見出し画像

川瀬巴水『旅と郷愁の風景』展が最高だった

2月中旬頃に崖から転げ落ちる勢いでハマってしまった新版画の川瀬巴水 かわせはすい
「いま展示やってるのかーでも香川は流石に無理や…」とその時は断念。
太田記念美術館とかにも版画あるそうだから行きたいなと思っていたら、
なんと近く(車人間の「近く」は信用してはいけない)の
八王子市夢美術館で4/5〜6/2まで開催すると教えて頂いて!
2024年4月6日(土)に行ってきました!!!
巡回展示だったーーやったーー!!
図録も分厚い。これで2530円???
後述の展示感想で付記してある図録番号はこれ↓が参照元です。

見たことないのもたくさんあったので場所によって展示ラインナップは違うんでしょうな
ほぼ展示順だけど違う所もある。というか掲載No.も入れ替わってる所がある

ちなみに巴水が暮らしていた大田区、ホームページ内に
『川瀬巴水 学芸員コラム』ってのがあって異常に詳しいので知りたい方はどうぞ。いや何この熱量?
あとどうでもいいけど「"大"田区」なのに「"太"田記念美術館」ややこし。



★川瀬巴水(かわせ・はすい)って誰?

川瀬巴水(かわせ・はすい) 1883〜1957(明治16〜昭和32年)74歳没
本名は 川瀬 文治郎(ぶんじろう)。
大正から昭和にかけて活躍した木版画家。
浮世絵の中でも多色刷り(錦絵)の技術を継承し復興させるために版元の渡邊庄三郎氏が推進していた「新板画」運動をともに歩む。
好きなものは旅行!と言い切るほど旅好きで「旅情詩人」とも称される。
海外でも人気が高く、浮世絵師の葛飾北斎・歌川広重と並んで「3H」と呼ばれていたりする。
スティーブ・ジョブズも巴水の絵を好んでコレクションしていた。

「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」チラシおよび図録等より

いや待って図録の説明読んでて初めて気付いたけど、
当初は「板」にこそ創意工夫の原点があるってこだわりを持って
「新""画」って呼んでたのか、渡邊庄三郎氏。
知らなかったそんなの・・・ごめん普通に新版画って言ってた。
まあ今は版画の方で通ってるので「新版画」って呼ぶね。

その新版画で風景画をおもに描いてたのが川瀬巴水。
旅好きを公言するだけあって色んな場所へ行って写生したものを版画にして・・・って事で趣味と実益を兼ねてるな。
実際、風景の捉え方がすごい上手くて、でも浮世絵っぽい大胆な構図も持ち合わせていてめちゃくちゃ好き。
色使いもめちゃくちゃ好き。
特に青系の色の使い方が好みすぎる・・・巴水ブルー、超好き。
個人的に、推しの絵は悩みつつも「牛堀うしぼり 」を挙げるくらい美しい。

1930(昭和5)/「牛堀」
色使いとグラデーションと透明感と、シン…とした空気感に一目で惹かれた

浮世絵時代だと巴水くらい後半でも著作権が切れてるから絵を使っても合法なの有難い。
上画像は国立国会図書館のNDLイメージバンクからDLさせてもらいました。
浮世絵検索にもたくさん載ってるのでそちらも活用させてもらいます。
ちなみにこの本↓でも表紙に使われてる(図書館で借りた)

いやちゃうねん展示の話をしようとしたのに巴水の説明でこんな長くなるとは思わなかってん
とにかく!なんだかめちゃくちゃ好みに合う絵を量産されてるので是非現物を見たくて行ってきたんだけども、想像以上に良かった。最高だった。

★川瀬巴水『旅と郷愁の風景』展

どうやら数年前からこの企画の展示を巡回でやっていた模様。
ハマった時期にあわせて近くに来てくれた感がある。なんという。
しかも八王子市夢美術館、展示が900円なのに年パスが1400円っていうどう見てもバグってる金額である。
2回行けば元取れてしまうの意味分からんな。逆に心配になる。
車だと大通りから裏手に回って地下駐車場へ。
機械収納式なので誘導してもらって降りて受付してもらう。
受付のおじいさん?めちゃくちゃ親切だった。
どこ行くのか聞かれて道案内と、割引あるよって言ってくれた。やさしい。
上限600円で、夢美受付で100円割引してもらえるので500円。

