブロックの厳しい戦いを勝ち抜いてきた選手の皆さん・・・ここに全国高等学校写真選手権大会、写真甲子園の開会を宣言します」
 
 うん。堂々とした立派な開会宣言だ。開会宣言が終わると優勝旗の返還が行われ、実行委員長の挨拶になったんだけど、ここでトンデモナイ事が起ったんだ。実行委員長の挨拶自体は無難だったんだけど、
 
「本年は従来の十八の代表の他に、海外から二代表を招待しています。まずはアメリカ代表としてUS写真学校」
 
 なんだ、なんだ、そんなの聞いてないぞ。
 
「続いてヨーロッパ代表としてミュラー・カメラ技術学校」
 
 どうなってるんだと思ったけど、会場が明らかにザワついている。エミたちだって知らなかったし、監督席も不審顔にしか見えないもの。その後に審査員の紹介があり、審査委員長の挨拶もあったけど、動揺しているのが明らかにわかるぐらい。ここから選手宣誓があって、その後に高校生ボランティアの紹介があって退場。

 退場したら歓迎夕食会場に案内されたんだけど、監督は緊急ミーティング呼ばれて不在。どの代表も開会式であったハプニングについて話してて騒然とした雰囲気。エミたちもそうで、
 
「こんなサプライズってあり」
「臨時の監督会議はそのためだと思うけど」
 
 野川君もクビを捻ってたけど、
 
「アメリカ代表の監督はチャールズ・ロイドって言ってたけど、あのイーグルアイ・ロイドにしか見えなかったよ」
 
 尾崎さんも、
 
「ゲルンハルト・ミュラーって、あのミュラー風写真のミュラーじゃない」
 
 誰だって聞いたら、写真界の大物中の大物。日本で言えば西川流の総帥の辰巳先生に匹敵するぐらいの大御所だって。
 
「なんでそんな大物が写真甲子園の監督なんかに出て来るの」
「それを言ったら、うちだって麻吹先生だし」
 
 それはそうだけど。海外からだよ、監督の緊急ミーティングも長引いてるみたいだけど、
 
「なにもめてるのだろう」
「いろいろあるだろうけど、審査員が困ってるんじゃないだろうか」
 
 今回の審査委員長は池本先生だけど、麻吹先生は、
 
「池本ならお似合いかな」
 
 まあ、いつもの調子と聞き流してたけど、ロイド先生が現れ、ミュラー先生が現れると格がかなり違うらしい。
 
「そりゃそうだろ。たとえばだよ、辰巳先生がどこかの高校の監督をして出てくるようなものじゃないか」
 
 そうだよね。校内予選会だって、結局審査したのは麻吹先生と辰巳先生だったもの。あれも相当異様だったけど、今回も似たようなものか。こんなゴツすぎる監督が率いるチームの審査なんてやりたくないだろうな。そんなところにアメリカの連中が来たのよね。
 
「君、可愛いね」
「名前は」
「大会終ったらデートしない」
 
 こいつら軽すぎないか。フランクと言うかもしれないけど。そこにヨーロッパの連中まで来て、
 
「なんて、お美しいレディ。御一緒させてもらって宜しいですか」
「貴女にお会いできたのは、日本に来れた幸せです」
「リボンがとてもお似合いです」
 
 英会話もユッキー先生にかなり鍛えれてるから、それなりに出来るだけど、ちょっと訛ってて聞き取りづらい。野川君が如才なく、
 
「遠路はるばる日本へようこそ。明日からの大会での健闘をお祈りします」
 
 これぐらいで対応してくれたけど、なかなか手強そうだ。どちらも男ばかりだけど、ヨーロッパ代表はフランスとドイツとイタリア連合で良さそう。エミも他人のことを言えないかもしれないけど、英語がちょっと怪しい感じがする。
 
「それであいつら上手いの」
「ああ、たぶん。そうじゃなきゃ、ロイド先生や、ミュラー先生が率いて来ないよ。選り抜きのスペシャル・チームじゃないかな」
 
 そっか、あの連中は予選なんてないものね。そんなところにやっと麻吹先生が戻って来られて、
 
「おっ、盛り上がってるな。おもしろくなって来たじゃない」
「どうなったのですか」
「どうもなりゃしないよ。アイツらも出場するってことだけさ」
 
 どうみても動揺の色がないのが麻吹先生らしいけど、
 
「先生、変装は?」
「必要なくなった」
 
 そうなると有名人だから挨拶の嵐。宿舎が同じ陸奥高校の監督さんに教えてもらったんだけど。
 
「君たちの監督があの麻吹先生だったとは。名前が同じだったから、ひょっとしてと思ってはいたけど、まさかそんなことは・・・」
 
 すごい変装で、どうみても厚化粧のおばさんにしか見えないものね。髪だって、おばさんパーマのウィッグだし。ちなみに普段の麻吹先生はほんの薄化粧。してるかどうかもわからないぐらいで、野川君なんてスッピンと思い込んでたぐらい。

 緊急ミーティングは突然の海外代表の出場への質問が飛びまくったらしい。そりゃそうなるよね。大会規定にはなにも書かれてなかったもの。実行委員長はひたすら。
 
『決定事項』
 
 これで押しまくったぐらいで良さそう。さらに監督以外に通訳の同行を求められてこれも紛糾。ミュラー・カメラ技術学校なんか三人も要求したそうなんだ。この通訳だけど自分たちが連れてきた者を使いたって話だったんだよ。そうなると実質的にコーチが増えるようなものじゃないかって。

 ロイド先生とミュラー先生の意見も聞いたそうだけど、この条件だから参加したと言いだして、
 
『日本の写真のレベルが少しでも上がる機会として喜んでもらいたい。君たちも良い勉強になるはずだ』
 
 完全な上から目線だったんだって。上からったって、監督クラスからしたら雲の上の人だから、気まずい雰囲気だけ流れたって。さらにもめだしたのは審査員が辞退したいって言いだしたみたい。野川君の予想通り、ロイド先生や、ミュラー先生の前で審査するのが嫌なんだろうな。

 麻吹先生は中座してたみたいだけど、これは変装を落としに行ってたで良さそう。煮詰まった緊急ミーティングに戻ると、
 
『面白いじゃないか。世界三大メソドの高校生での対決なんてワクワクするよ、通訳ぐらい付けてやれよ。それぐらいしないと勝負にもならんだろ』
 
 さすがは麻吹先生、さらに上から目線だ。
 
『審査員も今のままでイイだろ。別にロイド先生とミュラー先生の写真の審査をやるのじゃなくて、たかがその生徒の写真の審査だ。どんな結果になろうともわたしは従うよ』
 
 陸奥高校の監督さんもビックリしたみたいだけど、もっとビックリしたのはロイド先生とミュラー先生みたいで、
 
『あ、あなたは・・・』
『久しぶりだね。こんなところで会えるとは人生は楽しいな。わたしは勝つ気で生徒を鍛え上げて来てる。せいぜい頑張りな。もうミーティングは良いだろう。腹も減ったし、生徒も待っている』
 
 いつもながらの麻吹先生だったで良さそう。

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