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「り」は離婚の「り」

僕には6歳の息子がいる。
「いる」と言ったが法律上の親権はないし、扶養家族でもない。
3年前、僕は彼の母と離婚をした。

ただ今となっては息子は隔週で僕の家に泊まりにくるし、元妻と3人で食事もよくいく。さらには年に2回、元家族旅行というイベントすらある。彼の母との関係は良好だ。ただ離婚をしているだけで。

でも先日、保育園の参観日で「小さな事件」があった。今日はそんな話。

少しセンシティブな話を含みます。気分を害する人がいたら申し訳ありません。

■離婚を子供に説明する?

データによれば、1〜4歳の子供に離婚を説明する親は約半数。
説明しない理由としては「まだ小さいし、説明してもわからないから」が多く、実際、子供の年齢が上がるにつれて説明する割合も増える。

離婚当時、息子は4歳になる手前。僕も説明すべきか悩んでいた。

すると(僕の)姉が「きちんと説明するべきだ」と主張しはじめた。心理学を専攻し、家庭調査官として家庭裁判所で多くの子供、家庭と接してきた姉曰く「親からきちんと説明がないと、子供は自分を責める。『君のせいではない』と教えることが大切。」とのこと。

実際、離婚に対する子供のケアが進んだアメリカには子供に離婚を説明する本もあるらしい。

僕は子供にどう説明するか考えはじめた。

■パワポで離婚を説明

口で説明してもわかるだろうか?悩んだ僕はパワーポイントで子供でもわかるようにと資料をつくった。今思えば、これが仕事以外でパワポをつかったはじめての体験だったかもしれない。

これまで彼の周りで起こっていたことを説明し、離婚は彼のせいではないこと、一番大切なのは「なかよし」であること。それを伝えようと思った。

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ちなみに全体の資料はこちら(実際は顔写真が入っていたので少し加工してます)

説明を終えると息子は「少し悲しいお話だった」と言った。事実は理解してくれたようだ。そしてこれが、彼に初めて離婚という言葉が刻まれた瞬間だった。

■参観日での事件

そんな説明から数年後、保育園の参観日で小さな事件があった。

小学校に向けた勉強の様子を見学する参観日。
「あ」のつく言葉、「か」のつく言葉、など生徒が一人ずつ先生に当てられて答える場面だった。
息子の順番がきた。お題は「り」のつく言葉。

彼は元気よく

り こ ん !


と答えた。

「りんごを言い間違えたのではないのか?」と戸惑う空気が半分。(事情を知ってか)苦笑いを堪える空気が半分。それを察した僕はとっさに「おもしろいよー!」と息子に声をかけた。教室に少しだけ笑いがおきた。

すると彼はこっちを向いて僕たち両親に満面の笑みを返した。
僕も元嫁と二人で笑った。

■謝らないでほしかった

休憩時間に入ると、保育士の女性が血相を変えて僕たちのところに飛んできた。

「あんなこと言わせてしまって、申し訳ございませんでした」

息子の担任は言った。

「全然いいですよ、気にしないでください。」
たぶんそんな返答をしたと思う。でも内心は少し複雑だった。

「り」のつく言葉、と聞かれて林檎よりも先に離婚が思いつくように息子に植えつけたのは僕だ。でもそれは僕なりに真剣に考えて伝えたことだし、きっと息子はそれを数年かけて少しずつ受け止めてきた。大人が受け止めるよりも、数十倍はしんどい作業だったと思う。
だから公の場で口に出せるようになったのは、笑えるようになったのは、彼の中で少しだけ消化できた、ということだ。

だから、それを間違ったことにしないでほしかった。

謝らないでほしかった。

■負担をシェアできる世間に

保育士さん(とてもいい先生です)の謝罪発言から感じるのは、まだまだ離婚は世間的に「隠さないといけないこと」という意識だ。
でも「隠す」ということは、誰かの心の中に「溜め込む」ことを強いることにもなる。

確かに離婚を隠して、幸せな家族像だけ描いていれば世間は(一見)きれいそうに見える。しかし世間をきれいに保つために、その負担を個人の心に押し付けることが豊かな社会だとは思えない。

離婚だけじゃない。これまでタブー視されてきたことを隠さずに話せる世間の空気感をつくるだけで、個人にのしかかる心の負担はみんなでシェアすることができる。それが「これからの世間」であればと切に願う。


「り」は離婚の「り」だって、いいじゃないか。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

偉そうに書きましたが、それでも僕は今も離婚を正面から伝えたことが本当に正しかったのか悩むことがあります。しかしそれは僕と息子、そして彼の母と協力してこれからの関係で証明していくしかないと思います。

まずは来週、卒園を迎える息子に「おめでとう」と伝えます。


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