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新疆ウイグル自治区のテロ対策

はじめに

 ウイグルと言えば人権侵害やジェノサイドと言う人がいるしメディアでもその様な情報が溢れており、そう言う事も有るのかなと思う人も多いかも知れない。しかし、客観的に被害を証明できる人権侵害やジェノサイドの被害者は未だにいない。数百万人も強制収容されていると言われているのにである。
 事実に基づく思考が出来ている人はこの時点で違和感を感じるだろう。そこで関連する資料を徹底的に調べた結果、人権侵害等の根拠とされる事実はどこにも書かれていない事が分かった。資料の多くは根拠の薄い推測であったり、客観性の無い証言を基に「可能性が有る」「疑われる」と書かれた論文・レポートであり、これらの情報が米国政府やメディアに拡散される間に、いつの間にか疑いが事実であるかのように広がっていったと言う事である。
 しかし、火の無い所に煙は出ないという人がいるかも知れない。それはある意味正しいのだが、新疆ではテロが多発しており、その要因である分離主義や貧困、人口、教育、宗教と言った問題に対して中国政府は大規模な政策を適用しており、これが徹底的な対策であるが故に悪意をもって逆の解釈をして、雇用対策を強制労働、教育対策を同一化、家族計画を強制避妊などと煽り、中国批判の材料としていたという事が新疆人権侵害批判の実相と推測している(Table. 1)。

Table1  米国による新疆批判の構造

 この様に新疆問題に関しては誤解が多く、一方でマスコミや学者が本問題に体系的な情報を提供しないため、一介のサラリーマンがネット情報を基に、機械翻訳も活用しながら本問題を整理してみた。

 目次

  1. 概要

  2. 第2回中央新疆労働フォーラム

  3. テロ対策  (「ジェノサイド」)

Appendix
1. テロ一覧

今回はテロ対策までとし、以下の章は順次記事化予定。
 4. 雇用対策  (「強制労働」)
 5. 教育対策  (「同化政策」)
 6. 人口対策  (「強制避妊」)
 7. 宗教対策  (「宗教弾圧」)
 8. 結論

1.概要

 新疆においては数百年も前から分離主義勢力の活動が有った訳だが、特にここ数十年で東トルキスタン勢力によるテロが頻発していた。そこで、この状況を改善すべく2014年に北京で「第2回中央新疆労働フォーラム」が開催された。このフォーラムにおいては、新疆のテロ対策や関連する政策の方向性について習近平、李克強らから演説が有り、その後この方向性は政府や地方政府の各レベルにて具体的な政策に落とし込まれ成果を上げていった。

 一方で、2017年頃から主に米国が、新疆ウイグル自治区に関して人権侵害や強制労働が有ると攻撃を始めた。新疆におけるテロとの戦いは以前から続いていたが、この新疆批判が中国と敵対するトランプ政権の発足と同時期に激しくなってきたのである(Fig. 1)。その新疆批判の特徴は、根拠とされるシンクタンクや学者が米国から支援を受けていたり、資料に客観的な事実が無いなど主張に信憑性が乏しかったりする事であるが、特に中国の徹底した新疆政策を悪意に解釈し「強制云々」と批判しているケースが多い。代表的な例では、集団就職の移動用に列車を仕立てる事を、強制的に工場に送り込む強制労働だと言って批判しているようなケースである。

Fig. 1 米国の新疆批判年表

 そこで本noteでは、新疆のテロ対策の方向性となる第2回中央新疆労働シンポジウムを解説した後に、各対策項目毎に当時の問題点を概観し、次にシンポジウムで示された方向性、具体的な政策、及びその結果について整理する。そして、これらの内容と米国の主張を対比し、米国の新疆批判に妥当性が無い事を解説する。