ほぼ10時についたので開館と同時くらいに入れた。
年パス申し込んで名前と日付を記入してカードをもらう。
戻ってくる100円ロッカーが入り口左側にあるので手ぶらで見られる。
順路は右の壁づたいに奥まで行って戻ってくる感じ。大体年代順。

★展示感想(絵もあるよ)

言うまでもなく、なにが展示されてるかのネタバレ?にはなるので現地で新鮮な気持ちで味わいたい、という人は回れ右でお願いします。
さて、展示は最初に作成された塩原三部作から始まる・・・んだけど、
1枚目でその立体感にビビった。

以下、版画画像とその下に補足
⚫︎キャプション1行目(振り分け番号/制作年/図録No./「タイトル」)
⚫︎キャプション2行目以降(感想や気付いたこと)

①1918(大正7)秋/ 1「塩原おかね路」
最初から変則的な縦長の形。絵が浮き上がって見えてびっくりした

画集でもだいたい収録されてるし、何度も見てはいたんだけど
実物見ると存在感が違った。
事前に浮世絵の立体感について動画↓を見ていたけど・・・

実際見てみると思った以上に浮き出てくる感覚なのが衝撃だった。

・・・という風に初っ端から度肝を抜かれた訳なんだけども。
そんな衝撃がひっきりなしに来まして。
全部まとめるとえらい事になるんで絞って・・・絞れる・・・?
と疑問を抱きつつ、さくさく行きましょう。
ひたすら画像と感想を羅列。

②1919(大正8)/ 8「塩原あら湯路」
雲が浮き出てる!?!?って最初に思ったもの。もこもこ


③1920(大正9)初秋/ 17「若狭久出 わかさくでの濱」
刷りの手順でよく収録されてるもの。34刷りも重ねている。実物だとより細かい色合いが見える


④1920(大正9)秋/ 20「秋の越路えつじ
画像では見えにくいけど現物だとワラの黒っぽい所1本1本が細すぎる


⑤1920(大正9)/ 44「池畔ちはん 客室の雪 」
画像では取り込めないけど現物だと赤丸つけた辺りとかにホワイト乗せたような雪のつぶが見える


⑥1921(大正10) 2月14日/ 54「大阪道とん堀の朝」
線画を大胆にカットして霞みがかってる雰囲気を出してるし色が綺麗


⑦1921(大正10) 9月2日/ 71「金澤下本多町かなざわしもほんだまち
凄くアニメっぽい印象。木の葉っぱのもこもこ具合が想像以上の存在感


⑧1922(大正11)/ 94「尾道千光寺の坂」
これも画像では取り込めないけど見る角度を変えると雪の所がキラッキラしてる。雲母摺(きらずり)って技法かな?


⑨1923(大正12)/ 99「京都鴨川の夕暮」
画像ではつぶれてるけど着物の柄めちゃくちゃ細かくて綺麗


⑩1925(大正14)/ 110「木曽の寝覚ねざめ
紅葉が点描アートみたいだし白く見える所が白じゃなくてうっすら肌色?ピンク?入ってた


⑪1924(大正13)/ 117「出雲松江(おぼろ月)」
出雲3部作(差分みたいな感じ)の内の1つ。それぞれ良いけどこれは雲が立体感あって遠近感出ててホントに月が隠れてるみたいだった


⑫1924(大正13)/ 134「出雲美保か関みほがせき
空を線画で表現してるし山は点描アートみたいだしで面白い表現だった


⑬1924(大正13)/ 128「周防錦帯橋すおうきんたいきょう
これもアニメっぽい。線画の周りにドロップシャドウ入ってる感じだったり石垣?1つ1つに影入ってたりで平面と立体の組み合わせ感で存在感がある


⑭1926(大正15)/ 140「男鹿半嶋龍ヶ嶌おがはんとうりゅうがしま
実物はもっと夕日の赤が強くて明暗のコントラストが凄かった


⑮1924(大正13)/ 131「加賀八田かがはった
虹が、アクリルガッシュで白塗った上に色乗せました感あるんだがどういう作り方してるんだろう


⑯1924(大正13)/ 132「白馬山より見たる朝日ヶ獄あさひがだけ
画像でもなんとか分かると思うけど雲の線画がエンボスになってる。
インクの出ないボールペンで引っ掻いたような感じ。空摺(からずり)って技法かな?(後述)


