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寺尾聰のアルバム「Reflections」について


〜1981年、このアルバムがリリースされた頃を振り返る〜


当時、私は7歳になるかなったかくらいだった。
テレビでこのアルバムの収録曲である「ルビーの指環」の大ヒットに触れ、ぜひ寺尾聰のカセットテープが欲しいと思った。
当時は録音された音楽を店頭で売る手段として、アナログレコードの他にカセットテープも一般的だった。
父とレコード店へ行き、この寺尾聰のアルバムのカセットテープを「ルビーの指環」が収録されているという理由で買ってもらった。
初めてこのアルバムを聴いた時、1曲目の「HABANA EXPRESS」の冒頭のパーカッションのサウンドがどこか遠くから聴こえてくるような感じがしたのを覚えている。
歌われている世界についてはほとんど理解のほかだったが、このアルバムを大好きになったのはひとえに音楽の力だろう。
演奏の素晴らしさ、アレンジの多彩さ、寺尾聰のヴォーカル。
当時体が弱かった私の床のかたわらにはいつもカセットプレイヤーがあり、このアルバムがあった。
ライナーノーツに書いてあった文章は理解できなかったが、文の結びに「やがて世界中の男性が嫉妬する日が来るだろう。(略)寺尾聰さん、あなたに…。」というようなことが書いてあって、どうしてなのだろうと首をひねったことを思い出す。
そして私は、そのライナーノーツの印刷してある紙の角の部分を小さく切り取って飲みこんだ。
このアルバムが自分の一部になればいいのにと思ってそうしたのだった。


〜2018年、”Reflections”と再会して感じたこと〜


このアルバムを再聴する機会を得たのはSpotifyでだった。
それまでに買い戻したいとは思っていたが、なかなか実行するには至っていなかった。
Spotifyで聴き直した時、「HABANA EXPRESS」のもつフュージョン色の強さと、
難易度の高そうなアレンジにびっくりした。
演奏も素晴らしい。
7歳の頃も大好きな曲と演奏ではあったのだが、そういう視点ではとらえていなかった。
私は井上鑑の「Ostinato」という2017年のアルバムを、「もしかしたら寺尾聰の「Reflections」みたいな感じかもしれない」という期待のもとになんの前情報もなしに聴いた。
そうしたらものすごく独特なサウンドと詞世界がそこにはあり、メロディもすっと覚えてくちずさめるような感じではなかった。
「Ostinato」から数ヶ月経って「Reflections」と再会した時、「ああ、井上さんのサウンドの独自さがこのアルバムの魅力を高め、唯一無二のものにしてるんだな」と強く感じた。
このブログでReflectionsについて書こうとして、フリー百科事典ウィキペディアを参照したところ、「作曲は全て寺尾聰」という情報に接してとても驚いた。
このアルバムに再会して、もう一つ衝撃を受けたのは、4曲目に収録されている「二季物語」のことだ。
この曲に登場する女性は冬になって死んでしまっていることに、自分が大人になって初めて気づいたのだ。
「あなたは二度と 俺を訪ねはしない / 眠りの汽車で旅に出た」
とある。
この寒くて暗い冬の描写の後、長い間奏をへて夏の回想へと時が戻る。
同じメロディで綴られる夏の間、たしかにその女性は生きていた。
なんと美しくつらい曲だろう。

いつ聴けなくなるかわからない(自分のおこづかいが続くかという意味で)サブスクリプションより、私はCDを買う。
そしてあのライナーノーツがそこに再録されていることを祈ろう。
そのきっかけを与えてくれたSpotifyに感謝しよう。

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