  1. 問題点 :2010~2014年頃の新疆の状況、問題点の整理

  2. 方針・政策 :第2回中央新疆労働シンポジウムで示された方針と政策

  3. 結果 :2020年頃の状況から政策の結果を整理

  4. 米国の主張 :米国の主張を対比させ、その妥当性を確認

2.第2回中央新疆労働フォーラム

 新疆の安定に重要な時期である2014年4月に習近平は新疆を訪れ[1]、その後2014年5月28日、29日に北京にて第2回中央新疆労働フォーラムが開催された[2]。本フォーラムでは習近平、李克強が演説を行い、中国共産党中央委員会政治局常務委員会委員の兪正生氏が会議の終わりにスピーチを行った[3]。その他、張徳江氏、劉雲山氏、王岐山氏、張高麗氏が会議に出席している(Fig. 2)。

Fig.2 第2回中央新疆労働フォーラム(出典:[3])

 この会議は、2010年の中央新疆工作フォーラム以来の活動を全面的に総括し、新疆の状況を科学的に分析し、新疆工作の指導思想、基本的要求、主な方向を明らかにする目的で開かれた。習近平と李克強はそれぞれ問題に対する解決策の方向性を示し、兪正生は地方自治体に方向性を具体化する計画策定と速やかな実行を求めた。

2.1. 習近平の演説

テロ
 社会の安定と長期的な安定が新疆の取り組みの全体的な目標であると強調した。現在の闘争の焦点として暴力的テロ活動を厳しく取り締まり、社会主義法の支配の旗を高く掲げ、集団予防と集団統治の早期警戒能力を精力的に向上させ、鉄壁を築き網を構築する必要がある。
教育
 「バイリンガル」教育を推進し、様々な民族が互いに溶け込む社会構造とコミュニティ環境の構築を促進する必要がある。新疆の内陸部で教育を受ける少数民族の数を秩序正しく拡大し、雇用と居住の規模を拡大することで、各民族の人々が共同生産、生活、労働、学習において理解を深め、感情を高めることができる。
宗教
 宗教活動をしっかりと行い、宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に指導し、経済社会発展促進における宗教者と宗教信者の積極的な役割を十分に発揮しなければならないと強調した。宗教問題に対処するための基本原則は、合法を保護し、違法を抑制し、過激主義を抑制し、浸透に抵抗し、犯罪と戦うことです。
雇用
 雇用を第一に考え、雇用可能性を高め、各民族の人民が秩序をもって就職のために都市に入り、最寄りの地域で職を見つけ、故郷に戻って起業するよう指導しなければならない。適切な年齢の子どもたちが学校で学び、生活し、成長できるよう、教育を優先し、優れた人材を育成し、就学率を高めることを全面的に主張しなければなりません。
 新疆へのカウンターパート支援は国家戦略であり、新疆へのカウンターパート支援を国家団結を強化する事業とするためには長期にわたって継続しなければならない。

2.2. 李克強の演説

雇用
 新疆で良い仕事をし、発展と安定の関係に適切に対処することが特に重要だと指摘した。新疆ウイグル自治区における最大の生計問題は雇用であり、新疆のすべての企業と投資プロジェクトは地元の労働力の吸収を重視しなければならない。内陸企業を新疆に秩序的に移転させ、配置を集中させ、発展を集中させ、雇用の集中化、標準化を実現し、民族手工芸品を積極的に発展させ、新疆人民の内陸部での就労を奨励する中央政府は政策面で強力かつ特別な支援を行っています。
教育
 教育の改善は新疆の経済発展、社会の進歩、長期安定を実現するための根本戦略であり、雇用の拡大と民生の改善の基礎でもある。義務教育と各レベルの教育をしっかりと行い、「バイリンガル」教育と職業教育を積極的に推進し、新疆の各民族人民、特に若者が国家共通語を使えるよう支援する必要がある。
全体
 全国を動員して新疆へのカウンターパート支援をさらに推進し、援助資金を主に民生と草の根レベルに活用します。

2.3. 兪正生の演説

 中央政府が策定した「新疆の社会安定の更なる維持と長期平和と安全の実現に関する意見」では、新疆の活動の指導思想、基本原則、目標と任務、​​主な方向、政策と措置がさらに明確になった。すべての地方自治体と各部門がそれぞれの現実を踏まえて具体的な実施計画を速やかに策定し実施すべき。