⑰1933(昭和8) 7月/ 200「十和田子之口とわだねのくち
メインをここまで手前に持ってくる大胆な構図と、遠くのものは完全に立体感をなくして遠近感出してる対比が凄い。色合いも綺麗


⑱1933(昭和8) 8月/ 214「京都知恩院」
こんなに寄ってる構図にするのがまず凄い。覗き見てるような感じと明暗の対比で臨場感が出てる


⑲1943(昭和18)/ 233「紀州瀞きしゅうどろ
画集で感じたより更に迫ってくる迫力。水の色も綺麗だしこの辺になってくると紙質も良いなと感じる


⑳1935(昭和10)/ 242「芦ノ湖の夕富士」
画集ではそこまで気にかからなかったけど実物は見た瞬間にうわーってなったし
遠目から見ると写真じゃないリアル感で凄い不思議な感覚だった。
展示は特にこの辺からの完成度がえげつなかった

㉑1935(昭和10) 夏/ 245「つつじ庭より富士を見る」
めちゃくちゃ色が鮮やか。1番華やかな絵かも。富士山も綺麗だし花の色合いの違いがうまい


㉒1939(昭和14) 8月/ 248「金剛山三仙巌こんごうさん さんせんがん
元々好きだったけど実物の存在感よ。
線画の周りにドロップシャドウみたいに影がついてるからか浮き出てる感じある


㉓1940(昭和15)/ 256「朝鮮智異山泉隠寺ちいざんせんいんじ
現地の発音は「チリサン チョヌンサ」らしい?知恩院と同じく、明暗によってその場にいるような臨場感が出てるし、はりを線画じゃなくて上を明るく下を暗くしてる色の差で浮き出して見せてる


㉔1940(昭和15)/ 260「朝鮮平壌牡丹台へいじょうぼたんだい
これも絶対スキャンできないし印刷に出ないけど雨が銀色っぽい。枠にも色が乗ってたので後で足してる感じ。金銀摺りって技法かな?


㉕1950(昭和25)/ 262「The Japan Trade Monthly表紙(No.68)」
海外の雑誌の表紙。浮世絵にサンタ登場。
何気に白と青と赤の比率の組み合わせで色のバランス取れてるの凄い


㉖1952(昭和27)/ 267「Lake Towada」
1953年11月のカレンダー用の絵。紅葉がめちゃくちゃ色鮮やかで画面に立体感があった


㉗1933(昭和8)/ 273「上州法師じょうしゅうほうし温泉」
左の湯気を空摺りでやってるというのは事前に知ってたので、これが!と注目して見たけどやっぱ他の絵の雲のエンボスとかもこの技法な気がする

ちなみに空摺りで検索したら分かりやすい記事が!↓
と思ったら太田記念美術館さんで笑ってしまった流石である。

㉘1937(昭和12) 6月/ 277「西伊豆木負きしょう
今回のチラシにも使われてるけどモチーフが富士山と桜で大正義だし構図の配置の完成度ときたら
グッズでしおりになってるけど、縦長にしても凄い収まりが良いの流石

↑は塗り絵もあったのでやってみたけど、うん、無理!!!

★感想の感想

・・・終わったーーーーーーーーーー!!!!!!
っていうより終えたって感じ。
好きなのとかはまだまだたくさんあるけど、
あくまで「衝撃を受けた」「発見があった」のに絞ってみた。
それでも多いけど・・・いやしかし眼福でした。
個人の感想すぎるから間違ってる所もあるだろうけど現時点での知識と感性ということで。

あと版画の特性上、版によって色合いとか雰囲気が違うから
同じ絵でも実物と図録で違ったりするので、
ここが良いんだよ!って言っても全く同じものを見た人同士でないと共有できないのがなかなか難しい。
まあその分、同じ絵柄でも新鮮に楽しめるところもあるだろうけど。

そしてどの年代も良いんだけど、晩年の円熟期の辺りがまーーじで眼福でした。
遠目でぐるりと見渡した時のあの臨場感というか空気感というかリアル感。
なんと表現していいか分からないけどめっちゃくちゃ感激した。
あれは画像だけでは味わえない感覚だったので行ける人は是非とも経験してほしい。
もちろん人によるとは思うけど自分はすんごく心にきた。

