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【読書感想文】『進化思考』(太刀川英輔)

久々の良書なので、ぜひご紹介を。

デザイナー太刀川英輔氏が紐解く、生物の進化とデザインやプロダクトの進化との相関性。そして大きなテーマ『天才は創れるのか?』…創造性をいかにして育てていくかという未来へのバトン。


■天才は創れるのか?


レオナルド・ダ・ヴィンチ、ライト兄弟、スティーブ・ジョブズ…。人々は彼らを「天才だ」と羨む。

それと同様に「キリンは(首が長くて)食べ物に困らなくいいなぁ」と羨む。ライオンは強くていいなぁ。白熊は北極でも寒くなさそうだなぁ。この花はきれいだなぁ。納豆菌は宇宙でも生きていけるらしいから、地球が爆発し納豆菌は生き残れるなぁ、と。

動植物や細菌を『天才』と呼ぶのには無理があるかもしれないが、『天才』と言われた人々にも、逞しく生きる他の生物にも、共通しているものといえばその『創造性』であり、その『進化』ではないだろうか。

動植物は長い年月をかけ『進化』をしてきた。ひとりの人間の一生なんてたかが数十年~百年以内と短い時間ではあるが、その中で創造性を膨らませ、思考を進化させ、そして後世に残るデザインを創り上げてきた。そんな人を人は『天才』と呼ぶ。

この本は『天才』そのものや天才が創り出したデザインはどのようなエッセンスで成り立ってきたのか、そのヒントを、あらゆる生物の『進化』と絡め、体系的に紐解いてくれる。

■創造性のヒントは『変異』と『適応』


変わっていること・異なっていることを、人は「エラー」だと決めつける。情けない。

赤子は皆、(大人と比べ)変わったことをするし、異なったことをする。その中で傷みや喜びを感じ、成長していく。『変異』を否定し、成長はない。進化なんて毛頭ない。

ただ、変わった考えや異なった行いをしているだけでは何も創造できていない。『天才』はこれを社会に『適応』させ、成立する。


Q.空を飛ぶ必要性が果たして人類にはあっただろうか?

それは当初は”変わった考え”として周囲にバカにされ、変人扱いされたに違いない。地上にこんなに食べ物があり、家があり、友がいるのに、どうしてそんな危険な思いをして空を目指すのだろうか?と。死にたいのか?と。
だが、空を飛ぶことによって、海や山を越えての移動が容易になり、遠くのものを入手でき、ここで作ったものを遠くで売ることができるようになった。「物流」や「新しい商機」が生まれた。
『変異』なことを社会に『適応』させて初めて、人々はそれを『天才』だと認める。


電気自動車の最初の特許は、なんと1835年らしい(!)
技術が確立されたとしても、当時は必要なリチウムイオン電池の大きさが巨大だったことや、強大な石油チームのロビー活動に大敗し、見向きもされなかっただろう。
しかしそこから200年弱も経った今、地球温暖化や気候変動による脱オイル志向の高まり、電池のコンパクト化などの技術革新により、電気自動車はやっとこさ脚光を浴びてきた。外部環境による『適応』のタイミングのというものもあるようだ(←こういう事例がたくさん載っているのも読んでいて楽しい)

『変異』と『適応』の両輪こそ進化への創造性、天才を産み出す装置なのだ。


■デザインは愛だ。

筆者(太刀川英輔氏)はデザイナーだ。
大学では建築専攻だったそうだが、現在そのデザインの領域はプロダクト、グラフィック、空間、発明と多岐に渡る。

『変異』を”父的”(=パワー)だとしたら、『適応』は”母的”(=愛)であり、その両立を図るデザインこそ世の中には必要だと筆者は言う。


原爆を発明をしたフォン・ノイマンというアメリカ人数学者はコンピューターの発明者でもあった。コンピューターという『変異』(パワー)が、誤った方向に適応されてしまった結果が原爆だ。そこに愛はない。現在も人類は原爆という変異(パワー)をどう扱っていいかわからず迷走し続けている。愛を持てずにいる。

電話にパソコンをくっつけたiPhoneには、その中身の複雑性とは異なり、誰もが容易に手に取れる洗練されたデザイン=適応への愛があったから、世界中で受け入れられた。
しかしそのプロダクトも、人々に依存や憂鬱を生み、段々と"愛"のあるものと言えるのか疑問になってきた。次なる愛のあるプロダクトへの進化が望まれる。このままではスマホは原爆のように人々を不幸にする発明となるかもしれない。
進化が終わることはないのだ。