3.テロ対策

3.1. 問題点

① テロ
 新疆は以前から他国と国境を接し中央からの統治も届きにくい環境の為、分離主義が力を持ち易く、テロリストと過激派勢力が破壊活動を行って来た。その結果、不完全な統計ではあるが、1990年から2016年末までに、新疆ウイグル自治区などで数千件の暴力テロ事件が起き、多数の無実の人々と数百人の警察官が殺害された[4]。テロの対象は一般人だけでなく、宗教関係者、政府機関など多岐にわたる。その事例は以下である[5]。

  • 2009 年 7 月 5 日、ウルムチで起きた暴行、破壊、略奪、放火などが発生した事件で、197 人が死亡し、数千人が負傷した。

  • 2014年7月30日、新疆イスラム協会とカシュガルのイド・カー・モスクの副会長である74歳のムラー・ジュマ・タイル氏が、朝の礼拝を主宰した後、3人のテロリストによって惨殺された。

  • 2013年6月26日には、トルファン県山山県楽琴鎮の警察署、特別巡回中隊、市政府、建設現場が複数のテロリストに連続襲撃され、24人が死亡、25人が負傷した。

 また、2019年にCGTNが新疆のテロに関する動画を公開しており、その中にテロの現場の映像が含まれている[6]。(動画は閲覧注意)

Fig.3  新疆における実際のテロの現場

その他のテロの事例はあまりに多いので、Appendixにまとめて記載しておく。

②テロリスト勢力
 これらのテロを起こしたのはETIMという団体であるが、この団体は政教一致の「東トルキスタン国」の独立を目指すテロ組織で、1997年にハサン・マフスームらが逃亡先のアフガニスタンにおいて組織し、2002年9月11日に国連によりテロ組織と認定されている。また、2013年11月にトルキスタン・イスラム党(Turkistan Islamic Party; TIP)を名乗る団体が、北京市天安門前で発生した車両突入・炎上事案を「聖戦」と評価し、今後人民大会堂を含む中国国内の複数の地点で襲撃活動を行うとする声明を出したが、中国政府はこの声明を出したTIPは、ETIMと同一組織であるとしている[7]。

 ETIMは「東トルキスタン」分離主義勢力の中で「最も暴力的で危険」だとされる。また、この組織はアフガニスタンとパキスタンの国境沿いに拠点を置いていた[8]。そして、戦闘員は「アルカイダ」組織、またはタリバンから武装訓練を受けているという。特にGlobalTimesではシリアのアルカイダと連携するETIMの記事が見られる。例えば『新疆のテロリスト、シリア、トルコで訓練と支援を発見』など [9][10][11]。

 このような暴力的な行為を行う勢力に加えて、プロパガンダを担う機関が「世界ウイグル会議」(WUC)である[12]。「世界ウイグル会議」は、その活動マニフェストで、「まず第一に、強固な組織基盤を確立し、『東トルキスタン』問題の国際化を促進するためにあらゆる努力を払わなければならない」と宣言している[5]。

 また、 WUCは2008 年に全米民主主義基金(NED)から 146,000 米ドル受け取り、一部の外国の指導者 (日本の安倍晋三元首相など) や影響力のある国際政治家 (国連のコフィ・アナン元事務総長など)、アメリカ大統領をはじめとする政治家が「東トルキスタン」分子と何度も会談している。加えて、WUCを支援している非政府組織は約50団体あり、具体的には「アムネスティ・インターナショナル」、「国境なき人権」、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」などである[5]。特にNEDの支援に関しては、「中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移 [13]」 が詳しい。

 WUCの2代目の総裁はラビア・カーディルであるが、GlobalTimesによると前述の197人の犠牲者を出したテロの背後に彼女が率いるWUCの関与が有ったと述べている[14]。

3.2. 方針・政策

 この様に頻発したテロに対して中国政府が取ったテロ対策は大きく二つ有り、「Strike Hard」と呼ばれる短期的で強力なテロ取締りと、ウイグル族の教育や雇用改善による予防的なテロリスト勢力との隔絶政策が有る。後者は雇用、教育など、章を分けて以降に説明を行う。