あと最後にスティーブ・ジョブズのミニコーナーが。
ジョブズも巴水を好んでコレクションしてたんだよっていう説明とか。
巴水ではないけど、橋口五葉の「髪梳ける女」もあって、髪の1本1本の細かさがエグかった。彫師の技術どうなってんだ。

橋口五葉「髪梳ける女」
画像では完全につぶれるタイプの細かさ

★その他気付いた事とか

・影の付け方が凄い乗算レイヤーで入れたみたいに見える
(版画の仕組みからして実際そんな感じなんだろうけど)
そのおかげで色の統一感と深みと立体感が出てる気がする

・遠くの風景は逆に凄く平面的にしてて、グラデーション1色だけだったりで質感をなくしてる

・明暗に凄い差をつけてるのが多い
暗闇の中の光とか、眩しいと錯覚させられる
明るい所にスポットライトが当たってるみたいに注目させられる。↓とか

1952(昭和27)/ 「野火止平林寺のびとめへいりんじ
図録巻末に制作工程の一部があって段々出来上がるのが面白い

・水辺を描いてる作品が多く、水面に映ってる描写が凄い上手い

・大胆な所は潔く、細かい所はめちゃくちゃ細かい。よくこんな線描けたなそして彫れたなって思う

・星が★の形になってるのがあってなんか可愛かった

・美術館入り口付近で流してる14分くらいの動画、これ↓の一部だな
(ナレーションは入っていなくて字幕だけ)(当然英語ではないが)
写生の模様辺りから刷りまでをコンパクトにまとめてる感じ


★落款のデザイン

あとサイン下の落款らっかん的なのがちょいちょい変異してて面白い。
画集見てた時は全然気に留めてなかったけど、実物見て、へえーって気付いて注目してみると面白かった。デザインセンスー!!
雑で申し訳ないけど大体こんな感じの形。
年代含めてざっくりの確認と推測なんで、なんとなく程度で。
同じ形でも手描きだったりリニューアル?でちょこちょこ違ってる。

使用年代:1918〜1920くらい
たぶん「水」をデザイン的にしてるんじゃないかな!
使用年代:1920〜1921くらい
なんの図案だろうと思ってたら「川セ」(右始まり)か!!!
使用年代:1920のみ?
1番使用頻度が少ない。「巴水」の象形文字的な感じ
使用年代:1922〜1923くらい
これも「川セ」だ。形といい書体?といい普通に認印でありそうな感じ
使用年代:1923〜絶筆まで
1番長く使われてた。家紋みたいだなーと思ってたら・・・これも「川せ」じゃん!
ひらがなだけど!だいぶデザイン振り切ってるけど!!
使用年代:1939くらい
朝鮮の絵のみに使用。これも「巴水」の象形文字っぽい感じ

とまあ、本当に情報量が多すぎてめちゃくちゃ長くなりました。
いやでも健忘録として記録しておきたかった・・・頑張った。
自分は一応絵を描いてる事もあってそういう目線でも見るけど、
純粋に絵の鑑賞対象として凄く良いので、ちょっとでも見てみたいかもと思ったら是非!GO!!
画集とかではあんまり気にならなくても実物を見ると「えっ!」と思うのも多かったので、本当見てみないと分からないもんだ。
こういう経験をするとやっぱ実物って・・・強いな・・・と思う。

本当に、行って良かった!!!!!!
と心から思える企画展だったのでとても充実した1日を過ごせました。
巡回有難うございます!!!あと数回は行く!!

川瀬巴水、今までの人生で1番好みなアート作品を生み出してくれてる画家さんなので感謝しかない。
生まれて初めて絵を飾りたいと思った。QOL爆上がりしそう。
美術館で売ってる複製版画とか、手が届かない値段だけども眼福だった。
「河口湖」とかめちゃくちゃ美しい。(↓2枚目にチラッと写ってる)


さて、記事長くなっちゃったので改めて、
川瀬巴水 旅と郷愁の風景
 
八王子市夢美術館2024/4/5(金)〜6/2(日)の期間で開催してます。
行って損はない!パワーを感じてくれ!

ちなみに当日に音声でも感想を話してたりします。
テンションを感じたい人はどうぞ。

長々と語りにお付き合い頂き(頂いてるのかこれ・・・?)有難うございました!お疲れ様でした!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?