■「コンセプト(Conception)」=「受精」


何かを創造する上でよく使われる「コンセプト:考え・概念」という言葉。英語での別の意味に「受精」というものがある。
この「デザインの概念=コンセプト」と「受精」の類似点への筆者の訴求が、僕はもっとも興味を引かれた。


私たち人類は「有性生殖」であり、オスとメスの”対”が必要であり、その「受精」によって種を増やすことができる。

しかし世の中には「無性生殖」の生き物も存在する。オスもメスもない。”個体”だけで繁殖が可能な生物。


効率だけでいったら「無性生殖」の方がいいに決まってる。

有性生殖の生き物は個体だけでは滅びる。様々な危険が待つ野に出て、求愛行動をし、パートナーを見つけ、受精に成功しなければいけない。もちろんそれができずに途中で息絶える個体も多数いる。
それはとてもとても非効率なこと。

しかし地球上には有性生殖の生き物のほうが多い。なぜか?

それは有性生殖の方が『”エラー(変異)”が発生しやすい』から。


無性生殖では似たような個しか産まれてこない。他の個と一切交わらないから当然だ。遺伝子情報も似たようなものだろう。クローンのようなもの。

しかし有性生殖では、個体は他の個体と交配(受精)し、二人の要素を持ったり、親が持っていなかった全く別の遺伝子情報を持った新しい個が生まれる。そこには変わった個・異なった個も生まれる。しかしそうした『変異した個』こそ、激変する次時代への『適応』のヒントを持っているかもしれないのだ。人はこの個のバリエーションを『多様性』と呼ぶ。

今の日本の教育システムや社会システムは残念ながら『変異した個』を産まない。『無性生殖』のような状態に陥っている。同じ場所から出ようともせず、ただひたすらにクローンを作り出し満足している。
だからこそ新しいコンセプト(受精)は生まれない。多様性にも乏しい。新しいデザインだって。


言葉を選ばずに言えば”国際結婚”(死語?)なんかは新しいデザインへの『コンセプト:受精』と呼ぶわかりやすい例ではないだろうか。異なる種が混じり合い、これまでにない個を産む。
それを過去には、単なる”変異:エラー”と片付け、「あいのこ」「ハーフ」などと差別・排除の対象となった。残念ながら今もその視点を持つ人間は確実に存在する。※「あいのこ」差別がわかるおすすめの小説→『非色』


時代は移り、今は「ハイブリット」が必要とされる社会。オイルと電気。官民一体。男女まじえての出席番号。でしょ?

たまたまとはいえ、二つの言語や価値観を得たその個は、次の社会をデザインする力を持っているかもしれない。




僕なんか”error"の申し子だ。

ヘテロセクシャルの父と母の間から生まれてきたホモセクシャルという”error”。その他にも私の持つ”error”要素を挙げたらきりがないかもしれない。

重箱の隅をつつくような大学受験の意味がわからなくなり、勉強を放棄し、新聞を読んでは小論文ばかり書いていた。親や先生にその意味を問いたが誰も納得する答えを提示してくれなかった。
新卒入社した会社では配属早々に有給休暇申請をしようとして上司にキレられた。制度があるのに使えないなんて、謎でしかなかった。
大企業に入ったがあっさり辞めた。立派に見える企業ほど硬直した思考に陥り、保身に走り、社会全体の悪化を招いてはいないかとあれだけ憂いたことはなかったし、単純に昇給昇格が僕の人生の幸福度に直結しないことを学んだ。


散々「生殖」の話をしておいてなんだが、僕は子を作るつもりはない。


ただ最近事業を始めたので、僕のerrorがうまく社会に適応し、その進化したコンセプトがどこか誰かの個体に影響できたなら、それは僕の中の変異と適応の『受精』の結果だと思う。百年後、二百年後か、もっとその先に僕のerrorのエッセンスが生きるかもしれない。その時に僕という個はもういないけど。それは人ひとりの話ではなく、常に新しい時代を生き抜く生物全体の進化の話。

新しい時代への進化思考。


New Error.

クスっと笑えたら100円!(笑)そんなおみくじみたいな言霊を発信していけたらと思っています。サポートいつでもお待ちしております。