① 法の支配
 テロ対策の基本的な考え方は法の支配である。法的思考を堅持し、法的手法を適用することは、新疆がテロと過激主義と闘うための重要な原則であり、具体的な法規は「中華人民共和国憲法」、「中華人民共和国刑法」、「中華人民共和国刑事訴訟法」、「中華人民共和国国家安全法」、「テロ対策法」、「新疆ウイグル自治区過激化除去条例」などである[15]。

② 再教育
 中国政府は、過激派勢力が人々の宗教的信念を利用して宗教過激主義を広めていると考えている。そこで、宗教的過激主義によって軽微な法律違反に関与した人々に体系的な教育と訓練を提供する職業センターを設立し、宗教的過激主義の温床根絶を狙っている。

職業教育訓練センターに入る人々は、以下の 3 つのカテゴリーに分けられる。

  1. テロ活動または過激派活動への参加を扇動、強制、または誘導された学生、または軽微な状況でテロ活動または過激派活動に参加する学生。

  2. テロ活動や過激派活動への参加を扇動、強制、誘導されている、あるいはテロ活動や過激派活動に参加している人々

  3. 暴力的テロや過激派犯罪で有罪判決を受け、刑を宣告された人々

 これらの人々は、テロ対策法の第 29 条および第 30 条に従って、職業訓練センターで職業関連の教育を受けることになる。

職業訓練センターでの教育内容は以下の通り。

  1. 中国語
    標準的な中国語の話し言葉と書き言葉を学び、科学技術・職業スキルを習得し、他の場所で仕事を探し、他民族グループとコミュニケーションを取り、現代社会のの生活によりよく適応する為に活用する。また、独自の民族の話し言葉や書き言葉を使用する権利が尊重される。

  2. 法律
    教育訓練センターは法律コースを提供しており、研修生は学習を通じて、自分たちの公民権と義務についての理解を深める。また、これらの権利と義務に対して他の人たちと同様の権利があることを認識し、憲法と法律を遵守し、それに従って行動しなければならないことを受け入れるようになる。

  3. 職業技能
    職業技能の不足や雇用上の困難を改善するために、職業技能訓練プログラムが提供されている。地元の需要と雇用機会に基づいて、提供されるコースには、縫製、食品加工、電子製品の組み立て、植字と印刷、理美容サービス、電子商取引、自動車のメンテナンスと修理、インテリア デザインと装飾、家畜の飼育、ポミカルチャー、セラピーマッサージ、家事サービス、手工芸品、フラワーアレンジメント、敷物織り、絵画、そして音楽やダンスなどの舞台芸術などが有る。

  4. 脱過激化
    法律や規制、民族・宗教問題に関する政策、宗教知識を段階的に教え、テロリズムや宗教過激主義による被害を明らかにすることで、研修生に国家の自由政策を完全かつ正確に理解させる。

③ 警備能力

 GlobalTimesなどによると、新疆地方政府はテロに対する警備増強を以下の様に行っている。

  • 2012年、新疆ウイグル自治区は8,000人以上の公安警察官を新たに募集し、農村(コミュニティ)警察署を充実させ、各村に「警官1人、協力警官3人、民兵6人」の基準に従って、草の根の警官を配備した[5]。

  • 中国北西部の新疆ウイグル自治区にあるウルムチは、住宅コミュニティを保護するために初めて元兵士3,000人を募集する予定[16]。

  • 地域教育省の声明によると、すべての小中学校・幼稚園には、2011年秋までに少なくとも4人の警備員を配置する必要がある[17]。

また、テロ対策にビッグデータや人工知能などの新技術の利用も呼びかけられている[18]。

④ 海外テロ組織
 中央および南アジアで活動するテロリストに対応する為に上海協力機構の役割を促進する必要があるが、「アフガニスタン、中国、パキスタン、タジキスタン」4カ国による対テロ対策協力調整メカニズム(QCCM)が2016年8月3日に締結された[19]。これにより、対テロ状況分析、手がかり検証、情報共有、対テロ能力構築、対テロ共同訓練、人材訓練に関して調整し、相互支援を提供する事でテロ防止を狙っている。

⑤ 対プロパガンダ
 Fig.1に示す通り、2016年頃から米国が資金援助する勢力による新疆人権侵害プロパガンダが増加してきている。中国政府はこれに逐次反論しているものの(例えば「中国関連の人権問題に関するさまざまな謬論と事実・真相」、中国駐日本国大使館 [20])、十分な効果が得られているとは言えない。

