見出し画像

新彊ウイグルの強制労働の根拠を検証する

新彊ウイグルの強制労働を信じる人は多いが、その証拠を提示する人はいない。マスコミも一切の検証も無く批判を行っているが、根拠を挙げている記事は無い。結局、自分で調べるしかない訳だが、この問題はまず米国税関(CBP)が新彊の綿製品の輸入を停止した事が発端で、その根拠が米国労働省のこのページ

画像1

fig.1 米国労働省国際労働局(ILAB)のレポート

「意思に反して:新彊の状況」というレポートであるが、米労働省が直接調査した訳ではなく、以下の引用文献を根拠としている。

画像2

fig.2 米国労働省国際労働局(ILAB)のレポートの引用文献

この中で「Uyghurs for sale」は強制労働を指摘するどころか、中国の就業支援の手厚さを示す内容であった事は既にnoteの記事(新彊ウイグルの強制労働問題の根拠とされる資料を調べてみたら・・)で書いた通りである。そこで今回は、米国が新疆ウイグル批判の根拠とするAdrian Zenzの9、10の資料を検証する事にした。

【目次】
1.「Beyond the camps」の概要
2.強制労働の「疑い」の主要なポイント
 1) 雇用の義務付け
 2) 準(半)軍事化管理
 3) 半軍事管理の事例とされたEagle Textile Company
 4) Huafuの強制労働疑惑
3.「Beyond the camps」のまとめ
4.「Xinjiang's New Slavery」の概要

1.「Beyond the camps」の概要
 本レポートは中国の貧困撲滅政策について説明を行い、強制度の強い順に以下の3つのフローが有るとしている。尚、VTICは職業技能教育訓練センターであり、Zenz氏は収容所だとしている施設である。
① フロー1:VTIC抑留->キャンプ工場または近くの工業団地での強制労働->本拠地(または他の工業用地)の地元の衛星工場での強制労働
② フロー2:農村部の余剰労働者->集中トレーニング->雇用
③ 村の作業チーム->衛星工場と保育施設を設立する->働くことができるすべての人が訓練と仕事に従事する(特に女性)
上記のフロー自体は国や自治政府による就業支援であり、むしろ歓迎されるべきことである。従って、Zenzしはいかなる点を強制性の証拠としているかがポイントになるが、その観点で読み進めてどうも根拠が薄いなと感じながら辿り着いた結論をみて呆れたのだが、それがこの文章。
"Before long, it will be up to Chinese companies, and to China as a whole nation, to prove to other countries that their exported products do not involve any form of coerced ethnic minority labor. Until Xinjiang’s extrajudicial internment camp network and related factories are fully shut down, and all forms of skills training and related employment in the region are made completely voluntary, this will be difficult or impossible to prove."
強制労働が無い事を証明する事は中国の企業や国民次第で、これを証明する事は難しいという事で、結局この文章の内容は「疑い」でしかないという事を自ら白状している。

2.強制労働の「疑い」の主要なポイント
 このレポートは強制労働の「事実」を示すものではなく、「疑い」を示すものである事が分かったが、ではその「疑い」はどの程度信憑性の有るものだろうか。以下にそのポイントを示す。

1) 雇用の義務付け
 「働くことができるすべての人が訓練を受け、雇用されなければならないことが義務付けられています」という文章が有り、これは強制性を主張しているのかも分からないが、そこで引用されている文章を確認してみた。この文章は第13回新疆ウイグル自治区人民代表大会の報告書であり、経済、テロ対策、雇用、社会保障などの政策が述べられているが、その中で上記の記載は見つけられなかった。その代わり、以下の通り、「貧困層の内発的なモチベーション」という記述も見られ、自治政府の姿勢が確認できる。また、新疆の自由も謳われており、毎度の事ながらASPIやZenz氏はなぜ政府資料を引用するのかと疑問を感じてしまう。

画像3

fig.3 第13回新疆ウイグル自治区人民代表大会の報告書(内発的なモチベーション)

画像4

fig.4 第13回新疆ウイグル自治区人民代表大会の報告書(新彊の自由)

2) 準(半)軍事化管理
 本レポートには『成功の秘訣は、その「準軍事化管理」です』という記述が有る。準軍事化管理により強制労働を実現しているという事なのだと思うが、引用資料を見てみると「同社の65人の管理および技術マネージャーのうち、70%が軍人で、90%が上級マネージャーです。同社は軍事文化を企業の多くの管理リンクに統合しています。最初に就職した従業員は、1週間の軍事訓練と1週間の企業文化訓練に参加する必要があります」という文章が有り、この部分を指しているのではと思う。しかし、この文章だけで強制労働の証拠とするには根拠が薄過ぎる。また、文章の後半にはこの会社の「化粧が薄く、会話が少し恥ずかしがり屋のRezia Kadirさん(29歳)」の生活水準が向上した事例も紹介されている。

3) 半軍事管理の事例とされたEagle Textile Company
 フロー2の事例としてEagle Textile Companyという会社が取り上げられており、半軍事管理と労働者を会社に拘禁していると批判している。そして、このZenz氏の批判により、この会社は取引が停止され従業員を解雇する事になり、その損害賠償を求める為にZenz氏を訴えた。その経緯を会社の社長自身が語っているのがこの記事と動画である。この社長曰く、卒業したての従業員の規律の為には厳しい管理は必要と述べている。また、従業員は自由に外出できると言っている。

画像5

fig.5 強制労働はデマとしてZenz氏を訴えた新彊の繊維工場の経営者

4) Huafuの強制労働疑惑
 Zenz氏はAdidasと取引の有る新彊のHuafuという企業が強制労働の疑いが有るとしているが、自ら強制労働は無いとするAdidasの声明を掲載しておきながら、それを上回る証拠は提示していない。

画像6

fig. 6 Adidasの強制労働調査結果

3.「Beyond the camps」のまとめ
 本レポートは著者が自ら証明はできないと言っている通り、新疆の強制労働の「疑い」でしかない。また、新疆の貧困対策として政策を実行する際に、より多くの人を対象にしようとした際に自発性とのせめぎ合いが出て来る事は当然であり、その点をZenz氏は強制労働と呼んでいる訳であるが、Zenz氏の示す根拠は証拠としては弱く、逆に新疆の貧困対策が成功している点、実際に強制労働を訴える人がいない点、逆にZenz氏を訴えようとする新彊の人が複数いる事から、強制労働が有ると認めるのは困難だと考える。

4.「Xinjiang's New Slavery」の概要
 この記事は上記の「Beyond the camps」と基本的には同じ内容である。目新しい点としては、VWやBCI、H&M、ユニクロ、無印について言及しているが、これらの企業も強制労働は無いと回答しており、この記事の中でもそれを上回る強制労働の証拠は示されない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?