3.3. 結果

 上述した直接的及び予防的なテロ対策により、新疆では2016年12月以降テロ攻撃は発生していない[21]。次に、それぞれの結果について詳細に見ていく。
① 法の支配、警備能力など
テロの撲滅は厳しい警備や取締り、裁判での厳格な裁判の結果と考えられるが、具体的な事例は以下である。

警備

  • 中国新疆ウイグル自治区では、テロ対策のために高級な監視技術が普及している。HikvisionとDahuaなどのテクノロジー企業が、顔認識や大規模データ分析などの監視製品とサービスを提供している。Hikvisionは2017年4月にウルムチハイテクゾーン安全都市プロジェクトに500万元の投資を行い、30,000台のカメラを設置した[22]。

  • 新疆自治区は、テロリズム、暴力、宗教極端主義、分離主義、噂、偽ニュース、侮辱、中傷などを含む、個人がインターネット上で拡散している違法な極端なコンテンツを7件発見した[23]。

取締り

  • 中国新疆ウイグル自治区は、1年間の強力な取り締まりの中で181のテログループを破綻させた。専門家はテロと宗教的な習慣を区別し、極端な行動を抑制し、極端主義の浸透を防ぐことを提案した。公安当局は、計画段階で96.2%のテログループを阻止し、112人の犯罪容疑者が警察に降伏した[24]。

  • 中国東北部の辽宁省沈阳市で、警察が新疆ウイグル自治区からのテロリストと思われる4人を射殺した。4人はナイフや道具を持っていて、警察がドアをノックしたときに攻撃しようとした。警察は特殊武器と戦術チームを呼び出し、2人の警官が窓から入ったとき2人が大剣で攻撃しようとした。警察は警告した後、近距離から撃った[25]。

裁判

  • 中国新疆ウイグル自治区の地方裁判所は、テロに関与した45人を4年から終身刑までの刑期を宣告した。18人の人身売買者は2百万元(312,000ドル)を不正収入として、7年から15年の刑期を受けた。5人はアフガニスタンとタジキスタンの国境でテロ組織「東トルキスタンイスラム運動」と「タリバン」に参加しようとして逮捕され、8年から10年の刑期を受けた。3人は中国からトルコへ飛行し、ジハードに参加しようとして10年から15年の刑期を受けた[26]。

② 再教育
 中国政府発行の「全文:新疆における職業教育と訓練」[15] によると、新疆における再教育によりテロリズムと宗教的過激主義が育つ土壌と状況を排除し、不法行為や犯罪行為を犯した人々を更生させ、基本的公民権を保護することに大きく成功したとある。また、宗教過激主義は効果的に排除され、研修生のほとんどは、宗教的過激主義が自分たちの宗教の倒錯であることを認識でき、その浸透に抵抗する能力が著しく向上しているとの事。

 また、再教育センターは2019年10月に研修生全員が修了したという事である。その研修生の一人の発言を以下に示すが、脱過激化が成功している事が分かる[27]。

『以前の私は宗教的過激主義の影響を受けていました。違法な宗教活動に参加したり、「異教徒を殺す」ことさえしたかったのです。仕事を探したり、畑で働いたりしませんでした。お金がなかったら、両親にお金をせびって、もしお金をくれなかったら、虐待したり暴力をふるったりするでしょう。父は髪が真っ白になるほど心配し、母はよく涙を流していました。職業教育訓練センターでの学習を通じて、私の中国語能力は大幅に向上し、自動車整備技術を習得し、特殊な技能を習得し、宗教的過激思想の害を認識し、過激派の醜い顔も認識し、彼らの精神支配を取り除きました。彼らは私たちを利用して、私たちと他の民族との間に紛争、不和、相互憎悪を引き起こし、私たちを人間から悪魔に変えるだけです』

③ 海外テロ組織
 テロ集団であるETIMは、その後中国国内での暴力行為を行った形跡は無く、現在は数千人程度の勢力でシリア・イドリブ土着の反体制派組織として活動しているようである[28][29][30]。

 ETIMはシリアのアルカイーダ系の反体制派組織であるヌスラ戦線の支援を受けイドリブで活動を行っていた。但し、個人的にはシリア内戦を2016年頃からウォッチしていたが、その名前を目にする事は殆ど無かったので、当然ながら中国に対する活動の報告も見た事が無い。イドリブは反体制派のイスラム過激派が支配する地域であるが、ETIMは厳しい取り締まりの有る中国を家族と共に逃れ、安住の地をイドリブに見つけたと言う事だろう。

 尚、マイク・ポンペオ米国務長官は2020年にETIMを外国テロ組織(FTO)の指定から除外した。中国と対立するテロ組織の指定解除とは分かりやすい行動だが、一方でその理由は「10年以上にわたり、ETIMが存在を続けているという確たる証拠がない」と言う事で、ETIMが中国に対する攻撃を行っていない事も裏付けている。

3.4. 米国の主張

 ここまで見てきたように、分離主義勢力による苛烈なテロが発生した事から中国政府は厳しい措置を行い、その結果テロを撲滅させる事に成功した。しかし、この厳しい措置をテロ勢力や米国等の中国弱体化を狙う勢力は悪意をもって解釈し、弾圧や強制収容、ジェノサイドというプロパガンダを行ってきた。ここまで書いてきた様に中国政府のテロ対策はテロ撲滅という目的に始まり、対策・結果という一貫性の有るストーリーと事実が有るが、以下では反中国政府の主張にストーリーと事実が無い事を示し、悪意の有るプロパガンダである事を解説していく。

① ジェノサイド
ポンペオのジェノサイド認定
 トランプ政権の国務長官であったマイク・ポンペオは新疆に対する中国政府の対応をジェノサイドと認定している[31]。ではそこに書かれている事実は何かというと、「入手可能な事実を慎重に検討した結果」であり、引用すら記載は無く、具体的には何も提示されていない。また、ジェノサイドに関する表現は「信じている」「私は判断した」であり、断定しない表現が目立つ。

 加えて、中国政府の新疆弾圧の目的にも一切触れられていない。中国政府がウイグル族の過激派を取り締まる事に理由が有るが、一般の数百万人ものウイグル族を弾圧する理由が分からないし、ジェノサイドと騒ぐ勢力からもその理由を聞いた事が無い。
 
 そして、弾圧の内容として「100万人以上の民間人に対する恣意的な投獄 、強制不妊手術、強制労働、宗教の制限」等が上げられているが、これらについては後述する。

ウイグル法廷
 ウイグル法廷とは世界ウイグル会議(WUC)が依頼した民間法廷である。この法廷には、ウイグルに関して批判的な主張を行っているゼンツやASPI、CSISのメンバー、強制収容所への収容、強制避妊の証言者達が一堂に会した。

 そして、この法廷でもジェノサイドが認められ、「英民衆法廷、ウイグル人権侵害をジェノサイドと認定 習氏も追及:産経[32]」と言った報道が日本でも行われた。この見出しを読めば誰もが既にジェノサイドが有ったのかと思うだろうが、判決は組織的な殺戮は無いと判断しているのである。即ち、ネットで大量に流れて来る中国の新疆での大量虐殺が無い事を、世界的な反中国勢力が自ら認めているのである。そして、実は判決でジェノサイドと言っているのは、家族計画が将来的なジェノサイドになるというロジックであるが、これも筋違いである事は人口の章で説明する。

 結局、新疆のジェノサイドは誰も証拠をもって証明していないのである。

② 強制収容所
 新疆の職業訓練センターを強制収容所と呼び、しかも数百万人が収容されているというプロパガンダが広く信じられている。新疆のウイグル族の人口が1200万人の内数百万人が収容されているのに、未だに一人の収容者も発見されていない事がすべてを物語っているが、このプロパガンダの出所とその根拠について調べた。

 詳しくは、「新彊ウイグル問題の一連の資料を整理する」[33] に詳しく記載しているが、要点は fig.4、fig. 5 にまとめてある。例えばCHRD等は8人の証言に基づいて100万人と推計しているが、あり得ないくらい雑な推測である。そして、他にZenzやアムネスティ、WUC等が数十~数百万人が拘束されているとするが、根拠と言える程の確度の高い情報を用いている主張は無い。

fig.4 新疆の強制収容所100万人拘束説の出所 ①
fig.5 新疆の強制収容所100万人拘束説の出所 ②

③ 弾圧

新疆文書
 ウイグル法廷に新疆文書という書類がZenzにより持ち込まれ、新疆の弾圧は習近平の関与が有ったとの報道がなされた。例えば、産経新聞の『ウイグル人権侵害 「容赦するな」習氏の関与、文書で証明 英民衆法廷』[34] である。
 この持ち込まれた文章というのは、まさに2章で取り上げた第2回中央新疆労働フォーラムの習近平の演説そのもので、その要約は政府のHP等で公表されているのだが、全文はどうもあるレベルの高官にしか公開されていないらしく、それがZenzの手に渡ったと言う事らしい。Zenzによって入手された流出文書は捏造の場合が多く、必ず中国政府が反論しているが、この文書に関しては反論が無いので本物ではないかと考えている。
 但し、『「容赦するな」習氏の関与、文書で証明』というタイトルは正しくない。まず、習氏の関与という部分だが、新疆問題を中国攻撃の材料にしか考えていない人達にはやはりジェノサイドは習近平の命令かとなる訳だけれど、そもそもこの文章は習近平の新疆政策に関する演説であり、また兪正生が「すべての地方自治体と各部門がそれぞれの現実を踏まえて具体的な実施計画を速やかに策定し実施すべき」と言っている事から関与は当然である。
 しかし、Zenzはさすがにその事は分かっており、彼のロジックは以下である。

習近平の「不法犯罪を犯した者は逮捕され、処罰されるべき者は処罰されるべきであり」という呼びかけが、陳全国の「検挙すべき者は検挙する」という超法規的収容施設への要求へと論理的に発展したことを理解する事は難しくない。流出したファイルや公開されているその他の政府記録では、「一網打尽にすべき者を一網打尽にせよ」という命令が再教育施設に関する命令と組み合わされている例がいくつかある。

新疆文書 No.2

 犯罪者は処罰される事は当然であるにも関わらず、再教育施設を根拠も無く「超法規的収容施設」として習近平が強制収用を命令したとしているのである。ついでに言えば、この部分に有る「理解する事は難しくない」「示唆する」という表現がこじつけである事を示している。

 ウイグル法廷と新疆文書については『「ウイグル法廷」~誰も殺さないジェノサイドとは?~[35]』で詳しく解説している。

 以上見てきた様に、新疆においてテロが頻発し、中国政府が厳しい取り締まりを行う事でテロを撲滅する事に成功した。勿論厳しい取り締まりが行き過ぎる事は監視しないといけないが、その結果としてジェノサイドは有ったのだろうか。WUCが依頼したウイグル法廷では大量虐殺の証拠は無いとし、ポンペオも何ら証拠を示していない。そして、実はZenzやASPIも大量虐殺については言及していない。即ち、ジェノサイドについて客観的な根拠は示されていないので、ジェノサイドが有ったとは考えられないという事である。

 しかし、ウイグル法廷はジェノサイドと言う言葉を無理やり残し、ポンペオもジェノサイドという言葉を使うことで、ジェノサイドと言う印象的な言葉が独り歩きし、多くの人がその事実を確認することもなく枕詞の様にジェノサイドをいう言葉を使っているだけである。その証拠に具体的に殺された人の人数や場所、状況を説明する人など一人もいない。

引用

[1] : President Xi stresses Xinjiang's stability vital to whole nation; GlobalTimes ; 2014-5
[2] : 第2回中央新疆労働フォーラムで重要演説を行った; 中華人民共和国教育省; 2014-05-30
[3] : 第二次中央新疆工作座谈会在京举行; 中央政府ポータル; 2014-05-30
[4] : 《新疆的反恐、去极端化斗争与人权保障》白皮书(全文); 中华人民共和国国务院新闻办公室; 2019-03-18
[5] : 推进新疆社会稳定与长治久安新战略; 社会科学文献出版社; 2022-12-16
[6] : Fighting Terrorism in Xinjiang (閲覧注意): CGTN ; 2019/12/12
[7] : 外務省 海外安全ホームページ;外務省 ; 2023年04月11日
[8] : 新疆攻撃、海外で訓練を受けたテロリストが首謀:政府; GlobalTimes; 2011 年 8 月 1 日
[9] : 新疆のテロリスト、シリア、トルコで訓練と支援を発見; GlobalTimes; 2013 年 7 月 1 日
[10] : 新疆聖戦がシリアを襲う; GlobalTimes; 2012 年 10 月 29 日
[11] : 世界的な反テロ課題は新疆ウイグル自治区を見逃してはなりません;
[12] : 世界ウイグル会議は中国を分裂させる上で重要な役割を果たしている; GlobalTimes; 2019/12/16
[13] : 中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移; 中国問題グローバル研究所; 2023-08-06
[14] : 新疆暴動の背後にレビア・カーディルがいることを示す証拠; GlobalTimes; 2009 年 7 月 9 日
[15] : 新疆における職業教育と訓練; 中華人民共和国国務院新聞弁公室; 2019年8月
[16] : 新疆ウイグル自治区、住民保護のため元兵士を雇用; GlobalTimes; 2014 年 11 月 28 日
[17] : 新疆の学校や幼稚園には警備員が必要; GlobalTimes; 2010 年 12 月 8 日
[18] : 高官、新疆でのテロとの戦いにおけるテクノロジーを強調; 新華社; 2017-08-28
[19] : 四国军队反恐合作协调机制会发表联合声明; 人民網; 2016年08月05日
[20] : 中国関連の人権問題に関するさまざまな謬論と事実・真相; 中国駐日本大使館; 2020-07-08
[21] : 新疆ウイグル自治区で水曜日のテロ攻撃で2人死亡; GlobalTimes; 2016/12/29 
[22] : 新疆で監視技術が成長、テロ対策に必要; GlobalTimes; 2018/7/2
[23] : 新疆ウイグル自治区、違法過激オンラインコンテンツ事件7件を摘発; GlobalTimes;2017/2/14
[24] : 新疆ウイグル自治区、1年にわたる激しい弾圧で181のテロ組織を摘発; GlobalTimes; 2015/5/26
[25] : 警察、新疆テロリスト容疑者を殺害; GlobalTimes; 2015/7/14
[26] : 新疆ウイグル自治区でテロ罪で45人に判決; GlobalTimes; 2015/8/28
[27] : 新疆ウイグル自治区の北京での新疆関連問題に関する最初の記者会見の書き起こし; 在アメリカ合衆国中華人民共和国大使館; 2021/07/23
[28] : シリアで表出するもう一つの「ウイグル問題」; 髙岡豊; 2020/7/14
[29] : シリアで中国ウィグル系のトルキスタン・イスラーム党が火力発電所を破壊、M4高速道路以南放棄の前兆か?; 青山弘之; 2020/5/7
[30] : 中国封じ込めというパラダイムをアル=カーイダとの「テロとの戦い」が続くシリアに持ち込む米国; 青山弘之; 2020/12/9
[31] : Determination of the Secretary of State on Atrocities in Xinjiang; MICHAEL R. POMPEO; 2021-1-19
[32] : 英民衆法廷、ウイグル人権侵害をジェノサイドと認定 習氏も追及; 産経新聞; 2021/12/10
[33] : 新彊ウイグル問題の一連の資料を整理する; yota8 ; 2022年1月1日
[34] : ウイグル人権侵害 「容赦するな」習氏の関与、文書で証明 英民衆法廷; 産経新聞; 2021/12/25
[35] : 「ウイグル法廷」~誰も殺さないジェノサイドとは?~; yota8 ; 2022年8月18日


Appendix

すべてではないが、新疆のテロ事例を以下に示す。

新疆におけるテロ事例 ①

以上は”推进新疆社会稳定与长治久安新战略、社会科学文献出版社”より引用。

新疆におけるテロ事例 ②

以上はGlobalTimesより引用。


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